一般社団法人 地域創造

東日本大震災の被災地より 青森県青森市 青森中央高校演劇部 被災地応援演劇 『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』

 県立青森中央高校演劇部は、全国高等学校演劇大会の常連として知られ、この10年で全国大会最優秀賞を2回受賞している強豪校である。顧問を務める同校教師の畑澤聖悟さんは、劇団渡辺源四郎商店「店主」として自身の作品を発表し続ける演劇人であり、青森市内に構えたアトリエ・グリーンパークでは公演やワークショップを行うなど幅広い活動を展開してきた。その畑澤さんと演劇部員が被災地に向けてできることとして取り組んでいるのが、『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』のボランティア公演だ。

 「深刻なダメージのなかった青森市にいる自分と、津波や原発で大きな被害を受けた他の地域が『東北』というエリアで同様にくくられていることに、強い違和感を感じていました。東北に居ながら被災していない自分は、被災地に向け何ができるのか。情勢が少し落ち着いた9月頃、演劇での慰問を決意しました。高齢者に対して孫世代の高校生が頑張る姿を観てもらうことが励みになるのではと思ったのです」と畑澤さん。顧問の決意に部員たちも賛同し、演劇大会に向けた作品で被災地に行くことを決めた。

 『もしイタ』は、震災の津波によって家族や友人を失い、青森に転校してきた主人公が、転校先の弱小野球部でマネージャーが呼んできたイタコと修行し、豪腕投手・沢村栄治の魂を下ろして快進撃を果たすという荒唐無稽な活劇だ。

 「被災地で、照明音響の機材や椅子、机の準備などについて負担をかけず、場所も選ばず、屋外でもできる作品をと突き詰めていった先に『もしイタ』は生まれました。『弱小野球部を舞台に高校生の挫折と成長を描く』という先が読めてしまうような本なのでコンクール向きの作品ではありませんが、部員たちが舞台上で活き活きと動き、表現できることには自信がありました。何のために演劇をやっているのかを、生徒も僕も真剣に考えて出来た作品なんです」(畑澤)

 『もしイタ』は地区大会、県大会を勝ち抜き、12月の東北ブロック大会で最優秀賞を受賞。8月の全国大会出場権を手にした。また、学校祭や青森市内の公演で募金を行い資金を調達。10月28日の八戸市を皮切りに気仙沼市、大船渡市、釜石市、久慈市で計7公演を行った。

 

 

Photo12.jpg

Photo13.jpg

上:11月26日、気仙沼市立面瀬中学校での被災地応援公演上演後、観客と交流する生徒たち
下:11月27日、旧釜石商業高校体育館近く、公演会場に向かう生徒たち写真提供:青森中央高校演劇部

 

 取材日の2月11日、3年生の卒業前、オリジナルメンバーでの最後の公演となる青森中央市民センター公演を観た。それは、部活で普段着ているであろうTシャツやジャージの衣装で、大小の道具は一切なく、効果音やBGMも部員の声や歌で表現するという極めてシンプルな、だからこそ想像をかきたてる舞台だった。そして、一人3役、4役をこなして走り回り、汗を流す26人の部員たちの奮闘が大いに客席を沸かせていた。

 「学校の管理を越えた活動になるので簡単に周囲の理解を得られたわけではありません。それでも部員たちの決意は揺らがなかった。今回のことで彼らは非常に大きな経験をしました。まず被災地の現状を自分の目で見たこと。そして終演後に現地の方と交流したこと。涙を流しながら手を握って『ありがとう』と言ってくれる高齢のお客様と接して、回を重ねるごとに顔つきが変わり、演技に強い芯が入っていくのが手に取るようにわかりました。今でも演劇部による慰問が絶対に正しかったとは言い切れない自分もいます。でも部員たちも僕も非常に学ぶところが大きかったし、演劇が人の役に立つこともあると実感できたことを、幸せに感じてもいいのではないかと思うのです」(畑澤)

 演出を手がけた2年生の高橋未来さんは言う。

 「私たちは、好きな演劇を部活動として好きなだけできます。それはとても幸せなことですが、でもそれだけで終わってはいけない、観ている方にも幸せを感じていただきたいと今回の慰問を通じて強く感じました。被災地の方たちは大変な状況のなかでも前向きで、そんな方たちが『もしイタ』を観てとても喜んでくださった。これまで以上に大きな演劇の魅力を知って、演劇なしでは生活できない気がしています」

 来年度はさらに多くの場所で上演したいとのこと。今春入学する新入部員と共に『もしイタ』はさらに成長し、広く旅することになりそうだ。

(演劇ライター・大堀久美子)

 

●青森中央高校演劇部による被災地応援演劇『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』

[作]畑澤聖悟
[これまでの公演]2011年10月28日:八戸シーガルビューホテル体育館/11月12日:ねぶたの家ワ・ラッセ イベントホール(青森市)/11月26日:気仙沼市立面瀬中学校ホール/11月26日:大船渡市民交流館カメリアホール/11月27日:旧釜石商業高校体育館/12月14日:久慈市文化会館小ホール/12月23日:青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸(青森市)/2012年1月17日:青森県立青森第一高等養護学校/2月11日:青森中央市民センター

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2011年度地域創造レター3月号-No.203東日本大震災の被災地より 青森県青森市 青森中央高校演劇部 被災地応援演劇 『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』