一般社団法人 地域創造

長崎県時津町 とぎつカナリーホール 音楽見本市&カナリー音の博物館2012

時津町は長崎空港から高速船で25分。大村湾に面した人口約3万人の町だ。10年前、この町に、公園と一体になり、屋上緑化による散策路が特徴の複合施設「とぎつカナリーホール」が誕生した。市民の文化活動支援と子どもたちの育成を目的とし、長崎市から車で20分余りの立地にあることから県内のクラシック演奏家や音楽を学ぶ学生の拠点ともなっている。
  6月9日、全館を使った「音楽見本市&カナリー音の博物館」を訪ねると、3代目の下妻路美子館長と若いスタッフが笑顔で出迎えてくれた。

 

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左:長崎大生らによるロビーでのコンサート
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中:カナリー・ウィンド・オーケストラ
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右:体験プログラムのひとつ、「サムの親子で音あそび!」

 吹き抜けになったガラス張りのロビーに、長崎大学教育学部音楽専攻の学生たちの演奏が響いている。館内には大勢の親子連れ。誰もが陽を浴びながら音楽を楽しんでいる。
  このイベントは、県内で活動する演奏家や長崎大学の先生、日頃からカナリーホールを利用している文化団体が集まり、2日間で30を超える体験型のプログラムやロビー演奏などを行うものだ。「ゴスペル講座」「私も弾けた!ヴァイオリン体験」「どどーんと和太鼓体験」「ウクレレ体験」「めざせ!!バンドマン」「夢見るピアニスト♪ホールでレコーディング!」等々。幼児から高齢者まで、延べ約1,500人が参加した。
  「パパと一緒にヴァイオリンが弾けて楽しかった」(保育園年長組)、「娘のフルートが聴けてドキドキしました」(小学5年生の母親)、「リハーサルの時はどうなることかと思いましたが、本番では音が合って嬉しかった」(ホールで演奏した中学生)、「私はこのホールのサポーターを10年続けていますが、この催しが大好きなんです」(70歳代のサポーターの女性)等々、どこを見ても音楽を演奏する人、教える人、聴く人、そして支える人の笑顔が溢れていた。

 9日には1日だけのカナリー・ウィンド・オーケストラも結成され、プロの演奏家の指導によりたった2時間半のパート練習とリハーサルで本番に臨んだ。小学生をメインとする約40人のオケが演奏したのは、ホルストの『マーチ』とスウェアリンジェンの『エクソディウム』。不安が広がる聴衆を前にピタリと演奏が決まると、ホールには温かい拍手が沸き起こっていた。
  ホール運営委員会の委員として開館当初から演奏家や大学との連携の要になってきたのがピアニストの堀内伊吹さん(長崎県音楽連盟常任理事、長崎大学副学長)だ。
  「体験が多くなりましたが、元々見本市は、若い演奏家を紹介する場が必要だという話をするなかから生まれた企画です。ここは、私たちが提案したことをスタッフが気持ちよく受け入れてくれる。770席で音響もいいし、県内のクラシック演奏家のメッカになっています」。
  本格的なホールをもたない長崎大学にとってカナリーホールの存在意義は大きく、見本市のサポートが音楽専攻の正式授業の一部に組み込まれている。今回は約15人が演奏し、約10人がアルバイトとしてサポートしていた。大学担当のロビーコンサートを企画した4年生の大楽知佳さんは、「長崎市内には大きなホールしかなくて緊張しますが、ここは開放的でのびのびと演奏できて、本当に好きなんです」と嬉しそうだった。
  10日、一番人気だったのが長崎大学准教授西田治(サム)さんが講師になった「親子で音あそび!」だ。幼児と両親を相手に、英国発祥のコミュニティ・ミュージックと呼ばれる創造型音楽体験を展開。大学には幼稚園教育コース・芸術的感性開発専攻があるものの、免許取得の必須授業が多くコミュニティ・ミュージックの枠が取れない。「学外でのこうした活動が自分の研究にもなります。ここはガラス張りで見通しがきくので、子どもたちの心がほぐれやすいです」と話す。
  公社のプロパー職員としてさまざまな事業企画を担当し、見本市の舞台監督として骨身を惜しまず走り回っていた副館長の田中昭彦氏は言う。「まだホールは10歳です。これからも地域でコツコツと皆さんと一緒に活動を続けて、1人でも多くのファンを増やしたいと思っています」
  児童館からは子どもたちの歓声が絶えず、裏山の野外公園は親子の遊び場となり、民俗資料館は高齢者のデイケアサービスのコースにもなっている。小さな町の小さなホールが、灯となって地域を温かく照らしている。

(ノンフィクション作家・神山典士)

 

●とぎつカナリーホール
2002年開館。770席のホール、リハーサル室1・練習室4、中央児童館(いずれもガラス張り)、体験型の民俗資料館で構成された複合施設。リハーサル室や練習室はほぼ100%稼働、ホールも60%を超える人気施設。1977年から文化協会が中心となり「文化会館建設基金」の募金活動を開始するなど市民の強い要望により建設。「誰もが住みたくなる町~時津」のシンボル。86年に1,600名の署名とともに町に提出された長崎総合科学大学の調査を受けて建設予定地を取得し、97年に文化の森公園として整備。有識者や市民が参画した「文化の森劇場おもて方委員会」により運営方針を検討。特徴ある事業として、長崎県音楽連盟・長崎大学教育学部と連携した「音楽見本市&カナリー音の博物館」と町内の小中学生を対象にした舞台芸術体験プログラム「カナリーステージナイン」を行う。指定管理者は時津町教育振興公社。

 

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