一般社団法人 地域創造

千葉県市川市 NPO法人いちかわ市民文化ネットワーク チャレンジド・ミュージカル第6回公演『サバンナ2!』

 東京都に隣接する千葉県市川市は、人口約47万人。首都圏有数のベットタウン、福祉先進都市として知られる(*1 )。2011年2月26日、市内中心部にある市川市文化会館で、第2回市川市民芸術文化奨励賞受賞記念公演チャレンジド・ミュージカル第6回公演『サバンナ2!』が開催された(*2 )。障害児60人を含む90人余りの出演者が草原に生きる動物たちに扮し、アフリカン・パーカッショニストBB・モフランらの生演奏のリズムに乗せて舞台を駆け巡る。小ホールを埋め尽くした約400人(3回公演で約1,200人)の観客は、子どもたちの創造する喜びや達成感を実感し、障害を越えて文化的な豊かさを享受できる喜びを噛みしめているように見えた。 
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『サバンナ2!』公演写真 写真:加藤俊明

 チャレンジド・ミュージカルを主催するのは、「NPO法人いちかわ市民文化ネットワーク」(以下、いちぶんネット)だ。代表理事の吉原廣さんは東京の劇団で活動していた劇作家・演出家。地元の演劇鑑賞団体から誘いを受け、2002年に3世代の市民による「いちかわ市民ミュージカル」を立ち上げる(*3 )。第1回公演『いちかわ真夏の夜の夢』には子どもからお年寄りまで約300人が出演、3,500人を動員。この成功を機に、実行委員会有志で三世代市民の文化・交流活動を推進する任意団体いちぶんネットを結成する(04年1月NPO法人化)。
  そんななか、第2回公演で2人の障害児と出会い、転機を迎える。それまで障害者福祉には門外漢の吉原さんが、他の障害児や家族から参加したいとの要望を受けて、彼らを主軸にしたミュージカルを模索し始める。これを真っ先に応援したのが、知的障害児者の家族の会「市川手をつなぐ親の会」だ。参加者募集のチラシ配布から協賛金の提供、出演者の家族は衣装作りや公演運営を支援。地元の大学生もサポーターとして駆けつけ、4カ月間計20回の稽古を経て、05年12月チャレンジド・ミュージカル第1回公演『ハクナマタタ』の幕が明けた(*4 )。出演した障害者は55人、スワヒリ語で「大丈夫」を意味するタイトルどおり、肯定し受け入れることからすべてが始まるというメッセージが大きな感動を呼ぶ。「稽古場でのコミュニケーションを通して、子どもたちの殻が少しずつ破られていくのを感じた。それが表現のもつ力。舞台芸術が世の中に必要だと本気で思えるようになった」と吉原さんは語る。第1回公演から当時中学2年生の娘と出演している親の会の平野緑さんは「障害者の家族は狭い世界に生きている。健常者と一緒に何かができる、それを大勢の人たちに知ってもらえる唯一の機会。親子が普段の生活から解放されて、一体になれる貴重な時間」と言う。
  奨励賞を授与した市川市文化振興財団は、本公演の会場費を全額減免。事業チームリーダーの笈川文さんは「いちぶんネットは、自分たちが見えていない部分に目を向けて、行き届かない部分を下支えしてくれる地域の重要なNPO。チャレンジド・ミュージカルは参加する市民の生きる希望、目標でもあり、大事な市民活動」と高く評価する。
  いちぶんネットの活動は幅広い。小中学生対象の伝統文化教室、市民舞台スタッフやサポーターの養成事業、市民サークルの活動支援等も手がけ、市内の文化活動の繋ぎ役として機能している。そこから生まれた標語が「面白い活動は、人を街を、元気にする」だ。根底には、吉原さんが標榜する「“市民”文化都市いちかわ」の理念がある。「お仕着せではなく、自分たちが主体的にやっていることだから面白がり、責任をもつことができる。そのことで生き方が変わり、街も変わる。行政の支援は欲しい。しかし、個人個人の主体性こそが、これからの市民社会の基本にならなければ」と吉原さん。
  いちぶんネットの活動には約5,000人が参加、市民の1%を数える。彼らが掘り起こした市民活動の輪は決して小さくはない。今、一番の課題は活動拠点だ。市民舞台芸術学校と障害者自立支援施設を備えた“市民芸術センター”を構想し、市内の遊休施設の保存活用を求める活動も開始した(*5)。いちぶんネットは、文化と福祉が融合する社会に向けて、確かな一歩を踏み出している。

(Offsite Dance project代表・岡崎松恵)

●NPO法人いちかわ市民文化ネットワーク
[代表]吉原廣
[設立]2003年8月27日
〒272-0823 市川市東菅野5 -8-21-201
http://www.ichibun.net/
●チャレンジド・ミュージカル第6回公演『サバンナ2!』
[日程・会場]2011年2月26日、27日:市川市文化会館小ホール/3月6日:千葉市民会館大ホール
[主催]NPO法人いちかわ市民文化ネットワーク
[共催]財団法人市川市文化振興財団(市川公演)
[作・演出]吉原廣
[作曲]BB・モフラン
[振付]石川由美子
*1 市川市は、福祉の資源となる人材とネットワークが市民の中で育まれた歴史をもつ。
*2 市川市文化振興財団による表彰事業。奨励賞は、活躍が期待される市川市ゆかりの個人または団体に贈られる。
*3 いちかわ市民ミュージカル実行委員会が主催し、出演者300人、観客動員5,000人規模で2002年から2年ごとに開催。いちぶんネットが事務局を務める。
*4 独立行政法人福祉医療機構が助成。同名のドキュメンタリー映画をいちぶんネットが企画・製作・配給(2008年製作/102分/撮影・監督:恒松龍兵)。
*5 明治20年代に建てられた旧千葉県血清研究所跡地にある建造物の保存活用を推進する「赤レンガを生かす会」が2010年2月発足された。

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