一般社団法人 地域創造

岩手県宮古市 宮古市民文化会館 みやこ市民劇第2回公演 『鍬ヶ崎エレジー 激闘!宮古港海戦 』

 「ホール文化による地域再生」の取り組みによって今年度の地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞したのが、東日本大震災から立ち上がった宮古市民文化会館だ。そのシンボルとして2017年にスタートしたみやこ市民劇(隔年開催)の第2回公演『鍬ヶ崎エレジー 激闘!宮古港海戦』 が、2月8日、9日に満員の観客を前に披露された。宮古湾から約500メートルの同館は震災で地下と1階部分が浸水。3年の改修期間を経て、14年12月に再オープンに漕ぎ着けた。改修後、新たな指定管理者として運営に携わることになったのが、盛岡市内で小劇場を運営する特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター(*1)だった。盛岡からJR山田線で2時間余り。新作市民劇を取材するため宮古を訪れた。

 

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左:公演の様子
 
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右:気合い入れミーティング

 2月8日、初日の開演1時間前。7歳から79歳までの出演者76人、楽隊54人、スタッフ60人余りが全員大ホールのステージに集まり、“気合い入れ”というミーティングを行っていた。特別出演する宮古市長や室蘭市長、観光文化交流協会会長、三陸鉄道社長などの名士、ピンスポットを務める市教育委員会文化課長、衣裳の浴衣を着た子どもたち、元わらび座の経歴をもつ隣町の市民、舞台監督を務める若い市議会議員など、立場に関係なく、同じ釜の飯を食った “芝居仲間”として全員が勢揃いし、誰ひとり疎かにしないそのミーティングに、みやこ市民劇の真髄を見た気がした。

 今回の舞台は、1869年に勃発した「宮古港海戦」(旧幕府軍による明治新政府軍の軍艦奪取作戦)の史実をモチーフにした小説が原作。新天地・蝦夷の箱館を拠点に共和国建国を目指す榎本武揚、土方歳三ら旧幕府軍の志士による戦いに、新政府軍に恋人を殺されて復讐を誓う元盛岡藩藩士・和磨と鍬ヶ崎芸妓・千代菊の恋、時代に翻弄されながらも逞しく生きる港の民がクロスする3時間の大作。専門家の指導を受けて、衣裳も大道具・小道具も手づくり。スタッフを含む全員の名前が記されたタイトルロールを映画のように流すオープニング、生演奏によるオリジナル・ソング、巨大セットによる奪取作戦の再現、当時の鍬ヶ崎芸妓が踊っていた「大漁踊り」の復活(*2)という盛り沢山の内容だ。

 みやこ市民劇を提案し、演出を務めた坂田裕一いわてアートサポートセンター理事長は次のように話す。「市民劇のテーマは“復興”。第1回では、復興道路が宮古まで開通したタイミングだったので、三陸地方の“いのちの道”宮古街道を切り拓いた僧侶・牧庵鞭牛和尚を主人公にした。今回は、宮古から室蘭までフェリーが開通したこともあり、“海の道”に着目した。震災後、文化会館をツールにしてどうすればコミュニ ティの繋がりをつくれるかをずっと考えてきた。市職員として盛岡劇場で市民参加劇を立ち上げたが、それは地域の演劇を活性化するための土壌づくりでみやこ市民劇とは目的が違う。震災後、演劇に意義はあるのかと追い詰められたこともあった。しかし、二戸市民文士劇の立ち上げに携わったとき、市役所の新採用職員が全員参加し、人が劇的に変わるのを目の当たりにした。たわいもないことで人は成長できる。市民劇をツールにコミュニティが刷新できる可能性に気付き、宮古で立ち上げた」

 第1回の参加者約30人が主体的に立ち上げたのが「みやこ市民劇ファクトリー」(*3)だ。代表の冨田淳治さんは震災復興支援員として2017年度から3年間宮古に移住。「市民劇は参加したそれぞれがみんな主人公で、地域の人がもともともっていた強さを前に進む力に変えてくれた。郷土芸能より自由なので誰もが参加できるから、僕もいろいろな人と繋がることができた」と話す。演出助手も務めた観光文化交流協会の山根真生子さんは、「震災があり、地域外から多くの人が来られて市民には戸惑いがあった。それが、埋もれた才能、原石のような人達が集まってひとつのものをつくり上げ、市民劇を成功させて仲間になれた」と笑う。

 カーテンコールでは、自由と平和の理想郷となる共和国建国を宣言する劇中歌、鍬ヶ崎の女たちの底力をアピールする劇中歌が響き、まるで宮古市民の復興への心意気を歌い上げているかのようだった。

(坪池栄子)

 

●みやこ市民劇第2回公演『鍬ヶ崎エレジー 激闘!宮古港海戦』
 [会期]2020年2月8日、9日
 [会場]宮古市民文化会館 大ホール
 [主催]みやこ市民劇実行委員会、特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター
 [原作]平谷美樹『鍬ヶ崎心中』
 [脚本]道又力 [演出]坂田裕一
 [音楽監督・指揮]寺崎巖
 [作曲]柏村実 [大漁踊り指導]泉秀樹

 

*1 地域文化の形成とコミュニティの活性化を目的に2005年に設立し、風のスタジオ/風のアトリエを開設。東日本大震災後、いわて文化支援ネットワークの事務局として活動。盛岡市職員として盛岡劇場や盛岡文士劇を立ち上げ、自ら劇団活動も行う坂田裕一氏が理事長。小説家の高橋克彦、いわてフィルハーモニー・オーケストラ代表の寺崎巖、脚本家の道又力ら盛岡の文化人が参画。もりおか町家物語館、宮古市民文化会館指定管理者。

 

*2 江戸〜蝦夷・松前の東廻り航路の寄港地として繁栄した宮古の鍬ヶ崎芸妓が漁師の出で立ちで披露した大漁祈願の踊り。半世紀前に途絶えたが、映像(部分)、楽譜、聞き取り等を元に泉流家元・泉秀樹が創造的に復活。宮古の芸能として継承することを目指す。

 

*3 みやこ市民劇を支える中核団体として2018年に発足。宮古市民文化会館を拠点に活動し、テクニカル・ワークショップなどで裏方としての腕を磨き、市民劇との交互開催で自主公演を行う。

 

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