一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.25 チケット営業① 営業の役割と事前準備

講師 佐藤和久(北九州芸術劇場)

公演事業にとって重要な興行収益を確保

 

 制作基礎知識の新シリーズとして、今回から3号にわたり、公演事業のチケット営業について紹介します。

 

●公演事業における営業の役割

 作品の招聘や自主制作などの公演を実施する場合、チケット営業の役割はとても重要だ。公演事業を実施するに当たって、一般流通や会員組織だけですべての作品のチケットを完売させることが理想だが、現実的にはとても困難なことである。

 東京のマーケットにおいても、魅力的なミュージカルや演劇作品が数多く上演されているが、すべての作品が興行として成立しているわけではない。特に舞台芸術作品の場合は、制作コストが多くかかるので、興行収益が重要なポイントになってくる。そのため、制作者は観客を集客できるよう企画に工夫を凝らし、戦略的な広報・宣伝プランを立案し、営業は1枚でも多くチケットを販売する。それが興行の一般的な形態となっている。

 近年、公立ホールにおいても、新規顧客の開拓や団体の獲得などを行い、事業収入(収益率)の向上を図ることが課題となり、営業の必要性が重要視されるようになってきた。公演事業を成立させる要因はさまざまだが、営業力を強化することが、公演を成功に導く上での鍵となるのは間違いない。

 また、営業での動員数が推測できる状況が確立されてくると、招聘作品や自主制作作品を企画する際に、公演回数を設定する目安にもなる。ただ、営業力を強化することだけが公演事業の成否を決定するわけではなく、公演事業に関わる全スタッフが、作品を成功に導く意識を持ち合わせてこそ、より良い状況が生まれるのである。

 

●営業の種類と事前準備

 公演に関わる営業を大別すると「協賛営業」(*1)と「団体営業」に二分される。ここではチケットの団体営業に重点を置いて、営業活動に入る前の準備、営業実践や実務、営業に関連する業務について説明しよう。ただし、営業には決まったスタイルはないので、担当者は日々の業務の中で自分なりのスタイルを確立していっていただきたい。

 チケットの団体営業は、一般発売前から営業活動に入り、買い取りや斡旋を行う企業や団体へ販売交渉することが主な活動内容となる。買い取りの場合は、先方の予算や条件を考慮しながら交渉することになる。「斡旋販売」(*2)より早い営業が必要となってくる。

 チケットの団体営業は特殊な営業とは言えないが、やみくもに企業や団体を訪問することは得策ではない。事前に情報を収集して、営業する訪問先を確定して活動に入ることが必要となる。営業活動に入る前に行う業務は以下のとおり。

(1)公演企画書の作成

 作品のストーリーや公演概要、出演者プロフィールなどが入った資料を作成する。この公演企画書は、プレスリリースと兼用する場合もあるので、受け取る側が興味を喚起されるような内容に仕上げよう(事業担当者が作成する場合もある)。

(2)営業リストの作成

 営業活動に入る前に、営業(訪問)先リストを作成する。効率よく営業するためには、営業先として想定される企業や団体などの資料や情報を入手してリスト化することが必要(*3)。

(3)買い取りおよび斡旋の割引率の設定

 買い取りおよび斡旋の割引率は毎回設定する必要はないので、目安となる割引率を事前に設定しておこう。買い取りの場合は、先方の予算や条件を含みながら交渉するケースが多い。また、買い取りのチケット枚数は大口と小口の場合があるので、その際の割引率の設定も必要となる。斡旋の場合は、こちらからの提示である程度成立する。ちなみに北九州芸術劇場の斡旋販売は、10%程度の割引率を目安にしている(*4)。

(4)地域の状況をリサーチする

 新聞や雑誌(情報誌)、公演チラシやTVスポットなどからも営業のヒントとなる情報を入手することができる。例えば、公演チラシやTVスポットに協賛名が表記されている場合は、その企業に一度訪問してみる価値は十分にある。また、公立ホールの関係者や地元の興行主催者と接する機会を意識的に設けることにより、公演事業や営業活動に活用できるさまざまな情報や現状などを入手することができる。

 

*1 協賛(冠)営業は、公演事業の採算を多少なりとも有利にするために、企業などから資金援助を得ることを目的としたもの。営業時には、公演企画書に協賛要項を添付した資料を準備する必要がある。

 

