一般社団法人 地域創造

山口県山口市 山口情報芸術センター[YCAM] 「YCAMスポーツハッカソン2018」

 ITとアートを融合するユニークな活動で知られる山口情報芸術センター[YCAM]で、「YCAMスポーツハッカソン2018」(*1)が5月4日~6日に開催された。メディアテクノロジーを駆使した新しいスポーツを全国から集まった39名が2日間で開発。6日には開発された“世界初”の競技を実際に楽しむ「第3回 未来の山口の運動会」を実施し、大人も子どもも一緒に4チームに分かれ、約250人の市民が8競技を競い合った。

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当日行われた競技(「だるまさんがまわった」)

 会場のスタジオAには、前と後ろに2面の巨大モニター、天井にモーションキャプチャのための20台のカメラを設置。プロジェクション・マッピングが投影される10メートル四方のグラウンドは種目ごとに投影映像によって自在に変化し、競技の模様も即時にモニターに投影される。YCAMならでは(*2)の「電子体育館」で、開発の合宿もここで行われる。議論しながら開発(デベロップ)と遊び(プレイ)を繰り返す「デベロップレイ」というスポーツハッカソンならではの手法を使い、20~30歳代男性を中心に中学生から55歳までの参加者(デベロップレイヤー)が、YCAMや参加者が準備したデジタルツールと運動会グッズを活用した競技を考案。当初200近くあったアイデアを分類し、実現したいアイデアを選び、4チームに分かれて具体化していった。
 メディアテクノロジーを使ったスポーツとは一体どういうものなのだろうか。例えば「だるまさんがまわった」では、中央のスマートフォンがセットされた柱を4人でぐるぐる回すと、プロジェクション・マッピングで投射されたグラウンドの色面も連動してぐるぐる回るようになっている。

 

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当日行われた競技(「痕跡を残すな!テクノスネーク」)

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回す側は、回転の向きやスピードを変え、グラウンド上の相手チームは、走ったり、待ち受けたりして、柱をストップしたときに白色のセーフティゾーンにどれだけ人が残っているかを競う。その他、人物情報が入ったNFCタグを縫い込んだ布製のボールの山から1つを選び、モニターに映し出された人物を探して連れてくるというIT版借り物競争や、長い行列の先頭の人が歩いた痕跡をモーションキャプチャでグラウンドにマーキングし、見えたり消えたりする痕跡を最後尾の人がどれだけズレないで辿れるかを競うテクノスネークなど、身体を張る完成度の高い競技がさまざまに提供されていた。
 スポーツハッカソンの場は、YCAM内に留まらない。YCAMインターラボ・エデュケーターの朴鈴子さんは、「アートを拠点としたYCAMの活動はなかなか市民に伝わりにくい。スポーツという文脈が、市民とYCAMの距離をグッと縮めてくれていると感じている。この事業を始めた15年から市内の小学校約15校で子どもたちと新しいスポーツをつくる出張プログラムを実施してきた。スポーツ開発を通じて『ルールは自分たちでつくれる』という創造性にふれ、あらゆる事象を柔軟に自分なりに捉えるパワーを身につけてほしい。きっとそれはアートをどのようにみるのか?という力にも繋がると思う」と語ってくれた。
 ハッカソンならではのイノベーション力も見逃せない。2013年にYCAM10周年記念祭の公募展で「スポーツタイムマシン」(*3)を提案したことが縁で15年に「YCAMスポーツ・リサーチ」プロジェクトに参画し、スポーツハッカソンを仕掛けた(一財)運動会協会理事の犬飼博士さんは、「スポーツハッカソンでは、つくる行為と遊ぶ行為、つくる人と遊ぶ人は分かれていない。コンピュータゲームも遊びであるなら、それも不可分であると考えるほうが自然。僕は、未来の運動会はすべてのモノがインターネットで繋がるIoT(Internet of Things)の時代におけるゲーム開発の理想的なプラットフォームになると思っている」とその大きな意義を指摘する。
 自分でつくったNFCタグ入りボールを持ち込み、デべロップレイヤーとして参加した根津将之さんは、「最初はちっぽけなアイデアでも、いろんな人が実際に遊ぶことでアイデアが広がっていく。完成した後も運動会参加者が必勝法を考えるからさらに発展し、つくった側が『ヤラレター!』となる」のが醍醐味だと言う。創造のダイナミズムを参加者すべてが真剣に遊びながら体感する─そこから新たなイノベーションが生まれ、また、コミュニティも育っていく。スポーツハッカソンとはそうした実に優れた企みとなっているのである。 (山名尚志)

 

●「YCAMスポーツハッカソン2018」
[主催]山口市、公益財団法人山口市文化振興財団
[会期]2018年5月4日~6日
[会場]山口情報芸術センター[YCAM]
[講師]西翼、犬飼博士、米司隆明、岩谷成晃(ゲスト・デベロップレイヤー:岸野雄一、contact Gonzo、菅野創)

*1 「ハッカソン」とは、ハッキング(広い意味でのソフトウェアやプログラミング)とマラソンを合わせた言葉。そもそもはアメリカのIT業界で、多くのプログラマーが1日から1週間の合宿形式でソフトウェアの開発や既存システムの改善を行うイベントを指す。日本では、導入当初から、IT以外の分野との連携がさまざまに行われるようになり、異業種が集まったオープン・イノベーションの手段として、また、地域における新たなコミュニティ・デザインのツールとして、独自の展開を見せている。

*2 YCAMでは開館以来、国内外のアーティストや研究者、エンジニアと共にメディアテクノロジーを応用したオリジナルのインスタレーションやパフォーマンスなどの滞在創作を実践。また、メディアテクノロジーと市民を繋ぐ教育プログラムを開発。インターラボの専門スタッフがこうしたノウハウを蓄積し、独自システムの開発なども行ってきた。インターラボを率いるR&Dディレクターの伊藤隆之さんは、YCAMのノウハウの特徴を「アイデアの大切な部分を迅速に理解する力と、低コストでの素早い開発力、カスタマイズ力」と言う。スポーツハッカソンでもインターラボのスタッフがフル稼働し、デべロップレイをサポートしている。

*3 登録してあるさまざまな「かけっこ」の記録をスクリーンに映し出し、その記録とかけっこで競争できる装置のこと。自分の記録だけでなく、動物の記録、スポーツ選手の記録などともかけっこできる。

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