一般社団法人 地域創造

東京芸術見本市2007報告

地域創造主催の評価とミッションを巡るセミナーが大盛況

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左上・ブースの様子
左下・セミナー「公立文化施設における政策評価のあり方を考える」
右・ショーケース「新しい人形劇─モノ語る世界」黒谷都のパフォーマンス
(撮影:宮内 勝)

 国内外の舞台芸術関係者と公立ホール・劇場の運営団体の出会いと交流の場である「東京芸術見本市2007」が、3月5日から8日まで東京国際フォーラム、丸ビルホールなどで開催されました。
  今回は、来場者が多くのショーケース、セミナーに参加できるスケジュールとしたのに加え、活発な交流が図れるようにブース展示ホールの中央に広場のような打ち合わせスペースを設置。会期中、海外フェスティバルのディレクターと劇場関係者が熱心に話し込む姿があちこちで見られました。また、制作現場に役立つ情報提供を目指し、つくり手が公演可能な作品を映像で紹介しながら、詳細な制作情報を提供する「ヴィジュアル・プレゼンテーション」を企画。演劇10団体、ダンス10団体、音楽・複合ジャンル9団体が延べ347人のホール関係者を前にプレゼンテーションしました。
  財団法人地域創造では、見本市の関連企画として地域の公立文化施設に関わる重要課題を取り上げたセミナーを毎年企画しています。今回は、3カ年にわたって実施してきた「公立文化施設における政策評価のあり方等に関する調査研究」を踏まえ、研究委員の方をパネリストに迎えたセミナーを開催し、満員札止めの大盛況となりました。

 

●各ジャンルの現在が垣間見えたヴィジュアル・プレゼテーション

 ブース展示ホールの半分を暗幕で仕切った映像ルームでは、連日午後1時過ぎから約3時間にわたってジャンルごとに1団体20分ずつのプレゼンテーションを実施。作品解説、ツアー人数、上演時間、舞台サイズ、費用、今後のスケジュール、連絡先などを記載した資料が配布されるなど、制作情報のオープンな交換が行われました。
  演劇では、九州を拠点に活動するうずめ劇場の演出家であるペーター・ゲスナーが桐朋学園の学生と共に取り組んだ「アンティゴーネ@JAPAN」で海外公演を行いたいとアピールしたのをはじめ、親しみやすい歌舞伎を目指して今年で20周年を迎える花組芝居、今最も注目されている劇団のひとつチェルフィッチュ、女の子だけでヴィジュアルで奔放なイメージの作品を発表している指輪ホテルなど、海外公演を目指す団体のプレゼンテーションが印象的でした。
  また、チェーホフやイプセンなど名作翻訳劇をわかりやすい現代劇として上演しているフランケンズ、場所から発想した作品づくりで知られ、墨田区の向島に1年間滞在して地域の人たちと交流しながら作品づくりをしている鳥のマーク(マーク自体が名前)など、現代の演劇シーンの一端を垣間見ることのできる団体も登場し、興味をひいていました。

 

●ショーケースでは人形劇にスポット

 東京芸術見本市では、ソウル舞台芸術見本市との積極的な連携を模索していますが、今回はソウルの見本市と同じプログラムとして日本のストリートダンス(はむつんサーブ、ひとりでできるもん)と韓国のエスン・ダンス・カンパニーがショーケースに登場。また、音楽では、初めてジャズにスポットを当て、即興を模索している3グループ(SXQサックスクインテット、サルガボ、ヒカシュー)が紹介されました。
  注目は、「新しい人形劇─モノ語る世界」と題された人形劇のショーケース。コーディネーターの加藤暁子さん(人形演劇研究家)は、「優れた人形遣いがいるという点は共通しているが、人形に近づく方法がそれぞれ異なる個性的なグループを揃えた」と言い、現代人形劇のベスト3ともいえるかわせみ座、黒谷都、百鬼どんどろの豪華3本立てが実現。特に遣い手が自ら出演者となって等身大の人形と絡む黒谷都、百鬼どんどろは、遣い手のオリジナリティ溢れる身体表現の素晴らしさで参加者を魅了していました。

 

●「東京芸術見本市2007」地域創造関連事業に関する問い合わせ

芸術環境部 山下友一
Tel. 03-5573-4078

 

●公益サービスの評価方法について提言

 地域創造のセミナーでは、まず冒頭でコーディネーターの吉本光宏さんから、平成16年度に実施した指定管理者制度の導入に関する調査の結果、政策評価について提言を行う必要性が指摘され、翌年度に公立文化施設8館の事例調査を実施。今年度、それを踏まえて政策評価のための指標づくりを行った経緯が紹介されました。
  「指標づくりに当たっては、稼働率や集客など数字に偏った評価になりがちな現状を是正したい、地域を活性化するといった公立文化施設の公益的な評価を盛り込みたい、現場で頑張っている職員の武器になるものをつくりたい、という3つの課題をもって取り組み、設置主体と運営主体が共同で評価できるものとして作成した」と吉本さん。参加者たちは配布された評価指標の資料に熱心に目を通していました。
  開館以来、直営での運営を行っている小出郷文化会館の小幡誠さんは、公立文化施設の立場から「公立ホールの運営は指定管理者制度に馴染まないということについて、もっとみんなで声を出していくべきだと思う」と問題提起。また、平田オリザさんはアーティストの立場から「芸術は人が生きていく上で不可欠のものであり、どんな小さな自治体も文化行政を行う責務がある。評価はそれが目的ではなく、評価はミッションをよりよく実現するためのもの。短期的なものもあれば、中長期的なものもあると思うが、いずれにしてもミッションがなければ何も始まらない」と改めてその重要性を指摘されていました。
  中川幾郎さんは、文化政策の専門家として、指定管理者制度導入の背景となっているイギリスのサッチャー政権時代に端を発したニュー・パブリック・マネージメント(NPM)について指摘。「NPMは成果主義、市場機構の活用(競争原理の導入)、顧客主義、分権化を基本原理にしているが、公益性を担保しなければならない施設にもそれを無批判に導入しているのは問題だ」と警鐘を鳴らしていました。
  重要なキーワードが次々に飛び交うセミナーはあっという間に2時間が過ぎ、会場は異様な熱気でした。なお、評価指標を掲載した本調査の報告書は、近日配布する予定となっていますので、ご希望の方は担当者までお問い合わせください。

 

●「公立文化施設における政策評価のあり方を考える~使命・役割の再確認に向けて」

[日程・会場]3月7日 東京国際フォーラムG502会議室
[主催]財団法人地域創造/社団法人全国公立文化施設協会
[コーディネーター]吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室長)
[パネリスト(五十音順)]小幡誠(魚沼市文化振興課長)、中川幾郎(帝塚山大学大学院法政策研究科教授)、平田オリザ(劇作家・演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)

 

●「公立文化施設における政策評価のあり方等に関する調査研究」

[平成18年度研究会委員]逢坂恵理子(水戸芸術館現代美術センター芸術監督)、草加叔也(有限会社空間創造研究所代表取締役)、熊倉純子(東京芸術大学音楽学部助教授)、櫻井俊幸(小出郷文化会館館長)、田邊國昭(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、中川幾郎、平田オリザ、吉本光宏
[問い合わせ]芸術環境部 飯川・栗林・山下
Tel. 03-5573-4185

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