一般社団法人 地域創造

山形県山形市 山形国際ドキュメンタリー映画祭2013

 東北で唯一の国際映画祭である「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」には四半世紀の歴史がある。小川紳助監督が設立に関わった第1回の1989年から現在まで、ドメスティックに閉じた日本の視野を打破すべく、「世界のリアルへの窓であるとともに、世界の最先端を紹介する文化芸術的フロンティアであり続ける」(藤岡朝子・東京事務所ディレクター)という活動指針のもとに隔年ごとに開催されてきた。12回目となる今年は、実に123に及ぶ国と地域から1,761本の応募作品が寄せられた。

  中東革命後の余波に焦点を当てた「それぞれの『アラブの春』」や、アジアの今の姿を映し出す「アジア千波万波」など、今回は8つの多角的な視点から特集プログラムが組まれた。なかでも注目を集めたのは、3.11後の被災地の人々の現実を活写し、大小さまざまな課題を丁寧にすくい上げる「ともにある Cinema with Us 2013」特集上映だ。震災から約半年後の前回映画祭では手元に集まった映画長短編29本を上映したが、今回は大阪の毎日放送が継続的に取材に入っている南三陸町を舞台にした『生き抜く』などのテレビ映像も含め、国内制作14作品、海外1作品をプログラム。10月13日、14日、取材に訪れると山形美術館を会場にした特集上映には多くの人が訪れ、その他、震災関連映像のアーカイブ化や震災を撮り続けることをテーマにしたディスカッションなども行われていた。

 前回から「ともにある~」のコーディネーターを務めているのが自身も仙台で被災した小川直人さん(せんだいメディアテーク学芸員)だ。小川さんたちが特集に合わせて編集したブックレットには、2011年から13年9月につくられた東日本大震災をめぐるドキュメンタリー映画のリストが掲載されており、その数は181本に上っていた。
  震災直後、おそらくキー局合計で「1万時間弱」連続放送されたテレビの初動映像は、大半が三陸沿岸を襲う津波や、福島第一原発への放水作戦など、我が目を疑う生々しいものだった。それに対して、今ではそうしたセンセーショナルな映像から、「日常となった震災後を生きる人々の、日常そのもの」を切り取ろうとする作品に、作家も観客も向き合えるようになってきたと小川さんは明かす。例えば、高野裕之監督『仙台の下水道災害復旧』は、仙台市地下に張り巡らされた下水管の復旧工事の模様を淡々と地道に記録したものだ。また、我妻和樹監督『波伝谷を生きる人びと ─第1部─』のように、南三陸波伝谷地区で海の恵みを受けて暮らす人々の、漁に出て、酒を飲み、祭を楽しむ震災前の村の生活を収めたものもあり、考えさせられた。

 
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「ともにある Cinema with Us 2013」の会場となった山形美術館
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続々と鑑賞者が入場
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小川直人さんの司会で行われたディスカッション「震災をめぐるドキュメンタリー映画のアーカイブ」

 「震災への関心の低下が嘆かれているが、それはある見方からの関心が低くなっただけ。現地では関心をもたざるを得ないし、生活者として日々いろいろある。だからジャーナリズムとして包括的に良くまとまっているものよりも、人間のだらしない面まで含めて映し出してしまうような映像を選びたかった。170作品ぐらい下見した内で一番多かった(約50作)福島を映した作品。応募作の多さから、日常レベルで問題が複雑化している場所であることが理解された。それと、YIDFFは映画が対象だが、今回は放送後に流れる機会の少ないテレビドキュメンタリーを含めた。東北で東日本大震災を特集できるのか不安もあったが、YIDFFという歴史ある場と、ドキュメンタリー映画を見続けている信頼のおける観客がいたから企画できたと思う」と小川さん。一昨年よりも、震災に冷静に対処できるように観客がなってきているのだろう。実際、上映会後の監督との質疑応答でも、感傷的にならない骨太な質問が上がった。
  藤岡さんは、「関心の移り変わりが激しい首都圏よりも、山形でこそ、長期的に被災地を見つめ、世界に震災以後の現実を発信し続けていける可能性がある。今後もこの特集上映を継続していきたいし、震災が日本社会に生きる人々に与えた影響と、その表現を見守っていきたい」と話していた。現在YIDFFでは、震災関連映像の上映機会を将来的に増やせるよう、アーカイブ化を検討しているとのこと。
  歴史と信頼のある映画祭だからこそ可能な、震災と映画のあり方を今後もじっくりと探っていってもらいたい。

(ジャーナリスト・岩城京子)

 

●山形国際ドキュメンタリー映画祭2013
[主催]特定非営利活動法人山形国際ドキュメンタリー映画祭
[共催]山形市
[会期]2013年10月10日~17日
[会場]山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形、山形美術館ほか
http://www.yidff.jp

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