一般社団法人 地域創造

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●構想から17年、被災地西宮に兵庫県立芸術文化センターが産声

 

  1995年1月17日の阪神・淡路大震災は、兵庫県に約45万世帯の家屋倒壊、犠牲者6400余名という甚大な被害をもたらし、被災地西宮市でも約6万世帯が被害を受けた。その西宮の一角に震災10周年の今年10月22日、兵庫県立芸術文化センターがオープンした。
 阪急西宮北口駅からペデストリアンデッキを南に向かって歩くとすぐ、ガラス越しに輝く照明の見える巨大な施設が現れる。オペラ公演もできるマホガニーに覆われた2000席のコンサートホール、黒い杉板張りの演劇中心の中ホール、礼拝堂のような趣の室内楽中心の小ホール、全面ガラスのゆったりしたロビーと、木目を活かした贅沢な空間が広がる。
 そもそも芸術文化センターの基本構想は、バブルの余韻が残る1989年に策定されたものだ。当初はマイカルの経営する商業施設、阪急のホテル、芸術文化センターなどが複合した大規模な施設として計画されていたが、震災と経営難による企業の撤退で、計画の大幅な見直しを余儀なくされる。しかし、逆に震災を乗り越えることにより、芸術文化センターは復興のシンボルとなり、建ちあがっていく様子を目の当たりにしていた西宮市民を中心に連日の大盛況が続いている。
 「オープニング事業としては来年3月までに65事業106公演を予定しています。チケット売り出しと同時に売り切れる事業が多く、追加公演している状況です。会費無料の会員制度をつくったのですが、当初目標の3万人をすでに達成し、この記事が掲載される頃には4万人になっているのではないでしょうか。その3分の1以上が西宮の方で、こけら落しの『第九』も約4割が地元と、私たちの想像をはるかに超える期待をいただいています」(事業部広報担当課長・西村拓也)。
 芸術文化センターは、公の施設の運営に民間参入が可能となった指定管理者制度を前提とした後発の大型文化施設であり、公立としての芸術振興・地域振興と施設経営の両立を目指すことが求められている。
 まず、事業面では芸術監督(顧問)制を導入し、ヨーロッパで活躍する佐渡裕を芸術監督に迎え、“顔”となる付属楽団を創設。(1)芸術監督(顧問)によるプロデュース事業、(2)楽団事業、(3)民間や新国立劇場との共同制作等による招聘提携事業、(4)ワンコインコンサート等の普及事業、を柱に“兵庫発”を踏まえた展開を図っている(ちなみに演劇では基本構想段階から関わってきた山崎正和が芸術顧問となり、92年以来、県の事業として開館までに30作品をプロデュースした「ひょうご舞台芸術」を継続)。
 なかでも注目されるのが、「兵庫芸術文化センター管弦楽団」の活動である。演奏家の育成に尽力した故レナード・バーンスタイン最後の愛弟子である佐渡が、教育的な要素をもつアカデミー型のプロ楽団を目指して立ち上げたものだ。35歳以下のプロ奏者を対象に世界13都市でオーディションを行い、最長3年の契約制でスタート(約220日拘束・年俸360万円・宿舎補助)。応募総数約920人から選ばれた13カ国48名のコアメンバーは、平均年齢27歳というフレッシュさだ。年8回の定期演奏会、室内楽コンサートなど年間90ステージをこなすほか、アウトリーチ活動に力を入れ、地域密着型の運営を行う。関西にはすでに5つのプロオケがあり、競合からは厳しい声も聞かれるが、公立楽団の新しいモデルとして期待されている。
 こうした事業に対し、運営面で特徴となっているのが、徹底した民間からの人材の登用だ。事業を統括するゼネラル・マネージャーには、朝日放送が運営するザ・シンフォニーホールで21年間企画・運営に携ってきた林伸光氏が就任したほか、音楽プロデューサー、演劇プロデューサーともに民間ホールの経験者で、広報担当課も県職員の課長を除きすべて民間企業の出身者。
 「開館記念事業は約10億円の事業費の5割をチケット収入等で賄う予定」(西村)とのことで、民間と公のノウハウを結集した新しい公立文化施設の夢にどこまで迫れるか、手腕が問われるところだ。

(坪池栄子)

 

兵庫県立芸術文化センター

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[オープン日]2005年10月22日
[所在地]〒663-8204 兵庫県西宮市高松町2-22
[施設概要]大ホール(2001席)、中ホール(800席)、小ホール(417席)、スタジオ5室ほか
[設置者]兵庫県
[管理者](財)兵庫県芸術文化協会
[設計者]日建設計 江副敏史
[オープニング事業]兵庫芸術文化センター管弦楽団デビューコンサートシリーズ「佐渡裕/第9交響曲」、ひょうご舞台芸術『芝居─朱鷺雄の城』ほか

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