福島県南相馬市民文化会館“ゆめはっと”の専属ジュニア吹奏楽団「ゆめはっとジュニア・ウインド・オーケストラ（YJWO）」の第3回定期演奏会が1月28日、人気アコーディオン奏者、coba（コバ）をゲストに迎えて開かれ、会場いっぱいの観客を魅了した。
南相馬市は2006（平成18）年1月、原町市、小高町、鹿島町が合併して誕生した人口約7万2,000人の新市。東京から常磐線か東北新幹線仙台駅を経由して3～4時間、福島県浜通り北部、いわき市と宮城県仙台市のほぼ中間に位置する。
“ゆめはっと”は、2004年3月、旧原町市の市制50周年を記念してオープンした本格的な音楽ホールで、大規模ホールのなかった旧小高、鹿島町の住民にとっても待望の施設であり、合併後の市民の文化拠点として大きな役割を担っている。特に当初から「Seed project～ひょうげんの芽吹き～」と題した育成事業に力を注ぎ、未就学児童を対象とした表現やコミュニケーションのワークショップのほか、多くの予算を投じてジュニアオケの運営に本腰を入れて取り組んできた。
YJWOは、開館年の9月に公募で集まった小学校高学年から20歳までの約30人により結成された。現南相馬市文化振興事業団事業係長の渡邊由香さんが中心となり、地方自治体が運営するジュニアオーケストラや、在京の音楽事務所などから情報を収集し、運営の骨格を決めていった。
本格的なジュニアオーケストラを目指すシンボルとして“吹奏楽の神様”と称されるアルフレッド・リード博士を音楽監督に据え、YJWOのための新作ファンファーレを委嘱。指導者には、オペラや岩国ミュージック・フェスタで活躍し、子どもたちの育成に定評のある矢澤定明さんをレジデント指揮者として招くほか、パート指導にもシエナ・ウインド・オーケストラや東京佼成ウインド・オーケストラなどから10人もの若手プロ演奏家を擁するなど、本格的な練習環境を実現した。
YJWO結成記念式典ではリード博士作曲・指揮による『YJWOのためのファンファーレ』を初演して華々しいデビューを飾ったものの、2005年9月に博士が亡くなってしまう。関係者は気持ちを新たに、第2回の定期演奏会では元クレイジー・キャッツの谷啓とジャズ・トランペットの第一人者、中川喜弘をゲストに迎え、質の高いエンタテインメント・ショーとともに、一般公募のメンバー、ゲスト指導者も加わった大編成の「アルフレッド・リード メモリアル・オーケストラ」を結成してリード博士の追悼を行った。
今回の演奏会も昨年来のスタイルを踏まえ、第1部では日頃の練習の成果を発表、第2部はゲストとの共演、第3部はメモリアル・オーケストラ演奏という3部構成で開催された。cobaさんは演奏会後の打ち上げの席で「真摯に音楽に向き合うメンバーの姿に打たれて、私も音楽が好きになった頃の気持ちを思い出しました。本当にありがとう」と子どもたちにあいさつ。結成時から活動を見守り、解説者として舞台に立った音楽評論家の富樫哲佳さんは「たった3年で驚くほどの進歩。cobaさんとの共演は吹奏楽の新たな可能性を切り拓いた」と絶賛していた。
こうしたYJWOの活動は、メンバーの保護者や地域のボランティアスタッフによって支えられているところも大きく、矢澤さんは最年長のボランティアスタッフ、牧野芳子さん（78）をステージで紹介するなど、地域の支援に対して改めて感謝をしていた。
「今後の課題はより多くのメンバーを確保することです」と渡邊さん。一方、矢澤さんは「アウトリーチなど地域に溶け込んだ活動を増やしていければと思っています。また、メモリアル・オーケストラの存在も広めていきたい。リード博士の薫陶を受けた人が全国にいますので、彼を偲んで人々がここに集まってくるような、そうした発信機能ももてれば」と展望する。“お披露目”の3年間を経て、地域に留まるだけではない次なる第一歩を踏み出す準備は整ったと思わせるような、そんな力強い音色だった。
（ライター・土屋典子）
全国各地の地域伝統芸能・古典芸能を一堂に集め、2月に開催した「地域伝統芸能まつり」の模様が放送される予定です。ぜひご覧ください。
●ゆめはっとジュニア・ウインド・オーケストラ第3回定期演奏会
［主催］ (財)南相馬市文化振興事業団
［会期］ 1月28日
［会場］ 南相馬市民文化会館「ゆめはっと」
［指揮］ 矢澤定明
［出演］ ゆめはっとジュニア・ウインド・オーケストラ、アルフレッド・リード・メモリアル・オーケストラ、coba