一般社団法人 地域創造

新潟市 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 全国1コイン・コンサート・グランプリ in NIIGATA

 平日昼の1時間、1コイン(500円)という破格の低料金で質の高いコンサートが気軽に楽しめる「1コイン・コンサート」(以下、1コイン)。新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)が2002年から始めたもので、ネーミングの面白さとあいまってその形式が評判を呼び、全国のホールに広まった企画である。

 9月13日、その10周年を記念して「全国1コイン・コンサート・グランプリ in NIIGATA」が開かれた。精力的に1コインを実施している三重県文化会館、兵庫県立芸術文化センターとりゅーとぴあが連携し、各館が選出した代表アーティスト計4組が出演。約1,300人もの1コイン・ファンが詰めかけ、競演に聴き入った。

 

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人気投票で圧倒的な支持のカルテット・スピリタス(上)は「リピーターが多く、たくさんの引き出しがないとステージには立てない」と語る。新潟市出身のチェリスト・横坂源さん(下)は「1コイン出演は19歳の時。今回、改めて自分の演奏を振り返ることができました」と感慨深そうだった。
「客席の反応が温かくて印象的。1コインはクラシックを聴いていただく入口として有効ですね」と言うのはソプラノの石橋栄実さん。観客との距離が近い1コインは、アーティストにとって刺激となる企画といえそうだ。
写真提供:(公財)新潟市芸術文化振興財団

 

 1コインが誕生したのは、りゅーとぴあ音楽担当の中尾友彰さんが聴衆育成のために主婦や高齢者層にヒアリング調査したことがきっかけだった。コンサートには行きたいがチケットが高価、買い方がわからない、曲が難しそう、時間が長い─。それらを解消すべく、チケットレスの500円、トーク入りの親しみやすい内容、短時間、出演者は演奏機会の少ない若手や知名度の低いアーティスト、という枠組みが生まれた。

 平日昼に有料で人が集まるのかと懸念する声もあったが、蓋を開けてみると大盛況。現在では年6回の開催で平均約1,000人が来場。7割の人がリピーターとなり、40歳代以降の女性を中心に新潟市民に浸透している。「『親の介護で疲れている時に心洗われる音楽を聴いて救われた』など、自分の人生を重ね合わせた感想を書く方が多いんです」と中尾さんが言うように、従来のクラシックファンとは異なる層の取り込みに成功。06年からは4年に一度、人気投票で出演者を選ぶガラコンサートも実施、観客参加により親近感と緊張感をつくり出す工夫もしてきた。

 りゅーとぴあの成功を踏まえ、兵庫県立芸術文化センターでは05年の開館当初から実施。現在はほぼ月1回、2,000席の大ホールの公演が毎回満席になる大ヒット企画となっている。出演者は関西ゆかりの35歳以下の若手クラシック演奏家に限り、全席指定。予約が殺到するため、“1コイン特電”まで設け、弦楽器やピアノの場合は1日2回公演を行うこともある。同センター制作担当の中野聖子さんは、「仲間を誘って、大勢でいらっしゃる高齢者の方が多いです。公演の後にランチを楽しむ、そんなライフスタイルが定着しています」と話す。さらなる若手育成に繋げるため、専属オーケストラである兵庫芸術文化センター管弦楽団と共演する「ドリームコンチェルト」という新シリーズを始めたところだ。

 後発の三重県文化会館が1コインを始めたのは08年度だが、この7月までに既に30回を開催。夜公演として18時半からの「ワンコインジャズスタイル」を実施しているほか、四日市市民文化会館、多気町、御浜町などと連携して、1コインの拡大を図っている。公演事業グループリーダーの川島健太郎さんは、「県内巡演ができれば、アーティストにとってもメリットは大きい。1コインを経験したアーティストがフルコンサートを開くまでに成長することもあります。今回ご紹介したGONNA(ガナ)もまさしくそうしたグループです」。和太鼓×マリンバのグループGONNAの浅岡栄子さんは、「野外フェスやお祭りが活動の場になることが多い私たちにとって、こんな大きな音楽ホールで演奏できること自体が大きな喜びです」と顔をほころばせていた。

 アーティストだけでなく、ホール職員にとってもメリットの大きい、やりがいのある企画だと中尾さん、川島さん、中野さんは口を揃える。将来性のあるアーティストを発掘し、短い時間とはいえ一緒になってコンサートをつくることができ、チケット販売に煩わされることがない。「11時半開演で、多くのアーティストは前日入りするので、密接に付き合うことができる。そういう人脈が広がっていくのはホールにとって財産になります。観客、アーティスト、制作側のみんながハッピーになれる企画です」と中尾さんは胸を張る。公立文化施設における事業の原点といっていい1コイン・コンサート。誕生から10年が経っても色褪せることなく、それぞれの館の工夫でこれからも大いに発展していくのではないだろうか。

 

(ライター・土屋典子)

 

●~りゅーとぴあ・1コイン・コンサート10周年記念~
「全国1コイン・コンサート・グランプリ in NIIGATA」
[主催]公益財団法人新潟市芸術文化振興財団
[会期]2012年9月13日
[会場]りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館コンサートホール
[出演]三重県文化会館代表:GONNA(和太鼓×マリンバ)、兵庫県立芸術文化センター代表:石橋栄実&佐藤明子(ソプラノ&ピアノ)、りゅーとぴあ代表:横坂源&北村朋幹(チェロ&ピアノ)/カルテット・スピリタス(サクソフォン四重奏)

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