一般社団法人 地域創造

大阪市 日本センチュリー交響楽団×仕事ライブラリーハローライフ music project 「The Work」

 プロのオーケストラ楽団員と就労活動中の若者という、これまで接点のなかった人々が集い、新しい音楽を創造するというmusic project「The Work」が大阪で始まった。これは、「オーケストラは社会の一員として、あらゆる層に音楽を提供する活動を積極的に行っていくべきだ」と熱く語る日本センチュリー交響楽団マネージャーの柿塚拓真さんの提案でスタートしたものだ。
  第1期は音楽家の野村誠さんをディレクターに迎え、就労活動中の若者11人、センチュリーの演奏家6名が参加。4月8日から計6回のワークショップが実施され、最終日の7月6日には大阪駅南ゲート広場での演奏も行われた。

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「The Work」発表会で集まった参加者たち

 ワークショップでは、楽譜がなくても演奏できる音具や言葉などでの遊びが行われ、それを野村さんがディレクション(作曲)しながら楽曲を紡いでいく。6月27日、6回目となる本番リハーサルを取材したが、不思議なイントネーションで「ニホンセンチュリーコウキョウガクダン」などと奏でる「日本センチュリー交響楽団のテーマ」と「ハローライフ協奏曲」の2曲の稽古が行われ、不思議なコラボレーションが展開していた。
  参加者の女性は、「これまで私はできるだけ目立たないように生きてきた。今も本番に出たくない気持ちが強い。でも3カ月一緒にやってきた仲間がいるので頑張れると思う」と小さな、だがしっかりとした声で抱負を語っていた。
  こうした取り組みが始まった背景には、同楽団の大きな危機感がある。1989年に大阪府によって大阪センチュリー交響楽団として設立され、手厚く保護されてきたが、2008年以降の府の財政改革によって補助金の打ち切りが決定。11年には名称を変更して完全民営化を余儀なくされる。大阪センチュリー時代にも、フルオーケストラで子どもたちの目の前で演奏したり、楽器に触れてもらう普及プログラム「タッチ・ジ・オーケストラ」、病院などでのコンサートを実施してきたが、それらの活動によって補助金の継続が認められることはなかった。
  柿塚さんは、「よい音楽を聴いてもらうだけでなく、もっと社会課題に踏み込んだ活動をしなければ楽団は生き残れない」と考え、13年にブリティッシュ・カウンシルとBBC交響楽団が主催した英国研修プログラム「BBC交響楽団『Diverse Orchestra Japan』派遣プログラム」に参加。英国のオーケストラが行っている多様な教育プログラムを視察。楽団だけでこうしたプログラムを実現することは難しいと実感し、パートナー探しに着手する。
  社会課題に専門的に取り組んでいる団体との連携を模索する中で出会ったのが、ユニークな若者就労支援施設「ハローライフ」などを運営するNPO法人スマイルスタイルだった。もともと若者たちの抱えている課題に対してアプローチが足りないと考えていた柿塚さんには閃くものがあった。代表の塩山諒さんは、「まさかオーケストラが若者就労支援に関心をもってくれるとは!でも、お互いに新しい価値をつくろうとしていることがわかり、ハローライフの登録者から希望者を募りました」と言う。
  音楽の専門教育を受けてきた楽団員と、訓練を受けていない若者を繋ぐにはどうするか。そこで頭に浮かんだのが、学生時代からのファンで市民との音楽づくりの経験が抱負な作曲家・音楽家の野村誠さんだった。事前に楽団員向けのワークショップを実施してもらい、希望者を募り、6名の演奏家が参加することになった。
  1回目のワークショップでは、人見知りな若者、楽譜がないワークショップにとまどう演奏家と「これまでにないぐらい大変だった」という野村さん。それでも、回数を重ね、自分たちが発した音と言葉が音楽のフレーズに生まれ変わることで自信をつけ、若者たちは「自主練習をしよう」というほど変わっていった。一方、楽団員にとっても首席トロンボーンの近藤孝司さんが、「若者たちは楽譜があると演奏できない。我々は楽譜がないと演奏できない。それは音楽に対する向き合い方の発見になりました」と言うように、新鮮な経験となった。
  大きな地域資源であるオーケストラが目覚めたとき、可能性はもっともっと開けるのではないか。その萌芽を見た気がした。

 

(山下里加/アートジャーナリスト)

 

◎「BBC交響楽団『Diverse Orchestra Japan』派遣プログラム」
2013年1月25日~2月3日に行われた英国派遣研修。日本各地から5つのオーケストラと5つのコンサートホールの担当者が参加。BBC交響楽団による多様な教育プログラムを視察した他、英国の主要オーケストラやホール関係者と意見交換。
◎ハローライフ
新たなワークサポートを目指した民間による若者の就労支援施設(企画運営:NPO法人スマイルスタイル)。2013年5月オープン。
[所在地]大阪市西区靭本町1-16 -14

●「The Work」
[日程]第1期プログラム:4月8・21日、5月9・30日、6月13・27日(各2時間。会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター)、7月6日(JR大阪駅南ゲート広場にて発表イベント)
[ディレクター]野村誠
[出演]小笠原雅子(ヴァイオリン)、笠野望(バストロンボーン)、近藤孝司(トロンボーン)、佐野譲一(チェロ)、道橋倫子(ヴァイオリン)、森亜紀子(ヴィオラ)、ハローライフ参加者11名
[主催]日本センチュリー交響楽団、仕事ライブラリーハローライフ
[助成]おおさか創造千島財団

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