一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズ番外編 国立国会図書館の電子図書館化

講師 山名尚志
(文化科学研究所)

 

 公立ホール・公立劇場の評価指針に関する制作基礎知識の最終回として、今回は3つの戦略・評価軸のうち、B「運営・管理」、C「経営」について主要な評価指標・基準をピックアップし、具体的な評価方法を解説するとともに、運営データによる評価の留意事項を指摘しておきたい。

 政府の「e-Japan戦略」「u-Japan政策」をグランドビジョンに急激に進む我が国のIT化。その欠かせない1つとなっているのが、社会的に重要な文化資源のデジタル・アーカイブ化である。国立国会図書館は、その膨大な蔵書のデジタル化の担い手として、また全国の図書館、美術館、博物館などの公的施設のデジタル・アーカイブ化のハブとして重要な位置を占めている。
  国立国会図書館は大きく2つの役割を持った図書館として運用されている。1つは国会の諸活動を調査・情報面で補佐する議会図書館としての役割、もう1つは、納本制度に基づいて広く日本国内の出版物を蓄積・保存し、公開する国の中央図書館としての役割である。国会図書館に納本される出版物の範囲には、書籍や雑誌・新聞に加えて、楽譜、地図、録音資料、マイクロフィルム、CD-ROM等が含まれ、その総点数は2006年度末の時点で総計33,639,985点に及んでいる。
  国立国会図書館では、1998年度に「電子図書館構想」を策定。メディアのデジタル化やインターネットの急激な普及などの環境変化に対応した電子図書館化を押し進めてきた。この構想は、2000年に「電子図書館実施基本計画」として、また2004年にその成果を受けた「電子図書館中期計画2004」として具体化されてきており、各分野で電子図書館サービスが着実に実現してきている。
  今回は、上記の国立国会図書館の電子図書館化のうち、納本図書館(国の中央図書館)としての電子化の部分を中心にその概要を紹介していく。

●図書館の電子化

 既存の図書館の電子化には2つの側面がある。1つは図書館の利用をいかにオンライン化するかという利用の電子化、もう1つは蔵書自体のデジタル・アーカイブ化である。前者の蔵書目録のオンライン化のことを、OPAC(Online Public Access Catalog)と呼ぶ。
  国立国会図書館では、すでに「電子図書館実施基本計画」の段階でインターネットを通じて利用できるOPACのサービスを開始している。国立国会図書館で蔵書している出版物については、NDL(National Diet Library)-OPAC・アジア言語OPACとしてネット上で公開、これに加え全国の都道府県市町村立の図書館や視聴覚センターなどに所蔵されている出版物についても、オンライン検索のサービスが提供されている。
  もう1つの蔵書のデジタル・アーカイブ化については、OPACとは異なり、著作権管理をどうするかという問題が存在する。このため、国立国会図書館では、著作権が既に消滅している近世や明治期、大正期の蔵書からデジタル化を開始、随時公開を行っている。既にサービス提供されているものとしては、「貴重書画像データベース」「近代デジタルライブラリー」がある。
  現状では、コスト的な問題から、所蔵しているマイクロフィルム画像をそのままデジタル画像として公開する(書籍の1ページ、1ページを写真として見せる)手法をとっているが、将来的にはOCR読み取りによってテキスト情報自体のデジタル化および公開を検討していく見通しである。

●ウェブ上の出版物のアーカイブ

 インターネットの発展に伴い、重要な出版物・著作物がネット上でのみ公開されることも多くなってきた。また、長期的に考えるなら、現状の出版産業自体がネットワークに移行してしまう(紙やパッケージでの書籍や雑誌、新聞の発行というもの自体が衰退してしまう)可能性も高い。これは、出版物の納本制度を前提として成立してきた国立国会図書館のあり方自体を切り崩すことにも繋がってくる。
  上記の状況を受け、国立国会図書館では、ネット上の出版物であるウェブサイトのアーカイブについても対応した新規事業の立ち上げを行っている。このうちウェブサイト自体をアーカイブし公開するサービスについては「WARP」(Web Archiving Project)、ウェブサイトの書誌情報の構築を行うサービスについては「Dnavi」(データベース・ナビゲーション・サービス)という名称で事業が開始されている。
  ウェブサイトについては、現在、国会図書館法上の納本制度の範囲外となっている。また、紙での出版とは異なり、個人の私信的なもの(ブログやSNS等)と公共的な出版物(大規模なポータルやウェブマガジン)とが渾然一体となって展開されている状況を考えると、そもそも納本義務の範囲を合理的に定めること自体が難しい。このため、WARPでは、明らかに公共性が認められる狭い範囲に限定して、対象となる発行元の合意の下で、ウェブサイトの公開されている範囲のページを蓄積・公開するという手法でアーカイブを進めている。現状のアーカイブ範囲は、国・都道府県・政令指定都市のサイト、市町村のうち合併で消滅が予想されるサイト、独立行政法人や特殊法人などの公益的な法人のサイト、大学のサイト、国際的・文化的なイベントのサイト、学術系の紀要誌などの電子雑誌等である。量的にはウェブサイト約2,000件、電子雑誌約1,500件が対象となっている。
  一方のDnaviは、インターネット上のウェブサイトのうち、無料で公開されている各種のデータベースに対し、書誌情報を整備し簡単にアクセスできるようにしたゲートウェイのサービス。現在約10,300件のデータベースが紹介されている。芸術文化関係の各種データベースサービスの紹介も多く、また、全国の博物館や美術館の収蔵品のデータベースも多数リスト化されており、芸術文化関連の情報を探すために極めて有用なサービスとなっている。

●利用の促進

 国立国会図書館では、上記の3領域での事業展開に加え、アーカイブされた膨大な情報自体をいかに使いやすくしていくかについても積極的な研究開発を行っている(テーマ毎の「調べ方案内」や全国の司書のノウハウを集積した「レファレンス協同データベース」、国立国会図書館の資料をもとにした「電子展示会」など)。この核となっていくであろうサービスが、国立国会図書館が提供する12種類のアーカイブと外部連携機関のアーカイブ8種類を合わせた全20種類を横串で検索することができるデジタルアーカイブポータル「PORTA(ポルタ)」である。
  PORTAが目指しているのは、国立国会図書館や公立図書館のみを対象とした単なる「総合検索」窓口ではない。さまざまな公的機関や民間の企業、個人など多様な主体によるアーカイブ、ウェブサイト上の「雑誌」「書籍」等々のすべての重要な情報源に一元的にアクセスできること、それによって全ての国民が、ワンストップで、必要な情報を必要な時に手に入れられる環境を提供することが最終的な目的となっている。
  もちろん、上記の構想が実現するためには、データやデータベース連携のための通信手順の標準化から、誰もが簡単に使えるユーザーインターフェースの開発、そして著作権等の法制度の整備などさまざまな問題をクリアしていく必要がある。こうしたハードルが乗り越えられた時、本来の意味での「電子図書館」サービス、インターネットが国民すべてにとっての信頼できる「知識・情報の宝庫」として使えるようになるサービスが実現していくことになるのである。

国立国会図書館デジタルアーカイブポータル「PORTA」の概念図

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●国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービス「Dnavi」
タイトル、作成者、分類などから抽出した検索結果一覧(左)と、データベースサイト情報(右)
http://dnavi.ndl.go.jp/

 

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●国立国会図書館デジタルアーカイブポータル「PORTA」
http://porta.ndl.go.jp/

 

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