一般社団法人 地域創造

石川県金沢市 金沢市民芸術村20周年「市民が主役」

 1996年に「市民による自主運営」「24時間365日稼働」「低料金」という画期的な運営方針を掲げてスタートした金沢市民芸術村(*1)。その20周年を祝う記念事業が10月8日~10日に開催された。タイトルは「市民が主役」。日頃から芸術村を利用する音楽や演劇などのグループ87組が参加。初日には山野之義市長の講演に続き、ミュージック工房では芸術村の自主事業(アクションプラン)(*2)で誕生した金沢ジュニア・ジャズ・オーケストラJAZZ-21など11グループが演奏。ドラマ工房ではこちらもアクションプランで生まれた演劇ユニットK-CAT(*3)によるリーディング公演などが行われた。5代目芸術村村長の普照豊は、「“市民が主役”は芸術村の不動の精神。その原点を確認した、出演する人や運営する人、そして見る人も市民という記念イベントです」と胸を張った。

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上:金沢市民芸術村外観
下:8日の「ジャズの日」には、芸術村を拠点に活動するジュニア・ジャズ・オーケストラ「JAZZ-21」が登場

 この20年間、芸術村を利用した団体は延べ28万9,000団体、利用者は延べ340万人を超える(2016年3月現在)。開設準備室時代から携わり、現在も総合ディレクターを務める大場吉美は、「“ハレ”と“ケ”で言えば、ここはケの施設。日常的に文化芸術に親しみ、心の汗を流して自分の中に元気をつくるための場です。市民にとって今や芸術村はあって当然の存在になっています」と語る。
  事実、日中の利用はもちろん、会社員が出勤前にピアノ練習に訪れ、仕事を終えた若者たちが深夜に練習することも当たり前の光景になっている。こうした利用が可能なのも、行政による管理中心主義を廃し、設置条例にも「市民参加による自主的な運営」や「24時間利用」を明記し、市民の自主的な運営を貫いてきたからだ。
  運営は、開村当初から市が運営する財団が担っているが、一貫して各工房に利用者代表の市民公募ディレクター各2名(現在は計7名。当初は無償だったが現在は実費を保証するため有償ボランティア)を置き、利用者へのルールの周知徹底やアクションプランの企画・実施などに当たってきた。
  「ディレクターがことさらエライわけではありません。4~5年で交代して、多くの市民がここの運営に関われるようにする制度です」と井口時次郎ドラマ工房ディレクターは言う。井口は高校の非常勤講師のかたわら、劇団を主宰。「芸術村をつくるとき、金沢の演劇関係者が集まって金沢演劇人協会を結成し、要望を出しました。それに市は最大限応えてくれた。ということは、僕らはやるしかない。だから、安全に舞台を使うための講習会も毎年更新制で実施してきました。20周年記念事業では、12月まで毎週末、市内で活動する劇団が公演を行うかなざわリージョナルシアター演劇祭を行います」。
  ミュージック工房の木埜下大祐ディレクターは海外での活動経験もあるフルート奏者だ。「開村2、3年目から練習に使っていましたが、ここが画期的だったのは、個人練習ではなくアンサンブルなどの音合わせができる施設だったこと。そうした中で利用者間の交流も自然に生まれてきました」と話す。昨年からは、海外と連携したオペラ公演などにも意欲的に取り組んでいる。
  講演で山野市長は芸術村について「当時の山出保市長が市民を信頼した英断により金沢市民芸術村は生まれました」と言い、その成果を踏まえて、「金沢市文化創生新戦略(2015~2020年)」(*4)と旧俵小学校を第二の練習施設にする計画を披露した。講演後、市長に芸術村の果たしてきた役割を改めて尋ねると、「金沢にはしっかりとした地域コミュニティが残っていて、そこを信頼したからこそ市民の自主運営が実現しました。文化のインキュベーション施設としての芸術村の存在は、確実に金沢の文化土壌を広げ、深めました。その裾野をさらに広め、支援するため『文化の人づくり条例』を制定しました」と答え、今後は地域コミュニティを補完するNPOとの連携も視野に入れていきたいという。
  「現在も芸術村への視察・取材は年間40件を超えます。活動団体が固定化するなど課題もありますが、子どもたちの利用を増やす工夫をするなど、これからも市民が主役であり続ける施設を見守っていきたい」と村長。“市民との信頼関係”という果実を手に、100年後も存在し続けることを願ってやまない。

(田中健夫)

 

*1 金沢市民芸術村概要
大正期から昭和初期にかけて建造された煉瓦造りの元紡績工場の建物と敷地を市が購入して、複合練習施設に再生(敷地面積約9.7ha、延べ床面積約4,200㎡)。ドラマ工房、ミュージック工房、マルチ工房、アート工房となり、このほか、オープンスペース、パフォーミングスクエア、里山の家、事務所棟、カフェレストランがある。また、敷地内には金沢職人大学校を併設。
*2 各工房の市民ディレクターが中心となって市民で企画し、実施する事業。概ね年間5.6プログラム。予算は3つの工房合わせて年間2,000万円程度。
*3 開村当時から10年にわたって行われたアクションプランの戯曲講座の参加者と文学座演出家の西川信廣などが09年に立ち上げたプロ、アマの垣根を超えたユニット。
*4 16年3月に「金沢市文化における文化の人づくりの推進に関する条例」を制定。金沢伝統芸能文化親子体験講座、文化施設を活用した人づくり推進事業、金沢ひとづくり学生塾、金沢の文化人づくり助成など切れ目ない支援を体系化。ふるさと納税により「金沢市文化の人づくり基金」を創設する計画。17年「第3回金沢・世界工芸トリエンナーレ」、18年「東アジア文化都市」、19年の「東京オリンピック・パラリンピック文化プログラム」、20年「国際工芸サミット」などを道標として掲げる。

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