一般社団法人 地域創造

令和5年度「リージョナルシアター事業」

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ワークショップの様子
1・2:いどばたサロン(岡崎集会所)|3:左京老人福祉センター|4:ともつくカフェ(クリエイティブハウスF邸)

京都では高齢者を対象にしたワークショップを実施

 地域創造では、公共ホール職員等の企画・制作能力の向上と創造性豊かな地域づくりに資することを目的として、演劇の演出家などのアーティストを公立ホールに派遣し、ホール職員等と共に演劇の手法を使った地域でのワークショップなどを実施するリージョナルシアター事業を行っています。今年度は5団体が参加し、まちの規模もミッションもさまざまな中で知恵を出し合いながら事業を企画・実施しました。今回は京都市での取り組みをご紹介します。

 

 事業を実施したのは、今年度の地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞したロームシアター京都(指定管理者:公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)です。右頁のとおり、派遣アーティストと実施団体の担当者が集まる全体研修会と現地リサーチを経て、8月6日・7日と新年1月8日・9日の2回にわたって派遣アーティストとの事業が実施されました。

 派遣アーティストは演出家の多田淳之介さんで、ロームシアター京都の事業としては初めて高齢者対象のアウトリーチ事業が行われました。1回目はNPO法人地域共生開発機構ともつく(*)が実施している「ともつくカフェ」と「左京老人福祉センター」、2 回目はこの2カ所に加えてロームシアター京都が立地する岡崎学区の社会福祉協議会が開催する「いどばたサロン」(65歳以上を対象とした介護予防事業)にも出かけました(1回目は昨年のレター10月号参照)。

 2回目のともつくには1回目の経験者を含む9人の高齢者が参加。多田さんは気心の知れた俳優の佐山和泉さん、大川潤子さんをアシスタントとして伴い、「普段とルールを変えると脳が活性化します。脳トレです」と言いながら、後出しジャンケン(後出ししてジャンケンで負ける)やジェスチャーだけで同じ血液型に分かれるゲームなどでウォームアップ。ジェスチャーなのに血液型が引き金になっておしゃべりが止まらなくなるなど、高齢者パワーが炸裂。演劇のワークでは、「もう一度行きたい場所」をテーマにグループに分かれて思い出を語り合い、そこに行った時の状況を寸劇で表現しました。「57歳で運転免許を取得してはじめて行った天橋立」など 、行った場所からそれぞれの人生の片鱗が浮かび上がる時間になりました。

 いきいきシニアのための各種講座が1日中開催されている左京老人福祉センターでは 、「あなたも名優!演劇体験」と題してワークショップを行いました 。多田さんが『走れメロス』について説明し、王に死刑を宣告されたメロスが友人を人質にして3日の猶予を願うシーンを佐山さんと大川さんが実演。多田さんが「王は孤独だから膝を抱えて離れて座ってみよう」と演出すると、表現が大きく変化。それを目の当たりにした参加者たちがグループに分かれ、自由な解釈で王とメロスのシーンを創作・発表しました。家来の口車にのって死刑を宣告してしまった気弱な王が登場するなど、キャラクターに自然と参加者の性格が乗り移っていました。

 「いどばたサロン」では、「20歳の頃の自分」と向き合うワークが行われました。15人の参加者がグループに分かれて20歳の頃の思い出を語り合い、その頃の自分にかける神様のセリフを考えてもらいました。佐山さんと大川さんが神様に扮し、名前を呼びながら「本当によく頑張ったな、褒めてやるぞ」と声をかけると、思わず胸が熱くなりました。

 

 学生劇団での経験もあるロームシアター京都の担当者・枡谷雄一郎さんは、「これまでアウトリーチは行ったことがなく、また、子どもの事業はいろいろやっているが、高齢者への取り組みがなかった。この事業でその経験値を増やしたいと思った。アウトリーチ先の心当たりがなく、ひとくちに高齢者といっても活動できる度合いがそれぞれ違うこともよくわかっていなかった。唯一、繋がりがあったともつく代表の河本歩美さんに相談し、アクティブシニアを対象にして、まずはともつくに集まってくる好奇心溢れる方たちのところに出かけた。多田さんはワークショップで高齢者の方たちのいろいろな声を拾っていて、そのプロセスをみんなで共有するのを見ているのが楽しかった。これをどう発展させていくかを考えてみたいと思った」と話していました。 受け入れ先の河本さんは、「ワークショップでは思いもかけない表情や声が出ていて、解放された部分があったのではないか。初めてともつくに来た方も早々にみなさんと馴染んでいて、演劇が関係づくりに有効だと感じた。お年寄りというカテゴリーに入れられると個人を出せないが、ご自身のことをとても語っていらし た。これに限らず、ご自身らしくできることがあるというのを生きる中でもっと表現してもらえるようになればと考えている」と振り返っていました。

 多田さんは、「ともつくの参加者でも年齢に20歳ぐらい開きがあって、高齢者とひとくくりにできないのを改めて実感した。こういう場だから話せることもあり、仮の目的や話すテーマをうまく設定すると会話が活性化するし、演劇を高齢者のコミュニティでやる意義はある」と確かな手応えを感じていました。また、今回は実地研修として令和6年度からの新規派遣アーティストである越智良江さんがアシスタントとして参加。「高齢者とのワークショップは初めてだったが、昔のことを聞くことで親近感が生まれて、多幸感に包まれた時間になった。 私は2〜3カ月かけて市民と作品をつくってきたので、短時間のワークショップは焦りしかなかった。多田さんのゆるく運ぶ感じや、少しでも発表があると満足度が上がる感じは勉強になった」と刺激を受けていました 。

 

*NPO法人地域共生開発機構ともつく健康な人はもちろん、障がいのある方や高齢者など、すべての人たちが地域社会で力を発揮し、役割を担いながら生涯現役でいきいきと共生していくことを支援するNPO。地域の交流の場として個人から提供された邸宅で毎月第1・3日曜日に「ともつくカフェ」を開催 。「ともつく」は「ともにつくろう」の略 。

 

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●令和5年度リージョナルシアター事業(実施団体/派遣アーティスト)

•青森県八戸市(株式会社アート&コミュ ニティ/ごまのはえ)

•茨城県日立市(公益財団法人日立市民科学文化財団/福田修志)

•茨城県茨城町(茨城町/有門正太郎)

•東京都狛江市(狛江市/田上豊)

•京都府京都市(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団/多田淳之介)

 

◎アドバイザー

•内藤裕敬(劇作家・演出家、南河内万歳一座座長)

•岩崎正裕(劇作家・演出家、劇団太陽族代表)

 

◎問い合わせ 芸術環境部 栗林・石本 Tel. 03-5573-4124

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