一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.43 東京文化プログラムとTokyo Tokyo FESTIVAL

講師 山名尚志
(株式会社文化科学研究所代表)

 

 2013年、東京にオリンピックが54年ぶりに帰ってくることが決まった。東京2020大会である。この大会の開催に向け、東京都では、14年12月に新たな総合計画である「東京都長期ビジョン」を発表、その基本目標の第一に「史上最高のオリンピック・パラリンピックの実現」を掲げた。
 史上最高の大会を実現するためには、オリンピック憲章に実施の義務が記載されている文化プログラムもまた、史上最高のものとなる必要がある。本稿では、この実現に向けてのホストシティ東京の取り組みを紹介する。

 

東京文化ビジョン

 東京都長期ビジョンに基づく文化についての東京都の基本計画が、15年3月に発表された「東京文化ビジョン」である。同ビジョンは、「東京都の芸術文化振興における基本方針」および「国際的に発信する東京の文化政策の世界戦略」であるとともに「2020年大会に向けた文化プログラムの先導的役割」を示すものとして性格付けられている。オリンピックの文化プログラムを主語として言い換えるなら、都の文化プログラムは、単体の事業としてではなく、都の文化芸術の振興や文化による東京の世界発信と一体のものとしてポジショニングされている。
 では、東京文化ビジョンの内容はどうなっているのだろうか。ビジョンの8つの戦略を見ると、2020年を超えた戦略として文化振興の領域・目標ごとに7つの戦略を設定、それを加速させる8つ目の戦略として「文化戦略8:東京がもつ芸術文化の力で、都市力を引き出し史上最高の文化プログラムを実現」が置かれ、具体的な内容として、2020年までの時期における「世界に向けての東京の魅力の発信」と、それ以降に向けての「有形・無形のレガシー」の次世代への継承が規定されている。東京都の文化プログラムは、大会の時期には東京を世界に発信するための重要な事業として、また、2020年を超えては東京の文化芸術の長期振興と継承の契機として大きく期待されているのである。
 なお、東京文化ビジョンでは、具体的な文化プログラムの事業として、文化プログラムの先導的役割を果たすリーディングプロジェクトの実施(「東京キャラバン」や「障害者アートプログラム」等)(*1)が、文化プログラムの執行体制の整備として、①アーツカウンシル東京の強化、②都立文化施設の新たな運営方針の策定、③東京都芸術文化振興基金の創設が挙げられている。

 

これまでの展開

 上述したように、東京都の文化プログラムは、単体事業としてではなく、東京都全体の文化芸術施策と一体化して展開されており、アーツカウンシル東京や各都立文化施設により、東京2020大会を意識した多数の事業が実施されてきた。ここでは、その中でも、執行体制の中核であるアーツカウンシル東京が2020年までの文化プログラム事業として(=事業の集大成を東京2020大会に照準を合わせたもの)展開しているものを簡単に紹介する。
 まず一つ目が、東京文化ビジョンでもリーディングプロジェクトとして記載されていた「東京キャラバン」と「TURN」である。東京キャラバンは、劇作家・演出家・俳優である野田秀樹氏が、「人と人が交わるところに『文化』が生まれる」のコンセプトの下に多種多様なアーティストや地域の住民、伝統芸能関係者などが文化混流のワークショップや共同での創造を行うもの。15年の東京・駒沢に始まり、16年はオリンピックに合わせてリオデジャネイロで開催。その後、仙台と相馬、六本木を回り、17年は京都、八王子、熊本と全国を巡回している。今後、北海道、秋田県、いわき市、川越市、富山県、豊田市などでも展開が予定されている。
 一方のTURNは、監修に美術家の日比野克彦氏を迎えたアートプロジェクトで、「『人と違う』ことに価値を見出そうとするアートの特性を活かし、障害の有無、世代、性、国籍、住環境などの属性や背景の違いを超えた」プログラム展開を行ってきている。15年から始まったこのプロジェクトの特徴となっているのは、アーティストと障害のある人や生きづらさを抱えた若者たち、家族、支援者との出会いである。16年3月、東京都美術館で行われた「TURNフェス」では、そうした出会いから生まれた作品を展示。「TURN」の中核活動となる交流プログラムでは、アーティストが福祉施設や福祉コミュニティに赴き、相互に作用しあう交流を重ねており、リオ大会時にはブラジルでも行われた。
 アーツカウンシル東京の文化プログラム事業としてもう一つ展開されているのが「Tokyo Tokyo FESTIVAL助成」である(*2)。これは、①大会の機運醸成となる話題性・祝祭性の高いプロジェクト、②都民の日常的・主体的な芸術文化活動、③アートとテクノロジーの融合による新たな表現や技術へのチャレンジ、④海外からのアーティスト等の東京での新作発表支援の4つの領域で最大2,000万円の助成を行うもの。地域の実行委員会によるまちづくりの演劇活動から、一般企業が主催する各種の文化芸術フェスティバル、明治座やホリプロなどの文化企業の公演事業まで多様な企画が助成対象となっている。

 

Tokyo Tokyo FESTIVAL

 以上見てきたように、東京都ではすでに数多くの文化プログラム事業を展開してきている。予算額も非常に大きく、2017年度の「文化プログラムにおける東京の芸術文化の創造・発信」施策だけでも30億7,595万円が計上されている。
 一方、課題も意識されてきた。最大の課題は、これだけの資金が投入されている中で、東京都の文化プログラムが、必ずしも全都民、多くの国民が知るものとはなっていないことである。この課題を解決するための施策として、2017年11月に発表されたのが、「Tokyo Tokyo FESTIVAL」。同施策の基本は、東京文化プログラム自体のプロモーションであり、それを実現するため、ショーアップされた発表会と象徴となる目玉イベントを実施していくこととされている。この結果、東京都の活動は、2020年の大会期間を含む約半年間を本番のTokyo Tokyo FESTIVALとして、それまでは「Road to Tokyo Tokyo FESTIVAL」として、すべてが同じ傘の下に入ることとなった(これまでの事業は、民間などに対する助成事業および土台となるプログラムとして、同フェスティバルの傘の下に継続される)。
 全体のプロモーション統括は、東京芸術文化評議会の川上量生評議員が、東京文化プログラムの統括プロデューサーとして中心的な役割を担う。川上氏は、カドカワ株式会社(角川・ドワンゴグループの持ち株会社)の代表取締役であり、ニコニコ動画の立ち上げで知られるIT・コンテンツ業界の有力者である。プロモーションの具体計画はまだ発表段階には至っていないが、氏のノウハウとネットワークを生かした実効的なプランが期待される。
 一方、すでに動いているのが目玉イベント実現のための企画公募である(*2)。これは、東京都とアーツカウンシル東京が主催する文化プログラム自体を公募しようというもので、「インパクトある芸術創造」「あらゆる人々が参加できる」「アートの可能性を拡げる」いずれかの目的に添っていれば、ジャンルを問わず、また個人から非営利団体、企業まで誰もが応募可能(ただし、自治体については、単独では応募できない)という極めて自由度が高いものとなっている。また、イベントの実施の場所についても、既存の文化施設にとらわれないより自由な展開を目指している。
 目玉イベント公募の決定は2018年7月頃に予定されている。おそらく、Tokyo Tokyo FESTIVALとしての強力なプロモーションも、そこを起点に開始されていくことになる。
 現状想定されている予算規模から考えるならば、東京2020大会の文化プログラムの主役は、国でも、組織委員会でもなく、ホストシティである東京都である。大会の文化プログラムがどこに向かうのか。2018年夏を期待して待ちたい。

 

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