一般社団法人 地域創造

広島県広島市 広島市現代美術館 被爆70周年:ヒロシマを見つめる 三部作 第1部「ライフ=ワーク」

 戦後70年を迎える今年、各地の文化施設でも「戦争」を取り上げる試みが行われている。人口の8割が戦後生まれとなった今、どのような戦争の語り方、次世代への伝え方があるのか? 70年前、原子爆弾の投下によって直後に14万人が亡くなり、多大な被害を受けた広島市で開催中の展覧会「ライフ=ワーク」展を取材した。

 「ライフ=ワーク」は、広島市現代美術館の「被爆70周年:ヒロシマを見つめる 三部作」の第1部として企画された。企画者である学芸員の松岡剛さんは、「広島にある現代美術を扱う美術館として、戦後70周年に見せるべき作品・展覧会は何かを自問しました。それはとても難しい問いかけでした。それで今回は、『当事者性とは何か』を基軸に作品と作家を決めていきました」と言う。
  広島での“当事者”とは第一義的には、被爆者である。松岡さんは、現在広島平和記念資料館に収蔵されている被爆者1,200人が描いた「原爆の絵」4,000枚をすべて画像で見て、美術的観点から50点を選出した。展示会場に入ってすぐ、被爆者たちが自らの体験を描いた絵がずらりと並ぶ。筆舌しがたい光景をなんとか記録しようと筆を執った市井の人たちの表現は、切迫した思いと美術を習ったものにはない独自の手法を備えており、見る者に深い感銘を与える。
  次いで、シベリア抑留という極限状態にありながら、描くことで生きる意欲を支えていた香月泰男、宮崎進、原爆で家族を亡くした四國五郎、殿敷侃といった画家の作品が続く。
  だが、“当事者”とは原爆や戦争の直接的な体験者だけだろうか。それでは、戦後70年を過ぎた今、ほとんどの人は第三者の立場に留まるしかない。直接には戦争体験をもたなくても表面的でない表現は可能なのではないかと、松岡さんが選んだのが写真家の石内都や、画家の後藤靖香である。
  「被爆者の衣服に真摯にアプローチして美しく撮影した石内さんや、詳細な調査を経て戦時下の若者の姿を描く後藤さんは、直接体験はなくとも“表現者としての当事者”であることを自ら選び取っている作家と言えるでしょう。借りものの言葉や手法ではなく、自分にとっての必然から表現が生まれているからです」と松岡さん。
  特に興味深いのは、1982年広島に生まれ、京都精華大学を経て、現在広島で暮らしている画家・後藤靖香さんのアプローチだ。後藤さんは、軍人だった祖父の若い頃の軍服姿を写真で見たとき、今の穏やかな祖父の姿や平和教育の中で語られるヒロシマ、今の日常との乖離を感じたという。祖父自身はあまり過去を話さなかったため、祖母からの聞き取りなどで祖父の青春の一場面をイメージし、輸送船内の様子を絵に描いた。また、被爆建物として知られる旧日本銀行広島支店が建つ前を調査し、没落した元藩士のための授産施設だったことを突き止めた。本展出展作のひとつ『袋町カムパネルラ』は、そこで藩士の子どもたちが懸命に働く姿を描いたもので、調査報告書とともに展示されている。

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ドローイング」の様子。上:参加した子どもたちが後藤(左)と一緒に彼女の作品をじっくりと鑑賞/下:『原爆─ひろしまの図』修復作業現場も見学©Rika Yamashita

 会期中に開催された後藤さんのワークショップ「インタビュー・ドローイング」では、子どもたちが丸木位里・俊夫妻が描いた『原爆─ひろしまの図』の修復家(本展会期中に公開修復が行われている)や後藤さんにインタビューを行い、表現したいと思った事柄を想像して絵にしていくという、後藤さんの方法論を追体験できるものだ。
 「私自身、絵を描くより調査が好きなんです。予め決まったことを伝えるのではなく、たくさんの調査内容から自分が何に惹かれ、何を受け取るか。自分にとっての必然を大事にしたいのです」と後藤さん。
 会場後半では、戦争や原爆とは直接的には関係のないTomoya、大木裕之らの作品が展示されている。松岡さんは「それぞれ生きることと制作することが切実に結びついている作家たちです。彼らの表現は、いかに自身の体験に形を与え、他者と共有可能なものとしていくのか、その可能性を示している」と言う。
  70年前の過去に向き合い、自分が生きることの必然として歩み寄ろうとする当事者たちの多様で豊かな表現の足跡が、この展覧会にはあると思った。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●被爆70周年:ヒロシマを見つめる 三部作 第1部「ライフ=ワーク」
[会期]2015年7月18日~9月27日
[主催]広島市現代美術館、中国新聞社
◎今後の展覧会
・第2部「俯瞰の世界図」
2015年10月10日~12月6日
・第3部「ふぞろいなハーモニー」
2015年12月19日~2016年3月6日

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