一般社団法人 地域創造

公共ホール音楽活性化支援事業登録アーティスト プレゼンテーション&アウトリーチ・セミナー報告

28名(組)の演奏家がプレゼンテーションで競演

 地域創造では平成16年度から公共ホール音楽活性化事業(以下、おんかつ)の参加館を対象にした「公共ホール音楽活性化支援事業」(以下、支援事業)(*1)をスタートしました。これは、アウトリーチ事業の継続を希望する参加館に対して、経験豊かなおんかつ登録アーティストOB(おんかつ支援登録アーティストと呼ぶ)を派遣し、そのホールが自主的に企画する事業に対して2カ年にわたって財政的な支援を行うものです。当初は財政的な支援のみ行っていましたが、今回、初めての試みとして、支援事業の参加館に対する研修プログラムを企画し、8月2日、3日の両日、東京芸術劇場の練習場を会場に実施しました。
 主なプログラムは、アウトリーチ事業の普及を目的として一般にも公開したおんかつ支援登録アーティスト28名・組(全48名・組)によるプレゼンテーション、アウトリーチについて多角的に考えるセミナー、および支援事業参加館を対象にした「アウトリーチ事業の継続」「演奏家とプログラムを考える」をテーマにしたフォローアップ研修です。また、企画コーナーとして、アウトリーチ・フォーラム事業(*2)に参加した新進アーティストによるプレゼンテーションや意欲的な普及企画も行われ、おんかつが蒔いた種がさまざまな形で広がっていることを感じさせる研修会となりました。

 

●3つの練習室で28名(組)の演奏家が競演

  プレゼンテーションは各演奏家20分ずつ、3つの練習室に分かれて同時並行で行われ、全国から集まった約150名のホール関係者が熱心に耳を傾けました。おんかつ登録アーティストの1期生から4期生までが顔を揃えた贅沢なプレゼンで、演奏家の個性が際立った多様なアウトリーチのあり方が一覧できる貴重な機会になりました。1期生のピアニストの高橋多佳子さんは、冷たい鍵盤をドライヤーで温めながらピアノ演奏をした裏話を披露し、「おかげでどんな状況、どんな楽器でも弾けるという自信がつきました」とベテランらしいコメント。
 練習室という至近距離ならではの親密でありながら緊張感のある演奏、個性的な話術、自分の経験を踏まえた楽器や楽曲の解説、朗読付きなどの企画性溢れるプログラム、ボディーパーカッションや手拍子などで聞き手を巻き込む参加型パフォーマンス……。そのいずれもが単なる技術ではなく、音楽に真摯に向き合うアーティストの姿勢からきていることがうかがえる、おんかつのクオリティの源にふれることのできたプレゼンテーションだったのではないでしょうか。
 また、企画コーナーでは、三鷹市芸術文化センターが企画した普及型のコンサート・プログラム『動物の謝肉祭』が披露されました。これは、同センターが地域創造の創造プログラム(3年継続)採択を受けて取り組んでいる事業の第1弾として企画されたもの(2005年6月から市内全15校の小学校でピアノ、チェロ、木管五重奏に分かれてアウトリーチを行い、最後に全演奏家が揃ってコンサートを実施)。サン・サーンスの『動物の謝肉祭』の抜粋に『ぞうさん』や『鱒』などを加えて、語りを挟んで構成・編曲したもの。大人も子どもも音楽の楽しさを共有できる普及型プログラムに仕上がっており、アウトリーチとコンサートを繋ぐ役目としてこうしたレパートリーづくりの必要性を感じさせたデモンストレーションでした。

 

●フォローアップの重要性を再認識

  今回の研修が企画された背景には、おんかつの参加館が支援事業に申し込んでいるにもかかわらず、担当者の異動などにより、ノウハウが継承されていないという問題意識がありました。2日目のフォローアップ研修ではこうした「継続」をテーマにコーディネーターの吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所 芸術文化プロジェクト室長)を囲んで議論が行われました。
 「おんかつは前任者がとても一生懸命取り組んだ事業だが、自分はこの春来たばかり」「アウトリーチ事業は自主事業として続けていきたいし、県からの助成も受けている」「考え方の違う市と合併し、来年には財団が統合されるのでどうなるかわからない」「子どもたちも先生の反応もものすごくよかったが一過性で終わったような気がする」など、参加者の発言を受けて、継続に関する要因として「人事異動」「行政・教育委員会など所管組織へのインリーチ」「地域(市民)の盛り上がり」「地元アーティストの活用」「周辺の会館との連携」といった整理が行われました。
 「アウトリーチはそれぞれの地域で行って、コンサートは共同でやることも考えられるのでは」といったアイデアなども飛び出し、まずは語り合うことこそが継続の第一歩なのではないか、との思いを強くしました。

 

 

  このほか、公開セミナーでは、「国内の現場から」と題した事例発表なども行われました。アウトリーチの効果について「学校の先生とのネットワークができたことにより、先生というホールの強い味方を増やしている」「アウトリーチで住民の顔がはっきりと見えるようになり、ホールや職員との距離が縮まった。また、子どもたちとアーティストとの距離も縮まった」という話に多くの人が頷いていました。

 

綱川宏一さん(名取市文化会館)コメント

  平成16・17年度の登録アーティストしか聞いたことがなかったので、1期からの演奏家のプレゼンテーションが聞けたのは本当に良かった。初めて音活に参加した時には誰にも声を掛けられなかったが、今回は最初から知り合いがいるという感じで、実際におんかつをやってみて感じたことなどを経験者同志で話し合うことができた。
最初の研修では、音活とはどういうものであり、自分の町の特徴を踏まえてどのように事業を組み立てるかを学んだが、フォローアップでは今後続けていくにはどうするかといった共通の悩みを話し合うことができたのがとても有意義だった。

 

*1 公共ホール音楽活性化支援事業

おんかつ登録アーティストとしての経験を有する演奏家におんかつ支援登録アーティストを委嘱。おんかつ参加館で事業の継続を希望するホールを対象に、おんかつ支援登録アーティストの派遣費用を初年度は3分の2、2年度目は3分の1支援するもの(詳細は「財団からのお知らせ」参照)。

*2 公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業

都道府県または政令指定都市等と共催で、クラシック音楽のアウトリーチ事業の普及推進を中心に、コンサート、地域交流プログラム、フォーラム(シンポジウム)等を実施するもの。地域創造の協力により、アウトリーチ事業を行う参加館と新進アーティストに対する充実した研修プログラムを実施し、スキルアップを図る。

 

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ピアノトリオ「Tiara」による企画プレゼンテーション(ピアノ高橋多佳子さん、ヴァイオリン磯絵里子さん、チェロ荒庸子さん)
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ソプラノの大森智子さん
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企画コーナーで披露された三鷹市芸術文化センターのプログラム『動物の謝肉祭』のデモンストレーション
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フォローアップ研修(右から2人目はコーディネーターの児玉真さん)

 

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