一般社団法人 地域創造

「第9回地域伝統芸能まつり」報告

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写真:箱根仙石原湯立獅子舞(神奈川県箱根町)

 日本各地で脈々と受け継がれている地域伝統芸能や古典芸能を紹介している「地域伝統芸能まつり」が、2月21日、22日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。9回目となる今年は、私たちの祖先が天や地に捧げてきた無病息災や家内安全、五穀豊穣などのさまざまな“祈り”をテーマに、全国から10の地域伝統芸能と4つの古典芸能が集い、延べ5,000人の観客を魅了しました。
 また、今年もホールホワイエでは、全国の地域伝統芸能の映像記録を発信するウェブサイト「地域文化資産ポータル」(http://bunkashisan.ne.jp/)コーナーを開設するとともに、まつりに参加した地域の名産即売コーナーやそれら地域の観光文化情報を掲載したパンフレットの設置など、地域色豊かで賑やかな催しとなりました。

 

●見えない稲の聖霊が力士を圧倒!

 1日目のオープニングを飾ったのは、愛媛県今治市大三島町の「一人角力(ひとりずもう)」です。拍子木の音とともに緞帳が上がり目に飛び込んできたのは舞台上にある土俵。その土俵に上がった力士は行司の差す軍配と掛け声につれて、目に見えない精霊と三本勝負で、エアギターならぬ“エア相撲”を行います。力士が独りで悪戦苦闘している姿は真剣であればあるほどユーモラスで、客席の笑いを誘っていました。1勝1敗で迎えた最後の一番、稲の精霊が力士を豪快に投げ飛ばし、豊年満作が約束されて、今年の「まつり」が目出度く開幕しました。

 今回が初登場である神奈川県からは、獅子が湯立てをするという全国的にも珍しい「箱根仙石原湯立獅子舞」が登場しました。湯立てとは、熱湯が煮えたぎった釜に浸した笹で湯を振りまき、無病息災を祈る神事。獅子頭をかぶった神楽師が客席にも湯を振りまき、観客も共に御利益にあやかりました。

 「湯立ての作法は代々跡継ぎである長男によって継承されてきました」と保存会会長の勝俣清治さん。保存会では子どもたちが普段から笛や太鼓などのお囃子の練習も行っており、今回の舞台では中学生と高校生が普段の稽古の成果を披露するなど、伝統が世代を超えて受け継がれていく一端を垣間見た思いがしました。

 同じく初登場となる高知県からは「山北棒踊り」が登場し、1対1の打ち合いと複数人での演舞を披露。保存会では、後継者育成を目指して小学生への指導を始めたとのことで、「棒を使って踊るのは格好いい」という6年生2人が大人に混じって背丈以上ある木棒を軽々と扱い、喝采を浴びていました。

 初日のハイライトは、勇ましい掛け声とともに、高さ6m のはしごの上でさまざまな演技を命綱なしで披露した「加賀鳶はしご登り」です。はしご登りは、加賀とびはしご登り保存会によって継承されていますが、金沢市消防団1,100人全員がその会員であり、消防訓練と保存会の活動を並行して行っているとのこと。今回は、はしごに乗り始めて12年という登り手によって約20分間で27種類の手に汗握る演技が披露されました。

 

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一人角力(愛媛県今治市)

●屋根の上で躍動する9頭の虎

 2日目のオープニングを飾ったのは、650年の歴史をもつ宮城県加美町の「火伏せの虎舞(とらまい)」です。中国の「雲は龍に従い、風は虎に従う」という故事にならって虎舞を奉納して火伏せを祈願したのが始まり。今では毎年4月29日に50頭の虎(2人1組)が出て、勇壮な太鼓に合わせて獅子舞ならぬ“虎舞”を披露しながら街中を練り歩きます。今回は9頭の虎が登場。ラストには本番同様、9頭が揃って大屋根に上り、お囃子に乗って踊る風情は格別のものでした。

 伝統行事・伝統芸能の宝庫である京都からは「六斎念仏踊り」が登場。鉦や太鼓を打ちながら念仏を唱えて歩く平安時代の「踊り念仏」が今に伝えられたもので、幾つもの団体が京都のお寺を中心に活動しています。今回出演したのは京都中堂寺六斎会でしたが、四ツ太鼓、豆太鼓を使った洗練された太鼓技には驚かされました。文化庁の「伝統文化こども教室事業」により小学生のグループも生まれるなど後継者も育っているとのことで、今回も93歳の長老と共に3歳、5歳、11歳の幼い三兄弟が達者な技を披露していました。

 地域伝統芸能まつりの柱のひとつが古典芸能です。今回は、能を代表する『葵上(あおいのうえ)』とキノコが増殖する不思議な狂言『菌(くさびら)』の古典に加え、東儀俊美さんが数百年ぶりに覚え書きから復元した舞楽『採桑老(さいしょうろう)』と梅原猛さんの新作能『河勝(かわかつ)』が上演されました。

 梅原さんは「能の研究をしてきた成果として、世阿弥の祖といわれている河勝を能にしたいと思った」と言い、梅原さんの分身である平成の拗ね者(茂山千之丞)が神社で河勝の怨霊と会うところから能が始まるという斬新な作品となっていました。

 2日間の締め括りとなったのが岐阜県美濃市の「花みこし」です。花みこしは、和紙で栄えた美濃らしく、ピンクの和紙でつくった大量の花びらを4~5メートルの割竹にさして何十本も花のシャワーのように飾った御輿のこと。2基の花みこしが、「オイサーオイサー」の掛け声とともにNHKホールを練り歩き、春を呼ぶ華やかなフィナーレとなりました。

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火伏せの虎舞(宮城県加美町)

 

●第9回地域伝統芸能まつり
[会期]2009年2月21日、22日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会、財団法人地域創造
[実行委員]梅原猛、鎌田東二、香山充弘、三枝成彰、下重暁子、鈴木健二、瀧野欣彌、中沢新一、林省吾、日向英実、山折哲雄、山本容子 *五十音順
[後援]総務省、文化庁、NHK

 

●出演団体等
第1日:「一人角力」(愛媛県今治市)、「因幡の傘踊り」(鳥取県鳥取市)、「箱根仙石原湯立獅子舞」(神奈川県箱根町)、「銀鏡神楽」(宮崎県西都市)、古典芸能・能『葵上』(塩津哲生ほか)、「真野音頭」(新潟県佐渡市)、「加賀鳶はしご登り」(石川県金沢市)、「山北棒踊り」(高知県香南市)
第2日:「火伏せの虎舞」(宮城県加美町)、「隠岐国分寺蓮華会舞」(島根県隠岐の島町)、「六斎念仏踊り」(京都市)、古典芸能・狂言『菌』(山本東次郎ほか)、古典芸能・舞楽『採桑老』(東儀俊美、十二音会)、古典芸能・新作能『河勝』(作:梅原猛/大槻文蔵、梅若玄祥、茂山千之丞ほか)、「花みこし」(岐阜県美濃市)

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