一般社団法人 地域創造

福島県 はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト成果展「語りがたきものに触れて」

 東日本大震災から7年。津波と原発事故という未曾有の災害を経験した福島で、2012年から福島県立博物館が事務局となり、「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」が行われている。その活動内容は、「アートで考える 伝える」をテーマにした成果展として公開され、2015年からは福島県外においても実施されてきた。17年12月2日から17日まで京都で開催された成果展「語りがたきものに触れて」の模様を取材した。

 成果展の最大の目的は、文化連携プロジェクトの活動内容や知見、問題意識を広く共有し、発展させること。そのため開催地ではこうした考えに共感する人・団体をパートナーとして実施している。京都では、京都府のアーティスト・イン・レジデンス事業を担当している文化スポーツ部の八巻真哉氏や各会場が協力者となり、4会場で作品を展示したのに加え、7つのトークイベントが企画された。
 作品展示では、プロジェクトで蓄積されてきたアーティストの滞在制作活動が震災の記憶のアーカイブとして展示されていた。なかでも2013年から継続的に福島に通い、フロッタージュで放射能除染のために切り倒された神社境内の樹木の切り株や防波堤の傷を映した岡部昌生の展示は圧倒的だった。西陣のギャラリーを覆い尽くした擦過痕は、アーティストが作家個人の作意を超えて土地の記憶の立会人となり、アートが時代と土地の記録媒体として非常に有効に働くことを証明していた。
 また、江戸期の学問所であった有斐斎弘道館や下鴨神社などには、福島写真美術館プロジェクトによって撮りだめられた写真や、流された家の跡地を詳細に記録した安田佐智種の写真などを展示。また、新たなプロジェクトとして福島県の安達ヶ原を舞台とする鬼婆伝説をクローズアップし、新しく創作したダンス映像の上映や、関連事業として能『安達原』の上演も行われた。
 トークイベントでは、数々の戦乱や疫病、栄枯盛衰を繰り返してきた京都と福島に共通する“悼み”や“記憶”、地域とアーティストとの関係を紡ぐ“滞在制作”などをテーマに合わせて18時間を超える議論が行われた。12月2日のトーク「悼みと共感の文化」では、京都在住のアーティスト・やなぎみわが自身の演劇作品に重ねて戦前の京都での在日朝鮮人の労働について語り、武蔵大学教授の香川檀がヨーロッパでホロコーストの記憶に対して現代アーティストたちが取り組んだアクションについて紹介し、他者の“悼み”と向き合うアートについて参加者と共に考える時間となっていた。

 

上:プロジェクトトーク「福島に向き合う・福島を伝える」(12月10日/京都文化博物館別館)
下:岡部昌生のフロッタージュ作品《被曝し続ける樹》(会場:ART OFFICE OZASA) 

 そのほか、トークイベントには、プロジェクトに参加したアーティストや福島から奈良に自主避難した彫刻家、宗教学者、経済学者など多様なジャンルのゲストが登壇。「福島」「震災」をキーワードとしながらも地域や歴史や文化を繋ぐという地域に限定されない思いを共有する場ともなっていた。福島県立博物館で「会津・漆の芸術祭」を担当するなどアート関係の事業を推進し、同プロジェクトの事務局を担う川延安直学芸員は次のように話していた。
 「芸術祭を行ってきた繋がりがあり、被災直後からアーティストの被災地での活動をサポートしてきました。我々は美術館ではなく、博物館です。“物”を通して記憶や文化を繋いでいく場所として、作品を創作するというのではなく、このプロジェクトではアーティストと地域を繋ぐコーディネート役に徹してきました。その結果、アートの手法で残された福島の記憶のアーカイブと、問題意識を共有する人々とのネットワークが出来た。福島以外の土地にも公害や原爆、原発問題など悼みの記憶(記録)と克服してきた知恵があります。福島に住む私たちは自分たちの取り組みを発信するだけでなく、そうした歴史や情報、知恵を学びたいと思っています。この繋がりを発展させ、負の歴史や遺産を扱っている博物館同士のミュージアム・ネットワークがつくっていければと思っています」
 今なお多くの悼みと問題を抱える福島から、アートという手法で記憶を繋ぎ、世界と繋がる新しいネットワークが生まれているのをひしひしと感じた。 (アートジャーナリスト・山下里加)

●はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト福島県立博物館が事務局を担い、福島県内で文化事業に携わる大学、NPO、文化施設などと連携して2012年度から実施。はま(太平洋側)・なか(中央部)・あいづ(山間部)3地域の連携と、滞在制作をコーディネート。福島の今、未来をアートで考え、伝える取り組みを行っている。
[主なアートプロジェクト]岡部昌生フロッタージュプロジェクト、福島写真美術館プロジェクト、飯館村の記憶と記録プロジェクト(写真家・岩根愛)、暮らしの記憶プロジェクト(写真家・安田佐智種)、福島祝いの膳プロジェクト(フードアーティスト・中山晴奈)、震災・大事故と文化財を考えるプロジェクト(映像作家・藤井光)、黒塚発信プロジェクトなど[2017年度の活動内容]「記憶の共有 心の共感」(8月4日、5日 ※成果展in京都プレトーク)、成果展in郡山(9月6日~29日)、シンポジウム「厄災の記憶 その表象可能性」(10月5日/いわき芸術文化交流館アリオス)、トーク+縹葉せんだん太鼓(9月9日/郡山女子大学)、成果展in福島(10月~12月中の3期/福島大学)、成果展 in 別府(11月3日~19日)、成果展in京都(12月2日~17日)

●成果展県外開催地
公害の歴史を語り継ぐ水俣市に隣接する熊本県津奈木町、足尾銅山と渡良瀬川で繋がる栃木県足利市をはじめ、長野県大町市・松本市、静岡市、浜松市、新潟県長岡市・新発田市、大分県別府市、京都市など。

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