一般社団法人 地域創造

石川県金沢市 オーケストラ・アンサンブル金沢/石川県立音楽堂 日本の室内オペラシリーズ「卒塔婆小町」

 日本初のプロフェッショナルの常設室内管弦楽団としてオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が1988年に設立されてから、今年で30年になる。初代音楽監督である岩城宏之の強いリーダーシップのもと石川県と金沢市によって設立されたOEKは、設立13年後の2001年に「オーケストラにとっての最後の楽器」として音楽活動の拠点となる石川県立音楽堂(2003年〜OEKを運営する石川県音楽文化振興事業団が指定管理者)を手に入れた。岩城亡き後、11年にわたって音楽監督を務めた井上道義も今年3月で退任し、今年9月からはフランス生まれのマルク・ミンコフスキが芸術監督に就任。30周年を機に新たな局面を迎えるOEKと石川県立音楽堂の活動を取材した。

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オペラ『卒塔婆小町』
写真提供:石川県音楽文化振興事業団

 取材に訪れた8月19日には、邦楽ホールで三島由紀夫原作による石桁真礼生の珍しいオペラ『卒塔婆小町』(1956年初演)が上演されていた。音楽堂では上演される機会の少ない日本の室内楽オペラにも力を入れ、これまでに『あまんじゃくとうりこひめ』『耳なし芳一』『死神』などをさまざまな形で上演してきた。今回は人気講談師の神田松之丞による新作講談と組み合わせた企画で、満席だった。今後も邦楽ホールでは洋邦コラボレーション・コンサートや、邦洋演奏家とダンスがコラボする森山開次演出の「芸の鼓動」などユニークな企画が予定されている。こうしたチャレンジができるのも、オーケストラが運営するホールだからこそだ。
 事業団事業部長として音楽堂が実施する自主事業を統括しながら、OEKのゼネラルマネージャーとしての顔ももつ岩﨑巖事業部長は、「リハーサルの過程からコンサートホールを使うことができるOEKは日本一優遇されているオーケストラなのです」と胸を張る。自治体とフランチャイズ提携するオーケストラが増えている中、劇場とオーケストラの経営を全く同一の財団が担っているのはここだけだ。
 財団の事業は「オーケストラ運営事業」「音楽堂自主事業」「音楽堂管理事業」に区分され、団員の人件費を含むオーケストラ運営事業は県・市の補助金、音楽堂自主事業は県の補助金、音楽堂管理事業は県の指定管理料も充当。OEKの年間演奏会回数は約100〜110回、それとほぼ同数の室内楽公演を毎年行い、今年は30周年記念で金沢市内30カ所を室内楽コンサートで巡回している。近年は文化庁の助成金を活用したオペラ制作にも積極的に取り組むことでその存在感を強めている(*)。

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歌劇『ペレアスとメリザンド』
写真提供:石川県音楽文化振興事業団

 30周年を機に音楽監督制度の存続について大きな選択を迫られたと言い、今後は指揮者の知名度に頼りすぎず、オーケストラ主体の考え方に転換していきたいとか。ミンコフスキの指揮者としての技量だけでなく、ボルドー国立歌劇場の総監督としてのネットワーク力を最大限に生かした企画が7月30日に芸術監督就任記念で上演された歌劇『ペレアスとメリザンド』だった。舞台制作にはボルドー国立歌劇場(今年1月に上演)のフランス人スタッフと音楽堂の日本人スタッフが共同であたった。色々な“目”をモチーフにした映像が繰り返し投影され、フランス的美意識とOEKの緻密な演奏がともに堪能できて、新体制となったOEKへの期待を大いに予感させるものだった。
 音楽堂としての顔に目を転じると、盛んな伝統芸能の拠点となる邦楽ホールがあることも強みとなっている。「30年間でOEKが委嘱した新曲は100曲を超えますが、邦楽が関係したものも10曲近くあります。例えば、鈴木行一さんには素囃子とオーケストラ・混声合唱のための作品『勧進帳』を作曲してもらうなど、積極的にコラボレーションしてきました」と岩﨑部長。
 最後に次の30年への展望を聞くと、「数年で創設当時から在籍している楽団員が皆入れ替わる。スタッフも生え抜きの次世代が育っていますが、行政との交渉力など課題があります」と、まずは世代交代を乗り切ることだと話す。岩城が生前語っていた「OEKサウンドをつくり、発信することで、日本中、世界中から金沢へ聞きにきてもらえるオーケストラになる」というビジョンがこの先どうなるか。北陸新幹線という強い味方も得た今、この先数年の活動が大きな意味をもつように感じた。 (横堀応彦)

 

●オーケストラ・アンサンブル金沢 石川県立音楽堂 日本の室内オペラシリーズ
神田松之丞と篠井英介が誘う講談&オペラ『卒塔婆小町』
[主催]公益財団法人石川県音楽文化振興事業団
[会期]2018年8月19日
[会場]石川県立音楽堂邦楽ホール
[出演]神田松之丞、田中祐子、知久晴美、篠井英介、家田紀子、小林由樹ほか

●オーケストラ・アンサンブル金沢
歌劇『ペレアスとメリザンド』
[会期・会場]2018年7月30日:石川県立音楽堂コンサートホール、8月1日:東京オペラシティコンサートホール

*OEKは文化庁、芸術文化振興基金の助成金により2009年度より2017年度まで継続して共同制作オペラに取り組み、これまでに『トゥーランドット』『椿姫』『高野聖』『カルメン』『こうもり』『メリーウィドウ』『フィガロの結婚』『蝶々夫人』『トスカ』を発表。

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