一般社団法人 地域創造

大阪府箕面市 みのおキッズシアターwith末成由美 『きたかぜの神話』~「時をかける友情」編

  大阪近郊の北部地域(北摂)には、私鉄沿線の中核都市に吹田市文化会館、高槻市民会館、池田市民文化会館など、開館20~30年という老舗市民会館がズラリと顔を揃えている。こうした老舗は、プロパー職員を抱えた専門の財団、事業団を設立して運営されてきた。中には20年、30年のキャリアをもつ職員も多く、生え抜きの館長も生まれている。しかし、指定管理者制度への移行により、こうした老舗にも変化の波が訪れている。今回取材したのは、その中のひとつ、今年開館20周年を迎える箕面市立メイプルホールだ。

 「ありがとうございました~」「お前、ええキャラしてんなあ」
 2月2日、終演後のロビーでは、さっきまで舞台に出演していた子どもたちとお客さんの掛け合いが続いていた。

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『きたかぜの神話』~「時をかける友情」編
(中央が末成由実さん)
©箕面市文化振興事業団

 今年で3回目を迎える「みのおキッズシアター」は、吉本新喜劇の女優、末成由美さんが公募の子どもたちと関西弁で共演するオリジナル舞台だ。今回の『きたかぜの神話~時をかける友情編』は、自殺願望のある孫カエデを心配する祖父虎蔵の思いを知ったきたかぜの神様(末成)が、子どもたちを戦時中にタイムスリップさせ、虎蔵の子ども時代を追体験させて生きている喜びに目覚めるというストーリー。普段から使い慣れた関西弁の威力で、ボケ、ツッコミ、末成さんのギャグも盛り込まれ、週2日、3カ月の稽古とは思えないほど子どもたちは生き生きと舞台に立っていた。

 

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 この事業を企画したのは、技術の派遣スタッフからホールを運営する箕面市文化振興事業団のプロパー職員となり、現在は館長を務める中宏さんだ。「コミュニケーションの苦手な子どもたちに芝居で表現力をつけてもらいたかった。練習場さえ確保できたら、そんなにお金をかけなくてもその地域に合った芝居づくりができるのではないか、毎週稽古していても飽きない面白いハートフルコメディがつくれないかと、長年、ホールの大道具スタッフとして関わってもらっている仲間で俳優の小寺弘之さんに相談しました」
  脚本・演出を担当することになった小寺さんは、「出ているのか出ていないのかわからないような出演者のいる市民参加劇にはしたくなかった。出番の少ない子も、みんなで一緒にやっているという意識のもてる芝居にしたかったので、最初の1カ月半ぐらいはエチュードなどをやりながら子どもたちの特徴を把握し、全員にあて書きしました。子どもたちは1、2カ月で台詞に乗せて気持ちを吐き出すという行為を覚えて、見違えるように変わった。そういうコミュニケーションが生まれる場に立ち会い、今さらながらに演劇の可能性を再発見しました」と振り返る。
  参加者の保護者会が稽古場のケアから本番の表方までさまざまにサポートしている。常勤職員数5名で2館を運営している事業団では、こうしたサポートなしに市民参加事業の実現は難しい。保護者会代表の笹尾美都子さんは、「子どもが3回とも参加していますが、見違えるほど集中力がついた。親がスタッフとして参加していると裏のこともよくわかるし、一緒につくっている仲間という感じです」と楽しそうだった。
  こうした新しい取り組みが始まった背景には、事業団が指定管理者制度への移行を睨んで行った2004年の改革がある。老舗ホールが柱としてきた買い取り公演を縮小し、その分、ホールの先行予約と広報・チケット販売協力をうたった共催事業、市からの受託事業、市民の文化団体と連携する市民支援型事業(文化団体による芸術祭やその指導者によるアウトリーチも含まれる)、そして地元企業からイベントの企画制作を受託する収益事業を拡大するのがその主な内容だ。事業はまだ整理途上といった感じだが、受託事業としてスタートさせた高齢者教養大学講座や、2006年の市制50周年を記念してスタートしたメイプルホールと中央生涯学習センター全館を使った夏休みの子ども文化教室など、地元の文化団体と連携した事業に光明も見え始めているという。
  今回の芝居のラスト、末成さんは「生まれてくるというのは奇跡なんや。その奇跡を十分楽しみなさい」と言ったが、そのためのホールの生き方もあるような気がした。

(坪池栄子)

 

●みのおキッズシアターwith末成由美
『きたかぜの神話』~「時をかける友情」編
[脚本・演出]小寺弘之
[主催](財)箕面市文化振興事業団
[日程]2月2日、3日
[会場]箕面市立メイプルホール

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