一般社団法人 地域創造

ステージラボ埼玉セッション報告

2012年7月10日~13日

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写真
左上:演劇コース・恵志美奈子さんのゼミでは、KJ法を用いてワークショップのあり方を徹底検証
右上:入門コースのゼミは音楽ホールのホワイエが会場となった
左下:共通プログラムでは全員でピナ・バウシュの代表作『カーネーション』にチャレンジ。客席まで使ってウォーキングを行った
右下:ダンスコースのゼミでは、近藤良平マジックで楽しい身体遊びを堪能した

 今回のステージラボは、芸術監督の蜷川幸雄さんが高齢者演劇のゴールド・シアターや若手俳優の育成を目指すネクスト・シアターなど果敢な取り組みをしている彩の国さいたま芸術劇場で行われました。大ホール、小ホール、音楽ホール、多くの練習室をもつ恵まれた複合施設の一部が会場となり、ちょうど蜷川演出による井上ひさし作『しみじみ日本・乃木大将』の初日を控えた稽古中だったことから、独特の緊張感が漂っていました。

 コーディネーターを務めたのは、彩の国さいたま芸術劇場の事業部長である渡辺弘さん(自主事業Ⅰ(演劇)コース)と舞踊部門プロデューサーの佐藤まいみさん(自主事業Ⅱ(ダンス)コース)、東宝の蜷川作品やアートNPOでの現場経験をもつ跡見学園女子大学教授の曽田修司さん(ホール入門コース)です。開催館が企画している共通プログラムでは、2009年に亡くなり舞踊界に大きな衝撃を与えたピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団で活躍する日本人ダンサー・瀬山亜津咲さんが登場するなど、贅沢なプログラムとなりました。

 なお、共催者として、埼玉県、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団に全面的なご協力をいただきました。

 

●基本に立ち返ったプログラム

 これまでステージラボでは、アウトリーチやワークショップなどの手法を体験する機会を多く提供してきましたが、今回はホールの意義やワークショップの目的を改めて問い直し、劇場法や芸術助成制度について考えるなど、基本に立ち返ったゼミが多く企画されました。

 例えば入門コースでは、「アートの意義をどう説明するか」を課題にしたディスカッションが行われました。19世紀末に誕生したクラシックバレエの代表的演目『眠れる森の美女』から現代のコンテンポラリーダンスまで4作品の映像を見た後、「アートを非愛好家にどう伝えるか」「優れたアートをどう判断するか」「公共ホールに専門家は必要か」「地域のニーズにどう応えるか」「公共ホールは何のためにあるのか」からテーマを選び、グループに分かれて議論。「映像を見る前は敷居を低くすることを話し合っていたが、見てからは固定概念を払拭することが大切だと思うようになった」という参加者に対し、曽田コーディネーターは「今まで誰もつくったことがない表現は、最初は受け入れられないかもしれない。しかし、優れた作品が出来ることによって初めて人の心や時代の精神が形になり、みんなに受け入れられるものになる。そういう役割がアートにあることを、社会的に意味のあるものとして広めていくことが必要だと思う」とコメントしていました。短い時間でしたが、入門コースとは思えない難問と格闘したゼミとなりました。

 演劇コースでは、「誰のために何のためにワークショップをやるのかを考えてもらいたかった」という渡辺コーディネーターが、世田谷パブリックシアター学芸担当の恵志美奈子さんを講師に招き、ワークショップとは何かを参加者と共にKJ法で徹底的にブレインストーミングしました。「集客・販促のためにやるものだと思いがちだったが、それでは広がっていかないというのがよくわかった」「劇場がどうありたいのかが明らかでないとワークショップも企画できないと思った」「劇場で子育てワークショップをやってもいいのだと思った」など、それぞれに発見のあったゼミとなりました。

 また、実際に岩崎正裕さんによる演劇ワークショップも体験。『ロミオとジュリエット』を自分の喋る台詞として書き直して実演するもので、方言でジュリエットを口説くロミオが登場するなど、発表会は大爆笑でした。3日目に行われた劇場法についての講義では、アマチュア団体が多い、表現の多様性があるという日本の舞台芸術の現状に照らした劇場のあり方についてまで議論が及びました。

 

●充実したワークショップのダンスコース

 国内外にネットワークをもつ佐藤コーディネーターによるダンスコースでは、コンドルズの近藤良平さん、ヴッパタール舞踊団の瀬山亜津咲さんが全4コマを使って個性溢れるワークショップを展開しました。

 近藤さんは実際に学校で行っているプログラムとして2人組や3人組になって行う身体遊びを紹介。近藤さんの巧みなリードで身体を動かすことの抵抗感から解放された参加者たちは、子ども時代に戻って喜々として身体遊びを満喫していました。「僕は、エアロビクスみたいに上手い人が先生の前で踊って、リズムを取るのが苦手な人が後ろにいるような、あるいは鏡に映っている自分を見ながら踊るような構図が好きじゃない。相棒と組みになって動くとお互いが補いあって落ちこぼれないし、日常の動きで楽しく遊べる」と近藤さん。

 ヴッパタール舞踊団でダンサーとして12年活躍してきた瀬山さんは、共通プログラムでも講師を務め、ピナ・バウシュの代表作である『カーネーション』のラインダンスに全員でトライしました。ゆっくり歩きながら春・夏・秋・冬をイメージした手の振りをするというものでしたが、春は指で短い芝生を表す何気ない動きにもかかわらず、みるみるダンスになっていくプロセスは驚くべきものでした。

 また、事前課題・ゼミを通じて「自主事業として取り組むホールのネットワーク事業」の企画をまとめ上げました。近い将来、ここから何らかの事業が具体化しそうなチームワークが生まれていました。

 

埼玉セッション プログラム表

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●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
曽田修司(跡見学園女子大学マネジメント学部マネジメント学科教授)
◎自主事業Ⅰ(演劇)コース
渡辺弘(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団事業部長)
◎自主事業Ⅱ(ダンス)コース
佐藤まいみ(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団舞踊部門プロデューサー)

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