一般社団法人 地域創造

平成25年度アートミュージアムラボ報告

平成25年度アートミュージアムラボ報告 2013年12月4日~6日 

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写真
左上:ゼミ1「震災と美術館① 宮城県美術館」
右上:ゼミ5「《3がつ11にちをわすれないためにセンター》の活動について」
左下:事業体験プログラム「考えるテーブル×地域創造・アートミュージアムラボ」
右下:東北歴史博物館見学「安定化処置と仮保管の現場」

 今回で4回目となる公立美術館等職員のための研修プログラム「アートミュージアムラボ」が、12月4日から6日まで宮城県美術館との共催により開催されました。この研修の特徴は、先進的な地域交流型の事業を行っている公立美術館の実際の事業体験が組み込まれていることです。今回は、東日本大震災に際して文化財レスキューで重要な役割を果たした宮城県美術館のコーディネートにより、“地域とミュージアムをつなぐもの─震災から学ぶ美術館活動の指針”をテーマに、被災地の公立文化施設の経験を共有できるカリキュラムが実現。大震災という非常事態に直面して浮き彫りになった、日頃からミュージアムは地域とどのように関わっていくべきかという課題、またそれを踏まえた上での日常の活動や運営に関する課題について、参加者がじっくり考える機会となりました。協力をいただきました関係者の皆様には、心より感謝を申し上げます。

 

●東北の公立文化施設に学ぶ
 コーディネーターを務めたのは、仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)などによる豊富なネットワークをもつ宮城県美術館学芸部長の三上満良さんです。1日目のゼミ1では、同館研究員の大嶋貴明さんがレクチャー。同館の被災状況と、津波被害にあった石巻文化センターの所蔵品受け入れなどの現状に加え、3.11前からの動きについて解説がありました。
  「1993年に全国美術館会議で災害に対する研修があり、その2年後に阪神淡路大震災に見舞われました。東京の学芸員やアメリカからの招聘チームが作品のレスキューにあたり、報告書を作成。そこで提示されたのが、展示室の改善、相互扶助の仕組み(ブロック化による情報集約、学芸員をバックアップするような支援等)、美術館の役割の見直し(緊急時の地域施設としての役割)といった考え方でした。しかし、復興のプロセスや、日常に戻っていく過程のあり方といったテーマについては検討されていなかった」と話し、今回の震災で浮上した新たな課題への対策に取り組み、今後の災害に備えていくことの重要性を訴えました。
  ゼミ2では、石巻文化センターを所管する石巻市教育委員会の佐々木淳さんが、当時の模様を振り返り、特にコレクションを有する施設として直面した問題点を指摘。「震災当日は組織体制が機能せず、指示を出す人が誰もいなかった。施設は1階が3メートル浸水。取り残された職員はわずかな飲食料で凌ぎ、数日して火事が収まってから脱出しました。震災後、市職員は避難所対応に駆り出され、指定管理者の職員は自宅待機。ただちに所蔵品の救出活動ができる状況ではなかった。3月下旬に県から、4月8日に全国美術館会議から文化財レスキューの連絡が届き、すぐに依頼しましたが、近くの製紙工場の材料が溶け出てレスキューは困難を極めました。被災を免れた資料は、現在東北歴史博物館などで保管していただいていますが、歴史資料の生命線である調査データはすべて失われました。ミュージアムの命はコレクションであり、災害時の保存・継承のための仕組みを考えなければと、改めて思いました」。
  そして、初日最後の講師となったのが、震災の5年前に明治三陸大津波をテーマにした展覧会「描かれた惨状」を企画して警鐘を鳴らしていた、気仙沼市のリアス・アーク美術館の山内宏泰学芸係長です。家を失った職員もいることや震災時の食糧調達の難しさ、建物が特殊な構造だったため被害状況がすぐには把握できず修繕工事に着手できなかったこと等を報告しました。
  そのような状況下、山内さんは、震災直後から自主的にカメラを手に現場写真を撮り続け被害の実態を調査。それらの資料により2013年4月の全館開館に合わせて常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」をスタート。また、「“瓦礫”という単語は“価値のないもの”という意味。しかし今瓦礫と呼ばれているものは、破壊され奪われた、私たちの大切な家や家財など、一人一人の人生の記憶が詰まったもので、そのような言葉で示すことはできない。私たちはそれを被災物と呼び、展示にあたっては、それぞれの被災物に宿る記憶を現地で見聞きしたことから紡いだ文章にして添えました。このような手法は博物館学的にはタブーですが、そうした記憶こそが守り伝えていかなければならない文化だと考えています」と、地域に根ざしたミュージアムだから可能な、震災を語り継いでいくための新しい活動のあり方を紹介しました。

