一般社団法人 地域創造

新潟市 水と土の芸術祭2009

 フランスの創造都市ナントと姉妹都市提携を結ぶなど、政令指定都市として新たな地域のあり方を模索している新潟市。駅周辺の再開発を推進するとともに、今年は7月18日から12月27日まで大規模なアートプロジェクト「水と土の芸術祭」を半年にわたって開催し、注目を集めている。10月31日、上半期を終え、延べ35万人を動員した芸術祭の現場を訪ねた。

 

 

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 新潟市では、今回の芸術祭を立ち上げるにあたり、越後妻有アートトリエンナーレの総合ディレクターである北川フラム氏を美術企画監に迎え、新潟市美術館と新津美術館の館長を委嘱してプロジェクトを進めてきた。広域での長期間の催しであり、7月のオープニングで訪れたときには準備不足が否めなかったが、萬代橋から望む信濃川河畔に高さ13メートルの竹のドーム『Water Front ─在水一方』(王文志作、写真上)が設置され、新しい新潟と芸術祭のシンボルとなっていた。

 “土”そのものを美術館に持ち込んで再評価した新潟市美術館では、パステル絵の具のように多様な色彩をもつ新潟の土を集めた『ソイル・ライブラリー/新潟』(栗田宏一)、阿賀野川上流の5トンの土を使って職人たちと共に竹を編む土台からつくった土壁作品『土の一瞬』(久住有生)、100年に1cmしか堆積しない地層の断面をそのままコピーするように採取した標本・土壌モノリス『はがしたての地球』などを挑戦的にインスタレーション。その美しさ、存在感は圧倒的だった。対する新津美術館には、信濃川・阿賀野川などからサンプリングしてきた水や、「ニイガタノタカラ」をテーマに蓄光樹脂でつくった小さなオブジェを使った作品など、子どもとアーティストの協働による作品が展示され、水と光と色が溢れていた。

 今回の芸術祭の特徴のひとつが、こうした参加型の地域再発見企画が多角的に試みられていることだ。その最大の成果が、フロッタージュ(物の上に紙をおいて鉛筆などで上から擦ったもの)作家の酒百宏一による「Niigata水の記憶プロジェクト」(写真下)だ。2年前から新潟に入り、市民や子どもたちと各地でワークショップを重ねて石碑や民具などを写し取った4,000点のフロッタージュを、廃校の木造体育館に広がる池のようにインスタレーション。コミュニティ・アートのひとつのあり方を呈示し、静かな感動を呼んでいた。

 芸術祭のもうひとつの特徴が作品を使ったパフォーマンスが仕掛けられていることで、今回取材に訪れたときにも、巨大な米倉庫の暗闇に蓄光樹脂のオブジェ1,600個を星が降るようにインスタレーションした小原典子の作品『ミズタマリ』の中でダンス&音楽パフォーマンスが行われていた。また、二宮家という豪農の米倉庫でも舞踏家の堀川久子と書家によるインスタレーション&パフォーマンスが行われていた。小原は、「越後妻有にも参加しているが、地域の人と関わるとその後も交流が続いて自分の人生と繋がり、その土地と繋がるから本当に面白い」と話す。

 芸術祭では新潟で豊かに受け継がれてきた伝統芸能も対象にしており、新潟の盆踊りや神楽を応援する取り組みもしてきた堀川は伝統芸能マップの作成や神楽祭りのディレクションを行うなど中心的な役割を担った。「今回改めて市内を回り自分たちのことを客観視してみて、河の存在の大きさを再認識した」と話す。

 広報責任者として関わった市交流推進課の五十嵐政人さんは、「越後妻有の成功事例は理解していたものの、果たして新潟市という都市で市民が現代アートをどうとらえるか確信がなかった。しかし、王さんの作品を市民が『バンブーハウス』『たまご』『竹の家』『いこいの家』などと愛称で呼び、台風18号で倒壊した時に涙を流している人を目の当たりにして、市民から一番遠いと思っていたアート作品が実は市民が一番参加しやすいものだというのを実感した」と振り返っていた。

 子どもも大人も時間も能力も問わずに参加できる現代アートに関わることで、市民がどんな古くて新しい新潟を発見するのか、試みは始まったばかりだ。

(坪池栄子)

 

●日本海政令市にいがた 水と土の芸術祭2009
新潟港開港140周年などを記念し、2009年を「大観光交流年」に位置づけている新潟市でスタートしたアートによる地域再生の新プロジェクト。
05年の合併を経て、07年に政令指定都市となった新潟市(人口約81万人、面積726k㎡)は、信濃川、阿賀野川という2つの大河を抱える日本一の米穀地帯。今回のアートプロジェクトは、2つの大河による恩恵と被害という“水と土”との闘いによってもたらされてきた同市の歴史と知恵と文化をアートによってひも解き、市民みんなで共有するとともに、国内外に発信し、新しい新潟のまちづくりの礎にしていこうと企画されたもの。13カ国・全61名のアーティストが参加し、屋内外で71作品を展開。10月8日の台風18号により、新潟在住の台湾人や市民サポーターとともに制作し、市民に親しまれていたバンブーハウスと呼ばれる王文志(ワン・ウェンヂー)の作品『Water Front ─在水一方』が倒壊する不幸な災害に見舞われたが、市民の要望により再生されるなど、話題となった。
[会期]7月18日~12月27日
[会場]新潟市美術館、新津美術館、新潟市歴史博物館ほか新潟市内各所
[主催]水と土の芸術祭実行委員会

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