一般社団法人 地域創造

令和5・6年度「公共ホール創造ネットワークモデル事業」

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写真左上:アウトリーチプログラムづくりの様子 右上:ランスルーの様子(北島佳奈さん) 左下:小学校でのアウトリーチの様子(上富田町立岩田小学校) 右下:同上(上富田町立朝来小学校)

ジャンルを越境したアウトリーチプログラムづくりとアウトリーチの実施

 地域創造では、これまで実施してきた「公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム事 業」(以下、アウトリーチフォーラム事業)と「公共ホール演劇ネットワーク事業」での取り組みを踏まえ、より発展的で多様な企画づくりができる2カ年事業「公共ホール創造ネットワー ク事業」(以下、創造ネット)を新たに立ち上げ、昨年度からモデル事業に取り組んでいます。

 この事業は、公共ホール職員等の企画・制作能力の向上と県域内連携の強化を図ることを目的に、都道府県等を中心に市町村の公共ホールが共同・連携して実施するものです。アーティストの交流による新たなプログラムの可能性を拓く試みとして、クラシック音楽・現代ダンス・演劇等の複数ジャンルのアーティストとコーディネーターを派遣し、相互理解を深める研修を行いながら、新たなアウトリーチプログラムおよび創作による公演を支援します。

 令和4・5年度の神奈川県(公益財団法人神奈川芸術文化財団)に次いで、モデル事業の2地域目となる令和5・6年度は和歌山県を中心に3町(かつらぎ町、上富田町、串本町)が参加し、初年度事業としてアウトリーチプログラムづくりを行いました。

クラシック音楽と現代ダンスが交流したプログラム

 アーティストは、和歌山県在住のヴァイオリニストの北島佳奈さん(公共ホール音楽活性化支援事業登録アーティスト)、セレノグラフィカの隅地茉歩さんと阿比留修一さん(公共ホール現代ダンス活性化支援事業登録アーティスト)です。加えて、コーディネーターとしてリージョナルシアター事業のアドバイザーでもある岩崎正裕さん(劇作家・演出家、劇団太陽族代表)がクリエーターチームに参加しました。

 まず、5月8日・9日に県、参加3町の担当者、アーティスト等が一堂に会した研修会が行われました。アーティストそれぞれの模擬アウトリーチ体験やレクチャーで理解を深めた後、6月と10月の2回に分けて和歌山県民文化会館に計7日間滞在し、新たなアウトリーチのプログラムづくりを行いました。そして、10月10日から13日まで上富田町の小学校4校で新プログラムでのアウトリーチを実施しました。いずれも小学校5年生が対象でしたが、おんかつやダン活のアウトリーチとは異なる景色が展開されていました。

 今回のプログラムは授業2コマ分の90分で実施するもので、題して「音楽とダンスの追いかけっこ」。前半は音楽室で北島さんが地元出身ならではの親しみのこもった言葉づかいで音楽アウトリーチを行い、その時間の最後にはセレノグラフィカのダンスもコラボした後、子どもたちは阿比留さんの先導で探険のように体育館に移動。後半はセレノグラフィカによるダンスワークショップ。途中から再び北島さんが合流して、ダンサーと子どもたちのワークに生演奏で加わり、最後は全員が床に身体を横たえて『カノン』に耳を傾けるという構成で行われました。

 登場と同時に演奏する軽快な『ワルチング・マチルダ』に始まり、子どもたちのすぐ側まで行って演奏する『チャルダーシュ』、同じ旋律を繰り返すカノン形式によるフランク作曲の『ヴァイオリンソナタ』第4楽章の圧倒的な演奏で心も身体も高まった子どもたちは、言葉のないダンスの世界に誘われていきました。セレノグラフィカによるコミカルなウェルカムダンスを楽しんだ後、シンプルなルールで身体を動かしていくうちに、やがてそれがダンスの種となり、最後は音楽とのコラボレーションを体感しながら、心から音楽とダンスを楽しんでいました。実施した学校の先生からも「子どもたちは大事なことを教わった。これから自分たち一人ひとりの個性を大切にしていってくれると思う」と話していました。

 岩崎さんは、「コーディネーターの役割はアーティストの対話を誘発すること。今回のプログラムでは、お互いのよさを活かしながらジャンルを越境することを標榜した。ジャンルによる常識の違いはあったが、対話によってこの場のルールが生まれたのではないかと思う。子どもたちには音楽を聴くことと身体を動かすことは矛盾しないというのを伝えたかった」と振り返っていました。

 和歌山県は2010、11年度にアウトリーチフォーラム事業を実施した実績があります。当時事業を誘致し、今回の事業の実施を決めた田嶋安紀子さん(現・行政管理課長)は、「和歌山でもアウトリーチのような事業をやりたいと思っていた。アウトリーチフォーラム事業が、県が市町村の会館と一緒に取り組める唯一の事業だった。県内すべての市町村に声をかけ、最初のセミナーにできるだけ参加してもらった。会館を持っている市町村のうち、来られなかった1市には、近隣で行われたアウトリーチを見学してもらった。また、1町には写真やDVDなどを用いて説明を行った。アウトリーチフォーラム事業に参加した6館中4館が、その後おんかつ事業を活用してアウトリーチを継続している。 アウトリーチフォーラム事業はクラシック音楽の事業だったが、今回の複数ジャンルによる新しい試みにも興味があり、実施を決めた」と県として手応えを感じているとのことでした。

 今回の担当者である文化学術課文化企画班班長の前田安宏さんは、「最初は、参加する町にこれまでの経験の違いによる温度差があった。しかし、アーティストがジャンルの違いを乗り越えて真剣に議論し、下見などの準備に立ち会ううちに、共にプログラムを組み上げて実行するという共通認識が生まれていった。身体を動かすワークに音楽が加わってダンスになっていく様子を目の当たりにして自分も感動した」と話していました。

 12月には串本町、かつらぎ町でアウトリーチを実施します。今後アーティストと共に構想を練りながら新たな作品を創造して、来年度に公演を行う予定です。ご興味のある方はぜひ地域創造までお問合せください。

令和5・6年度「公共ホール創造ネットワークモデル事業」令和5年度実施体制 

◎実施団体

和歌山県

◎参加自治体

かつらぎ町、上富田町、串本町

◎アーティスト

北島佳奈(ヴァイオリン)

上野絵理子(ピアノ)

セレノグラフィカ(振付家・ダンサー/隅地茉歩、阿比留修一)

◎コーディネーター

岩崎正裕(劇作家・演出家、劇団太陽族代表)

◎アウトリーチプログラム実施先

•上富田町:10月10日~13日

岩田小学校、市ノ瀬小学校、朝来小学校、岡小学校・生馬小学校(合同)

•串本町:12月5日~8日

串本西小学校、大島小学校、古座小学校、串本小学校、西向小学校、田原小学校

•かつらぎ町:12月18日~20日

笠田小学校、渋田小学校、大谷小学校、妙寺小学校

公共ホール創造ネットワークモデル事業に関する問い合わせ

芸術環境部 栗林・岩﨑

Tel. 03-5573-4076

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