一般社団法人 地域創造

ステージラボ鳥取セッション報告

2007年7月10日~13日

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左上・平田オリザさんによるワークショップ(自主事業コース)
右上・平田さんと共に、演出家の中島諒人さん(写真左端)が主宰する劇団鳥の劇場の、廃校を活用した拠点施設「鹿の劇場」を訪問
左下・ピアニスト中川賢一さんによるワークショップ(ホール入門コース)
右下・文化政策企画・文化施設運営コースのゼミの様子

 ステージラボの会場となったのは、鳥取県文化振興財団が指定管理者を務める鳥取県立県民文化会館です。全面ガラス張りの広々としたフリースペースが印象的な建物で、1993年に県庁横の文化ゾーンにオープンし、鳥取県の文化振興の拠点となっています。
 鳥取県は片山善博前知事による行政改革が有名ですが、文化振興財団についても平成14(2002)年度に開催された国民文化祭で生まれた文化的な機運を活かすべく、理事会改革や公募による文化芸術デザイナーの登用などが行われるなど、さまざまな改革が実践されているところです。
  今回のラボは、こうした鳥取県の取り組みを文化芸術デザイナーの柴田英杞さんから直接お話しいただくなど、貴重な機会となりました。

 

●中川ワールドに浸る

  ホール入門コースでは、ピアニストの中川賢一さんを徹底的に解剖することを通じてホール事業のイロハを学びました。
  ピアノを解体し、響きを体感するワークショップを手始めに、全員参加による即興のミニコンサートづくりを体験。その過程で音響や照明などの舞台技術の基礎と音楽づくりについて学び、最後はプロカメラマンの指導で中川さんを撮影、アーティストの広報資料まで作成するというフルメニューでした。
  音響エフェクトと自己主張をテーマにしたミニコンサートでは、「即興組曲“SAKYU”」と題して、参加者がマイクにささやきかける「さ~きゅ~う~」のヴォーカリゼーションと自己アピールのパフォーマンスにより砂丘の1日を表現。短期間とはいえ、これだけ濃密にひとりのアーティストと付き合える機会をもてたことは、極めて貴重な経験となったのではないでしょうか。

 

◎参加者コメント(宮田裕史・豊岡市教育委員会日高分室)

  「合併してから文化事業は豊岡市立文化会館に集中することになり、旧日高町の文化体育館では事業が行われなくなってしまいました。ステージもあり、照明設備もあり、篤志家が寄付してくれたベーゼンドルファーのピアノもあるので何とか活用できないかと思っていたときに、ステージラボが開催されると聞き、自費参加しました。合併で危うくなっている地域のアイデンティティを保つには文化の役割が重要になってきます。中川さんのピアノワークショップで芸術の楽しさを体験し、火を付けてもらったので、この勢いを地域に持ち帰り、お金はなくても市民と一緒にボトムアップでやれればと思いました」

 

●演劇をつくろう

  自主事業コースでは、平田オリザさんの会話劇をつくるワークショップと、県民会館の魅力的な場所を探し、そこで場所から発想したパフォーマンスをするワークショップの2つが行われ、参加者は朝から晩まで演劇づくりに明け暮れました。
  平田さんは、誰でもつくれる会話劇の実践として、参加者ひとりひとりが設定(場所・背景・問題)を書くところからスタート。「出入りが自由な場所のほうがいい」「専門知識が必要なことより、自分も体験があるようなことのほうがみんなの意見が割れてドラマになりやすい」「問題(事件)が弱すぎても話が膨らまないし、強すぎても、例えば警察に届けて終わりになってしまう」「一人が困るだけだと演劇にならない。共同体(集団)が運命に立ち向かうからドラマが起こる」などなど、みんなが書いた設定に対して瞬時に的確なアドバイスをする平田マジックに、受講生は頷くことしきりでした。
  最終日には、インチキ臭い町おこしイベント「美容師世界選手権」を舞台に、女性モデルにちょんまげを拒否された主催者のドタバタなど3作品を発表しました。
  また、3日目には、東京から10数名で移住し、廃校を借り受けて創作活動を行っている「鳥の劇場」を訪問。田園風景の中の木造校舎がそのままで見事なアーティスト・イン・レジデンス施設となっている姿に大いに刺激される一幕もありました。

 

●逆転の発想でミッションに迫る

  文化政策企画・文化施設運営コースでは、文化政策や施設運営をめぐる今日的な課題について専門家から最新動向の講義を受け、各地の事例を学びました。「本来、施設運営のよりどころになるべき文化政策に欠陥があることに気づいてもらいたかった。そのせいで目先の事業に左右されてしまい、背骨のないホール運営になっている。今回は、地域で生き残る施設となるために、文化事業は必要だという背骨(ミッション)をつくってもらうことをコースのテーマにした」と草加叔也コーディネーター。
  最終日の発表では、「どんな成果が欲しいのか、誰を喜ばせたいのか、予算がいくらあるのか」という、期待する成果や現実から出発し、そのためにはどのような計画が必要か、そういう計画はどういうミッションから出てくるか、という逆転の発想からの積み上げでミッションをつくる課題にチャレンジ。ない物ねだりではなく、足下から見つめ直す作業に参加者が喜々として取り組んでいた姿が印象的でした。

 

●コースコーディネーター

◎ホール入門コース
楠瀬寿賀子(津田ホールプロデューサー)
◎自主事業コース
平田オリザ(劇作家・演出家)
◎文化政策企画・文化施設運営コース
草加叔也(空間創造研究所・代表)

 

●ステージラボに関する問い合わせ

芸術環境部 篠原実
Tel. 03-5573-4056

 

●ステージラボ鳥取セッション カリキュラム

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