一般社団法人 地域創造

北海道滝川市 たきかわホール 子どもと作る音楽劇『どんぐりと山猫』

 北海道の中央部、空知地域にはNPOが指定管理者になった公立ホールが集中している。深川市文化交流ホールみ・らい(NPO法人深川市舞台芸術交流協会)、たきかわホール(NPO法人空知文化工房)、砂川市地域交流センターゆう(NPO法人ゆう)、美唄市民会館(NPO法人美唄市文化協会)、そして隣の上川地域にある富良野演劇工場(NPO法人ふらの演劇工房)。2010年からは、市民劇を集めた「そらち演劇フェスティバル」がスタートするなど、連携の取り組みも始まっている。11月4日、今年のフェスティバルに先立ち、宮沢賢治の音楽劇『どんぐりと山猫』の地元公演が行われるたきかわホールの現場を訪ねた。

 札幌駅から特急で45分。函館本線と根室本線が交叉する特急停車駅の滝川に降り立って驚いた。駅前商店街の空洞化は想像以上で、3階にたきかわホールが入居している駅前再開発ビル内にも空きスペースが広がっていた。そんななか、ホールがある一画は熱気を帯び、客席は子どもから大人までさまざまな世代のお客さんで満席だった。

  『どんぐりと山猫』は、元黒テントの演出家で東京を拠点にオペラなども手がける伊藤明子さん(滝川出身)が演出を担当し、こんにゃく座代表の萩京子さんの合唱曲とオペラ曲を構成したもの。朗読サークルによる『猫の事務所』に続き、生ピアノと合唱にのせて、小学5年生から50歳代までの市民が音楽劇に挑んだ。いくつものトランク、猫耳の譜面台、森を描いた幕など洒落た道具仕立てで、お揃いの赤いつなぎ姿の子どもどんぐりが「自分が一番」と競いあうなど、アットホームな舞台になっていた。

 

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上:『どんぐりと山猫』 © 空知文化工房
下:たきかわホールのエントランス

 

 たきかわホールは、85年に駅前再開発ビルが建設された当時は第三セクターだった。しかし、5万人以上いた人口が4万3千にまで落ち込み、郊外型店の増加などで最大のテナントだった西友が03年に撤退することになり、滝川市がホールを取得。駅前活性化と市民による運営を目指して文化連盟や市内の鑑賞団体と検討を行い、たきかわホール運営協議会を設立して02年にリニューアルオープンさせ、04年にはNPO法人たきかわホールとなって業務を行ってきた。

 教育委員会社会教育課の吉住晴美さんは、「予算は僅かなのに外部資金を受けて創造事業を行い、フリーマーケットを定期的に開催するなど、NPOの活動がなければ駅前は灯が消えたようになっていたと思います。熱意が人を連れてくるというのがよくわかりました」と評価する。たきかわ文化センターの指定管理者となるなど、活動が拡大したことから10年に名称を変更。現在は空知文化工房としてホールの運営にあたっている。

 NPO法人の事務局長を務め、今回の音楽劇の企画者でもある長田千秋さんは、「滝川おやこ劇場の事務局長をしていた縁でNPOの設立とホール運営に携わることになりました。滝川市では01年から07年まで3回ほど滝川市民吹奏楽団が生演奏するような大規模な市民ミュージカルが行われました。でも、次の展開ができず、子どもたちが演劇を体験する機会を失ってしまった。NPOとして文化活動をするならこうした子どもたちのことを抜きにはできない。それで10年に市民劇をスタートし、3年目で規模は小さくても音楽劇までもっていきたいと企画しました。2カ月に1回ぐらい空知のホールが集まって交流会をしているのですが、各ホールの市民劇を集めたらフェスティバルができるねと、連携企画が決まりました」と話す。

 市民ミュージカルの立ち上げに携わった当時の教育委員会職員・森昌之さんは、「伊藤さんには市民ミュージカルの演出をしてもらって以来、年3日程度のワークショップを続けていただきました。それがきっかけで自分で森組という劇団まで立ち上げてしまった」と笑い、今回も裏方として大活躍していた。

 イベントとしてのミュージカルは途絶えても、創作意欲をもった人々の繋がりが地域に生まれ、新たなNPOホールという幕が上がった─。伊藤さんは、「みんなで集まってつくることが楽しい」ということを忘れないためにワークショップを続ける意味があると言われていたが、案外、そこが市民劇の、NPOホールの核心なのかもしれない。

 

(坪池栄子)

 

●子どもと作る音楽劇“宮沢賢治歌劇場”『どんぐりと山猫』
[主催]NPO法人空知文化工房
[共催]公益財団法人北海道文化財団
[会期]2012年11月4日(2回公演)
[会場]たきかわホール

 

*たきかわホール
2002年12月リニューアルオープン。最大200席の可動式ホール、リハーサル室、多目的ギャラリーなどを備える。
所在地:北海道滝川市栄町3-9-2 スマイルビル3F

 

*NPO法人空知文化工房
市民主導の文化芸術創造空間とまちを活性化させる賑わい空間の創出を目指して活動。「たきかわ文化センター」、駅前再開発ビル内の「たきかわホール」「駅前ひろば く・る・る」「親子ひろば とんとん」を運営。
http://bunka-kobo.jp/

 

*そらち演劇フェスティバル
会期:2012年12月8日、9日
会場:深川市文化交流ホールみ・らい
出演:劇団WA!(美唄市)、砂川市民劇団一石、たきかわ市民劇、富良野市民劇団へそ家族、深川組☆48

 

*たきかわ市民ミュージカル
第1回、第2回公演は『あいと地球と競売人』、第3回公演は滝川の成り立ちを取材したオリジナル作品『シレニアの歌』(作:山元清多、演出:伊藤明子)で、滝川在住の杉吉貢(画家)が実行委員長となり、出演者70人、滝川市民吹奏楽団45人、スタッフを含めて約300人が関わる大規模な取り組みとなった。

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