*2 斡旋販売とは、事前にチケットの仮押さえを行い、申し込み締切日を設定して、企業や団体が主な窓口となって社員や職員に公演チケットの斡旋案内を行うこと。斡旋方法や受付手段、チケット代金の入金方法はさまざまな形態が存在する。

 

*3
【参考資料の例】
会社四季報、法人や団体が発行する季刊誌、特殊法人・団体などの一覧表、イエローページ、インターネットで検索
【営業先として想定される企業・団体の例】
カード会社、生活協同組合、百貨店友の会、自治体(官庁・県庁・市役所・警察署・消防署・郵便局など)の厚生課、教職員組合・教職員互助会、勤労者互助会(中小企業の福利事業担当)、学校(幼稚園・小学校・中学校・高等学校・専門学校・大学)の教職員および鑑賞事業がある学校、中学校・高等学校の演劇部、病院、ホテル、JA、児童会・子供会、PTA、演劇鑑賞団体、医師会、歯科医師会、弁護士会、一般企業の総務課(厚生課)、労働組合/婦人会/市民センター、メンバーズや特殊な会員組織がある団体

 

*4
【買取の割引率(例)】
10枚~100枚(価格の10%割引)
100枚以上(価格の10%~20%割引)
300枚以上(価格の15%~25%割引)
500枚以上(価格の20%~30%割引)
【斡旋の割引率(例)】
チケット価格の10%~20%割引

 

●営業準備に関連する業務

 

営業する公演について事前に行うべきプランニングと作成する営業資料は次のとおり。

 

(1) 営業としてのマーケット分析

 一般的には、公演アンケートから居住区や年齢・男女比などを分析して、営業開拓や宣伝展開などを行う。また、劇場への来客エリアは、地域の商業圏と大きな開きはないので、関連する文献や資料などからも集客エリアを分析することができる。また、地元の広告代理店や流通業の販促担当者などからも、営業的な情報を収集することができる。

 

(2) 公演事業のフレームづくり

 公演の規模によっては、テレビ局や新聞社などと共催事業として組み立てることも有効な手段である。マスメディアと共催することで宣伝プロモーションを強化することができ、チケットの販促にも繋がる。また、名義主催ではなく、共同事業(損益折半)にすることによって、劇場(会館)の自主事業で実施する公演回数より多く実施できる可能性も出てくる。同様に、地域の鑑賞団体や関連団体と公演の協力体制を構築することにより、集客率の増加を見込むことができるので、新規来場者の開拓にもなる。

 

(3) 公演概要の設定

【一般発売日】実施する公演が決定したら、まず第一にチケットの一般発売日を設定する。チケット営業を含めた興行デザインは、一般発売日を軸として設計するので、発売日を決めないことには全体の作業が構築されない。
【チケット価格】一般販売価格を設定する。価格の設定は、制作カンパニーが自主公演で設定した価格や地域の状況、総経費を考慮しながら設定することを勧めたい。
【クレジット】主催、後援、協力などの公演クレジットを決定する。チケット券面や公演チラシ・ポスターなどに明記する。

 

(4) プロモーションプランの作成

 一般発売日を軸として、プロモーションプランを作成する。広報や宣伝担当者が作成することになるが、プロモーション展開は、営業の販促業務と密接な繋がりをもつので、プランの作表は、営業担当者が作成する意識をもちたい。

 

(5) 観劇企画の立案

 チケットの販促プランとして、観劇と食事などをセットした企画を実施することで、団体客を獲得することができる。食事の場合は、ホテルや有名なお店を選定することや、パック料金の割安感を出すなど、企画を立てる際にはさまざまな工夫が必要である。北九州芸術劇場では、新聞媒体と組んで食事のプランを実施したり、交通(移動手段)と食事に施設見学をセットしたプランを実施している。この観劇プランは、慰安会や観劇会などを実施している団体を中心に営業を行っている。

 

(6) 公演試算表の作成

 実施する公演事業にかかる総経費をチケット収入で試算する一覧表を作成する。この試算表を作成することにより、公演事業の採算分岐点が設定され、チケットの販売目標数値を設定することができる。また、チケット単価の設定のためにも必要だ。

 

(7) チケット押さえ表の作成

 この表を基に営業で販売するチケットの管理を行う。営業押さえ表と同じ書式で、会員や一般流通での抑え表を作成すると総販売枚数を管理することができる。仮押さえ状況が一覧出来ることにより、公演日別の販売状況や確定日などを確認することができる。また、営業押さえ表を基に票券担当者が配券(配席)を行う。次回の参考資料としても役立つ。

 

公演試算表の例

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