一般社団法人 地域創造

愛知県豊橋市 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 高校生と創る演劇 『女子にしか言えない~プールの底で見た、私の幻燈~』

 愛知県東部、東三河(*)の中心であり、静岡県との県境に位置する人口約37万人の豊橋市。東京駅から新幹線で1時間30分、名古屋駅から30分の大都市に直結する豊橋駅南側に隣接して2013年に誕生したのが「穂の国とよはし芸術劇場PプラットLAT」だ。東三河の舞台芸術の拠点として演劇事業に力を入れ、東京の人材や公立ホールのこれまでのノウハウを生かしたプログラムを展開。その中のひとつが「高校生と創る演劇」で、3回目となる今年は東京から若手劇作家・演出家の山田佳奈(劇団□字ック主宰)を招聘。11月5日、6日にオーディションで選ばれた高校生18人が出演し、12人がスタッフとして参加した『女子にしか言えない~プールの底で見た、私の幻燈~』を発表した。

 駅からペデストリアンデッキで直結したPLATは、1階がガラス張りの交流ロビーになっており、カフェのようなテーブルと椅子で高校生や親子連れが寛いでいた。今回の会場となったアートスペースのロビーは高校生スタッフが装飾を施し、芝居の中で宙を飛んだ巨大なクジラのハリボテも彼らが作成したものだ。
  パステルカラーのセット、天井から吊り下げられたランドセルや学校の机や椅子など、まるで子どもの思い出の部屋のような設えの中、芝居が始まった。制服姿の高校生たちが楽しそうに客席から登場し、舞台中央のプールのような四角い窪みに寝転がり、眠りにつく。「誰かにこの声は届いているのだろうか。このまま、ここから出られなくなったらどうしよう」─目覚めた高校生たちは学校生活の賑やかな日常の中で、心の内を覗くように言葉を吐き出していく。
  世田谷パブリックシアターを経て、現在PLAT芸術文化プロデューサーを務める矢作勝義は、「公共劇場としてもっと地域と関わる取り組みが必要だと思い、開館2年目から高校生と創る演劇、市民と創る演劇などを始めた。東三河は高校演劇が盛んで、新しい出会いの場をつくれば刺激になるのではないかと思った」と言う。

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『女子にしか言えない~プールの底で見た、私の幻燈~』
写真提供:穂の国とよはし芸術劇場PLAT

  高校演劇部向けの講座や大会に向けた研修を支援するのと並行し、「高校生と創る演劇」を企画。14年『転校生』(平田オリザ作)、15年『赤鬼』(野田秀樹作)に次いで、今回初めて創作劇に挑戦し、9月下旬から放課後40日の稽古で作品づくりを行った。
  「高校生と真摯に向き合える」と選ばれたのが、カラオケルームを舞台に女性教師が中学生時代の自分と向き合う『荒川、神キラーチューン』を発表している山田だ。「大人になっても子どもの頃に躓いたことを抱えたままの人が沢山いる。それにどこかのタイミングで向き合い、許す作業が必要だ。それで、高校生たちが、今、認めてもらえない、自分を許せないと感じていることに向き合う転機をつくってあげたいと思った。演劇を通じてコミュニケーション力をつけることを目指していたので、心の中に溜まった言葉を身体に流せるように、一人ひとりに向き合い整体のような作業をやった。若者に対してあえて言葉を変えたりはせずに、普段どおりのコミュニケーションとして、身体を触ったり、嘘をつかずに距離を縮めて、あなたに関わりたいというポジティブなスタンスで本音を出せるようにしていった」と話す。
  対する高校生たちは、「ここではみんな意見が違っていて、こういう考え方の人もいるんだと視点を変えて見られるようになり、視野が広がった」(山内菜摘)、「普段は女子と関わらないし、敵に回すようなことも絶対言わないけど、“ブス”ってセリフで叫んだり。自分じゃないみたいだけどここまでイライラできるんだとわかったというか、どこかしら大きくなった気がする」(稲吉康平)、「3回とも参加して、自分が自分らしくいられる方法が演劇だと感じた。自分のいいところも悪いところも人に知ってもらいたいと思ったので進路を演劇にした」(中神真智子)、「あまり人と話すのが得意じゃなかったけど、稽古をやる間に先輩とも普通にしゃべれるようになった。学校でも誰とも話せなかったのが話せるようになり、人間が全然怖くなくなった」(鈴木瑶花)と自分の成長を振り返っていた。
  ラストシーン、大声ですべてを吐き出した高校生たちは、“生き残るための準備体操”を始めた。演劇にはそういう役割もあるのかもしれないと感じられた舞台だった。

(編集部・坪池/工藤)

 

*東三河地域
豊川流域および渥美半島に位置する豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市、設楽町、東栄町、豊根村の8市町村。この一帯を古代の穂国とする説があり、ホールの名称にもなっている。東三河地域の人口は合わせて約77万人。民間から「東三河流域政令指定都市構想」が提言されるなどの合併協議も行われ、現在では豊橋市を中心に豊川流域の一体化を目指したまちづくりなどさまざまな広域連携が推進されている。

●穂の国とよはし芸術劇場PLAT
当初は、豊橋市中心市街地活性化計画において「新しいとよはし」を発信する中核施設として生涯学習センター・図書館・ホールの複合施設を構想。豊川流域の一体化を目指したまちづくりを睨み、現市長により転換が図られ、東三河地域の舞台芸術の鑑賞・創造・発信の拠点として本格的なホール施設をPFI(BTO方式)により整備。演劇事業として鑑賞事業に加え、プロデュース公演(隔年)、「高校生と創る演劇」「市民と創る演劇」「アウトリーチ」「ファシリテーター養成講座」等の人材育成事業を実施。
[開館年]2013年4月
[施設概要]主ホール(778席)、アートスペース(可動式266席)、創造活動室7、研修室等
[指定管理者](公財)豊橋文化振興財団

●高校生と創る演劇『女子にしか言えない~プールの底で見た、私の幻燈~』
[会期]2016年11月5日、6日
[脚本・演出]山田佳奈
[主催]豊橋市・公益財団法人豊橋文化振興財団

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