一般社団法人 地域創造

平成23年度「アートミュージアムラボ」報告

 ステージラボの美術コースを独立させ、昨年度からスタートした美術館等職員のための研修プログラム「アートミュージアムラボ」。今年度は昨年度の高知県立美術館から埼玉県立近代美術館に会場を移し、12月7日から9日まで開催されました。アートミュージアムラボの特徴は、先進的な取り組みを行っている公立美術館を会場に、実際に行われている事業を現地で疑似体験する「事業体験プログラム」を取り入れていることです。今回は、2008年に地域の美術館と活動団体が集った「Saitama Muse Forum(SMF)」を立ち上げ、多彩な事業を展開している埼玉県立近代美術館の取り組みを中心に学びました。多大なご協力をいただきました関係者の皆様には心より感謝を申し上げます。

 

◎豪華な講師陣による刺激的な講義

 コーディネーターを務めたのは第1回あいちトリエンナーレの総合ディレクターであり、今年度から埼玉県立近代美術館館長に就任した建畠晢さんです。「状況も問題意識も異なる学芸員の方々に、地域資源を活かした美術館活動についてのヒントを持ち帰ってもらうには各館が共通して考えられる枠組みが必要だと思った」と言う建畠さん。それが哲学者の鷲田清一さんによる「アートと社会の関係」をテーマにした講義でした。

 鷲田さんは、「どうして現代アートのアーティストがアトリエや美術館ではなく、地域社会や障害者施設などで活動しているのかがかなり前から気になっていた。美術は何かをつくることだったのに、何もつくらないアーティストも増えている。彼らが行っていることの意味について、現時点で考えていることを話したい」と前置き。「若いボランティアとアーティストの協働作業を見ていると、ゆるゆるな空気でやっているのに最後に形や行動になるものはそれしかありえない着地点になっている。ルールや規律で秩序をつくるのではなく、アーティストの強い感覚と密度の高いセンスによって、ゆるゆるなのに知らない間に人が育っている」といった観察などを踏まえながら、アートの役割について示唆に富んだ講義が続きました。

 

Photo02.jpg
ゼミで講義を行う鷲田清一さん

 また、サウンドアーティストの藤本由紀夫さんと作曲家・鍵盤ハーモニカ奏者の野村誠さんという美術館で型破りな活動をしているアーティストによる講義も行われました。藤本さんは、1997年から10年にわたって1年に1日だけ美術館のあらゆる場所を開放して行った体感型展覧会「美術館の遠足」(西宮市大谷記念美術館)について紹介。野村さんは美術館の展示作品を“楽譜”に見立て、子どもや大人が一緒に音楽をつくるワークショップを参加者と一緒に行いました。「楽譜として演奏するために、普通なら数分しか鑑賞しない絵をみんなで長時間かけていろいろな角度から見るのがとても面白い」と野村さん。ルノアールの絵画など本物の作品を使ったワークショップは、絵との関わり方が180度変わる希有な体験でした。

 

◎SMFの多彩な事業を体験

 SMFの事業については、運営の中核メンバーを講師に招いたユニークな講義が行われました。建築家の青山恭之さん(うらわ建築塾代表)と三浦清史さん(JIA埼玉代表)は、美術館のセンターホールに設置された簡易組み立て式の伝統工法を活かした茶室「方丈庵」で、釘を用いない木造建築の継手を紹介。“エア点前”でお茶とお菓子がふるまわれるなど、新たな発想で伝統に光を当てる試みを体感しました。その後も茶室では、俳句朗読と音楽のコラボレーションや、彩のくに創作舞踊団による創作ダンスが披露され、SMFが美術館の空間を活かして取り組んできた事業のプレゼンテーションと講義が行われました。

 

Photo03.jpg
美術館センターホールに簡易式茶室「方丈庵」が登場した「Air点前でちょっと一息」

 また、埼玉在住の作曲家の柴山拓郎さんは、「プロデュース」というソフトを用い、人の話し声など楽器ではないものを使ってヘンテコ音楽をつくるワークショップを紹介。SMFのようなプラットフォームを構築し、美術館が場を提供することにより展開できる活動の可能性を肌で感じられるカリキュラムとなりました。

 

●アートミュージアムラボ 埼玉セッション
◎第1日(埼玉県立近代美術館)
・ゼミ1「アートと社会」(鷲田清一)
・ゼミ2「メディアとしての美術館」(藤本由紀夫)

 

◎第2日(埼玉県立近代美術館)
・実地研修イントロダクション「SMFプロジェクトとは?」(青山恭之)
・ゼミ3「臨機応築とアート─方丈庵と〈き〉がわりの假具から─」(三浦清史)
・ゼミ4「展示作品から作曲する」(野村誠)
・ゼミ5「音楽と映像をまとう俳句の通路─『ハイブリッド天国』と『空飛ぶ法王』俳句朗読コラボ」(夏石番矢)
・「Air点前でちょっと一息」(小宮幸子)
・ゼミ6「ダンスが茶室にやって来た!~コレオグラファーの目による創作ダンス公演について」(藤井香)
・ゼミ7「美術館と現代音楽の新たな接点」(柴山拓郎)
・ゼミ8「埼玉モデルをめざして─みんなでつくるミュージアム─」(山尾聖子)

 

◎第3日(埼玉県立近代美術館・北浦和西口銀座商店街)
・ゼミ9「美術館空間論─ホワイトキューブを超えて─」(青木淳)
・ゼミ10「今日はあなたも噂のひと:回遊美術館Ⅱ視察&参加、アーティストトーク」(山本耕一郎)
・ゼミ11「まちと美術館の協働:アートプロジェクトと地域資源・市民参加」(熊倉純子)
※「事業体験プログラム」は、ゼミ3~ゼミ8、ゼミ10

カテゴリー