 

●充実した視察と体験プログラム
 2日目には、東北歴史博物館やせんだいメディアテークを訪問し、それぞれのキーパーソンが実践してきた活動を紹介しました。まず東北歴史博物館では、被害を受けた民俗資料の修復現場を視察し、震災当時は県教育委員会文化財保護課で文化財レスキューのコーディネートをした小谷竜介さん(現・同博物館副主任研究員)の講義を受けました。
  「レスキューの手順は、収蔵庫前の瓦礫撤去、資料救出と一時保管、応急処置、その後の対応となりますが、応急対応期(数カ月間)、元の状態に戻す復旧期(3年目~)、抜本的な再構築を実現する再生期(4年目~)、そこから先に進んでいく発展期(5年目~)と極めて長期間にわたります。連絡会議を設けて取り組んでいますが、未指定文化財や個人所有の資料の処置、保管場所の確保、資料を把握している学芸員が異動していることなど、まだ課題は山積みです」と、文化財レスキューが長期間にわたる地道な作業であることを伝えました。
  メディアテークでは企画・活動支援室長の甲斐賢治さんから、震災の記録収集を行っている《3がつ11にちをわすれないためにセンター》の活動についてレクチャーしていただきました。事業体験プログラムでは、3.11を他者と一緒に考える場として立ち上げた「考えるテーブル」を、参加者が一般市民と共に2時間にわたって体験。震災という出来事をどのように考えているかについて、ファシリテーターのサポートにより対話を深めていきました。ここでは震災をきっかけとして、人々が集い語り合える場を市民と共につくり上げ、継続してきたミュージアムの活動を実体験しました。
  このほか、アーティストの視点からユニークなボランティア活動を行ってきたタノタイガさん、震災遺構のメモリアルプロジェクトなどを実践してきた村上タカシさんがそれぞれの取り組みを紹介。3日目には岩手県立美術館の企画予算が凍結された状況下での活動内容や、福島県立美術館における3.11以降の展覧会企画に対する住民の反応などについての講義もあり、震災から学んだ地域とミュージアムの関係性を複眼的にとらえた3日間となりました。

 

●研修プログラム
◎第1日(12月4日/宮城県美術館)
・ゼミ1「震災と美術館① 宮城県美術館」(大嶋貴明)
・ゼミ2「震災と美術館② 石巻文化センター」(佐々木淳)
・ゼミ3「震災と美術館③ リアス・アーク美術館」(山内宏泰)
・フリーディスカッション1
モデレーター:三上満良、大嶋貴明、佐々木淳、山内宏泰
◎第2日(12月5日/東北歴史博物館、せんだいメディアテーク)
・ゼミ4「宮城県における文化財レスキュー活動について」(小谷竜介)
・東北歴史博物館見学「安定化処置と仮保管の現場」
・ゼミ5「《3がつ11にちをわすれないためにセンター》の活動について」(甲斐賢治)
・ゼミ6「震災と美術/美術家①」(タノタイガ)
・ゼミ7「震災と美術/美術家②」(村上タカシ)
・事業体験プログラム「考えるテーブル×地域創造・アートミュージアムラボ」(西村高宏)
◎第3日(12月6日/宮城県美術館)
・ゼミ8「地域と美術館/支援する側?される側?」(大野正勝)
・ゼミ9「復興と“アートのちから”」(伊藤匡)
・フリーディスカッション2
モデレーター:三上満良、大嶋貴明、甲斐賢治、大野正勝、伊藤匡

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