一般社団法人 地域創造

東京都板橋区 板橋区立美術館40周年記念・リニューアルオープン記念 「2019イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」

 1979年に東京23区初の区立美術館として開館した板橋区立美術館が40周年を迎えた。同館は約14カ月の大規模改修を経て、開館直後から継続して展開する事業のひとつ「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」(児童書のためのイラストレーションの国際コンクール全入選者の作品展)で6月29日よりリニューアルオープン。他に類を見ないコレクションを形成するとともに、学芸員の工夫でユニークな運営をする美術館として知られ、地域美術館のモデルとなってきた。7月13日、展覧会の模様とリニューアルについてのシンポジウムを取材するため同館を訪ねた。

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板橋区立美術館外観

 板橋区(人口約58万人)は23区の北端、埼玉県境に位置する。美術館のあるエリアは1972年に整備された高島平団地や光が丘団地に挟まれた赤塚公園・光が丘公園に連なる赤塚城址跡の緑豊かなエリア。区はこの一帯を「教育と文化の森」として整備することを掲げ、市民芸術祭や古美術展示ができる施設として瓦の大屋根、白いタイル張り、2階建ての旧美術館(村田政眞設計)を開設した。

 美術館へは最寄りの成増駅からバスに乗り10分余り。村田建築を継承しているのでシルエットは同じだが、下半分がガラス張り、上半分が黒いガルバリウム鋼板で化粧直しされ、明るくモダンな外観に生まれ変わっていた。「素通りしないで!!」などその年のキャッチフレーズを掲げる名物の幟は「リニューアルだよ!全員集合」に変わり、新たに設けられたラウンジでは、地元作家から寄贈された古い大きな木の机を囲んで来館者が寛いでいた。

 展示室は2階のみ。591m²すべてを使って、2019年の入選作家27カ国76人の作品約400点が揃いの白木の額縁で展示され、絵本を読めるコーナーもある。親子連れや若いカップル、中高年の夫婦などが楽しそうに語らいながらのぞき込んでいる。絵本原画としての表現力が問われているだけあって、1点1点に豊かな物語性があり、身近なところから出発する多様な世界観や幅広い表現に驚かされる。関連事業として、21年前からプロとプロを目指す人を対象に絵本づくりの専門講座「夏のアトリエ」を開講し、多くの人材を輩出。小学生のときにボローニャ展を見て絵本作家を志して入選した人もいる。

 86年から同館学芸員を務め、89年からボローニャ展を担当してきた現・館長代理の松岡希代子さんは、「美術館は“違う”という多様性を自然な形でポジティブに受け止めることができる場所であり、これから益々重要になる。この展覧会も多様性を重視してつくっているが、子どもたちにはそうした美術館を楽しめるベーシックな力をつけてもらいたいし、美術館を楽しめる人をつくることが私たちのミッションだと思っている。ボローニャ展を継続していろいろな信頼関係ができ、やれることも増えてきた。その成果でもあるが、レオ・レオーニの遺族から大きなコレクションの寄贈をしたいという嬉しい申し出をいただいた」と話す。

 シンポジウムでは、坂本健区長が板橋区としての取り組み(*)について話すとともに、設計を担当した柳学さんとコンサルタントの尾崎文雄さんが古い建物を継承しながら省エネ化(断熱とLED化)とバリアフリー化を図り、バックヤードや展示の環境を改善した具体的なポイントを解説。興味深かったのは、リニューアルにあたっての検討プロセスだ。区は2013年から3年かけて、廃止、財団化、指定管理者、直営、移転の選択を含めた美術館のあり方を検討。長年積み上げてきたコレクションと展覧会のシリーズ展開を高く評価し、既存施設の大規模改修により、区の文化芸術のシンボル的施設として直営で運営することを決定。その上で、改修にあたって区と学芸員と設計者がタッグを組み、学芸員の要望を一緒に検証しながら実施設計をまとめることに1年かけたという。

 「常勤学芸員3名という体制の中で、これまで積み重ねてきた事業をこれからも大切にして、みんなでアイデアを出し合い、それらを豊かにしながら次に繋げていきたい。出会いの場の美術館として、みんなが戻ってこられるホームのような場所になりたい」という松岡さんの言葉が、地域美術館のひとつのあり方を示しているように思った。

(坪池栄子)

 

板橋区立美術館

1979年に開館した直営館。収蔵品方針、事業方針を開館後に若い学芸員と区の若い職員が徹底的に議論。当時あまり注目されていなかった江戸狩野派を中心にした古美術の収集・展示、大正から昭和の池袋モンパルナスを中心にした地元作品の収集・展示、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展の3本柱で継続的に事業を展開。「親子で楽しむ古美術」など切り口のある無料収蔵品展、興味を惹くポスターや幟、和室で屏風を展示するなどの会場演出、わかりやすくユーモアのある作品キャプションなど工夫した美術館運営を実践。

イタリア・ボローニャ国際絵本原画展(ボローニャ展)

1964年にスタートした1,400余りの出版社が出展する世界最大級の児童書専門見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」に伴い、児童書のためのイラストレーションを対象として67年に創設された国際的な展覧会。日本では78年から西宮市大谷記念美術館が全入選者の作品を総覧するボローニャ展を開催。板橋区立美術館は81年から巡回開催し、89年から幹事館となり、毎年5館程度の国内巡回展を行う。

  • 2019 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展
    [会期]2019年6月29日~8月12日
    [会場]板橋区立美術館
    シンポジウム「建物から語る板橋区立美術館」(7月13日/登壇者:山名善之、柳学、尾崎文雄、米山大三郎、坂本健、松岡希代子)や講演会、ワークショップなど関連事業多数。

 

*板橋区の取り組み
美術館とは別に、板橋区の施策として、「いたばし国際絵本翻訳大賞」(1994年創設)、旧小学校の一画でボローニャ展事務局からの寄贈絵本約27,000点を公開する「いたばしボローニャ子ども絵本館」(2020年開館予定の新中央図書館に絵本館併設予定)、2005年に友好都市交流協定を締結したボローニャ市との交流といった「絵本のまち板橋」に取り組む。

 

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