10月10日、周囲を真新しい高層マンションで囲まれた栗東芸術文化会館さきらの野外広場を舞台に、『026─METAL』というパフォーマンスが行われた。
これは、さきら開館5周年記念フェスティバルの企画のひとつで、アーティストが約3週間にわたって栗東に滞在し、広場で公開滞在制作を行うというレジデント・プロジェクトだ。パフォーミングアーティストの丹野賢一、美術家の石川雷太、ミュージシャンのスカンクらが参加して、9月18日から一軒家で合宿しながら、この広場に想を得た、この広場のための作品を、最後は20人近いスタッフが栗東入りして創作した。
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夕方、会館に到着すると、広場には“鉄の砦”が出現していた。工事用鉄パイプ900本、黒々とした畳大の鉄板300枚、総延長3キロの鉄チェーンで組み立てられた、50メートル四方の鉄の壁。それを遠目に見たときは、「現実の人工的な都市景観の方が逆に迫力があるな」と思った程度だった。しかし、開演して鉄の壁の向こう、鉄の迷路の内側に入り込むと世界は一変。それから約1時間にわたって稀にみるパフォーマンスを目撃することになった。
この作品は、迷路の中を観客が自由に歩き回りながら丹野のパフォーマンスを見る仕掛けになっている。砦の外からではわからなかったが、迷路の内側は妖しい赤い光で満たされ、まるで“都市の内臓”に入り込んだような錯覚に襲われた。
虚構の空間である鉄の砦が命を吹き込まれ、現実の世界である都市が虚構となる“逆転の世界”──そこで丹野は、行く手にガン、ガンと落下する鉄パイプをかいくぐり、鎖でぶら下げられた鉄板に激突し、物質社会のシンボルのような鉄と格闘しながら前進する。鉄板は時に回転し、炎を上げ、まるで生き物のように人間に迫り、鉄パイプ製の山車2台が体当たりするさまはさながら鉄の祝祭だった。
公募スタッフも参加したパーカッション部隊が、砦の鼓動のように規則的に鉄板を打ち鳴らす。発展の槌音のように響いていたその音は、やがて暴力的な破壊の音楽に取って代わり、牙を剥いた鉄の砦から追われるように、あるいは新たなる天地を求めるかのように、丹野は都市の彼方へと消えて行った──。
観客は全貌を見ることができないため、私の想像力で補ったレビューだが、現場に留まっての長期の創作作業がアーティストの力を遺憾なく発揮させ、その場所でなければ実現できない作品（オマージュ）を見事に出現させていた。
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美術ジャンルでは以前から行われていたが、このところ舞台芸術ジャンルでも地域や公立文化施設が受け皿となってアーティスト・イン・レジデンスによる創作活動や交流を試みる動きが広がっている。その可能性と成果を充分に実感できた1時間だった。
しかし、この公演が実現できるまでには、かなり緊迫したやりとりがあったことも事実だ。野外公演にはつきものの“音”が問題になったのである。
本番2日前。初めて行った野外でのサウンドチェックで、予想以上の音に驚いた自治会からの申し入れで急遽対応を協議しなければならなくなったのだ。
1カ月も滞在して準備を進めてきたアーティストや公募スタッフにとっては寝耳に水だったのではないだろうか。時間が差し迫る中、公演初日、主催者であるさきらの判断で3回公演の予定を変更。観客に入ってもらった無料プレビュー1回、説明会と装置見学会1回、本公演1回としての実施となった。
こうした高度の創造性を求める作品をプロデュースすることに伴う初めての経験の数々。地域住民とのコミュニケーション、アーティストとのコミュニケーション、日常業務のシステムでは対応できない高度な判断とノウハウ、長期滞在創作を可能にするだけの受け皿づくり……。アーティスト・イン・レジデンスの可能性とともに、たくさんのハードルが見えたプロジェクトだった。
（坪池栄子）
●さきら5thアニバーサリー「さきらフェスティバル」地域滞在協働創造型プロジェクト
丹野賢一／NUMBERING MACHINE＋石川雷太『026-METAL』
［主催］（財）栗東市文化体育振興事業団、丹野賢一／NUMBERING MACHINE
［日程］10月8日～10日
［演出・構成・出演］丹野賢一
［美術］石川雷太
［音楽］スカンク
［スペシャルゲスト］羊屋白玉（指輪ホテル）
地域創造レター 今月のレポート
2004.11月号--No.115