左上:多田淳之介さんのワークショップ
右上:「ホールと地域の仲を取り持つ『おんかつ』」(大澤寅雄さん)
左下:登録アーティストプレゼンテーション(北垣彩さん)
右下:登録アーティストプレゼンテーション(山崎由貴さん)
公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)では、実施館の担当者、コーディネーターや登録アーティストが一堂に会する全体研修会を実施しています。今年度は4月21日〜23日に開催し、22日には2025・2026年度登録アーティスト5名がTOPPANホールで初めての公開プレゼンテーション(各25分のショーイング)に挑みました。
立場を超えたチームづくりを目指す
研修は、参加館の担当者、コーディネーターが共に参加するワークショップで幕を開けました。ファシリテーターは、地域創造のリージョナルシアター事業派遣アーティストでおんかつコーディネーターも務める演出家の多田淳之介さんです。多田さんは昨年度から2カ年事業として福島県で展開している「公共ホール創造ネットワークモデル事業」の派遣アーティストでもあります。参加館の担当者たちは初めてのシアターゲームに思わず笑顔で、立場の違いを超えた交流を楽しみました。
また、おんかつアドバイザーの大澤寅雄さん(合同会社文化コモンズ研究所代表)によるレクチャーも行われました。アクセシビリティについて平等性、効率性ではなく“公平性”の観点から説明し、おんかつをホールと地域の仲を取り持つ“婚活”に準えて「じっと待っていても出会えないし、出会いにはさまざまな形式がある」と参加者にエールを送っていました。
2日目には、事例紹介と新規登録アーティストによる公開プレゼンテーションが行われました。事例紹介では、事業担当者の立場から令和6年度におんかつを実施した福島県西にしごうむら郷村教育委員会生涯学習課の天倉采雅さん(派遣アーティストはピアニストの今田篤さん)、演奏家の立場から2016・2017年度登録アーティストとして全国8市町に派遣されたマリンバ奏者の塚越慎子さんにお話を伺いました。
西郷村は人口約2万人。西郷村文化センターではこれまで本格的なクラシックコンサートを行った経験がなく、おんかつで初挑戦しましたが、本番のチケットが完売する大盛況となりました。「右も左もわからず全体研修会に参加し、今田さんの演奏に感動しました。この感動を村民のみなさんにどうすれば伝えられるかを考えながら半年間準備しました。相談できる相手がいて、何もわからない状態からでもできるのがおんかつの良いところだと思います」と天倉さん。また、塚越さんは農業従事者に向けたアウトリーチや議場でのミニコンサートなどのエピソードを披露。「地域に向き合い、一緒にアクティビティをつくっていく課程で、その土地は第二の故郷のような場所になる」と振り返っていました。
5名の個性が光った公開プレゼンテーション
トップバッターの三原未紗子さん(ピアノ)は小学校の校舎にいるかのような上履き姿で登場しました。「アウトリーチではドレミの音の背景に広がる世界観を想像する時間をもつことと、一緒に参加してもらう時間をもつことを大切にしている」と前置き。毒蜘蛛のタランチュラに噛まれた人たちが毒を抜くために踊る姿をあらわしたブルグミュラー『タランテラ』、鳥の啼き声で始まるラヴェル『悲しき鳥たち』、同じくラヴェル『道化師の朝の歌』という物語性のある選曲で教室でのアウトリーチの雰囲気を再現しました。
続く北垣彩さん(チェロ)は本格的な演奏会用ドレス姿で、4歳のときにテレビでヨーヨー・マの演奏を見たのがきっかけでチェロを始めたと自己紹介。自分を励まし続けてくれた大切な曲のカサド『親愛なる言葉』や初めて買ってもらった子ども用チェロで練習したドヴォルザーク『ユーモレスク』などを披露し、持参したその子ども用チェロを参加者が触って響きを体験するアクティビティも行いました。「夢中になれるものを見つければ、それが自分のことを照らし続けてくれると子どもたちに伝えたい」と北垣さん。
ユニークだったのが登録アーティストでは初めての楽器となるユーフォニアムを背負って登場した山崎由貴さんです。「小学5年生のときに金管バンド部で楽器と出会い、吹いた瞬間からこの音の虜になった。知らなかった楽器がちょっと気になる楽器になれば」と話し、5キロはあるという楽器を抱えてユーフォニアムのための曲であるスパーク『パントマイム』などを披露しました。
海外経験が豊かな鈴木舞さん(ヴァイオリン)は1682年製の銘器、グランド・アマティ(*)を携えて登場。「先月からアマティを貸与していただき、3年間演奏できることになった。1年半の南米ツアーやドイツのアルコール依存症施設でのアウトリーチなど音楽の力を感じる場面がたくさんあった。そういう力を感じてもらえるよう精進している」と言い、対話型鑑賞の方法を活かせるようコーチの資格も取得したと話していました。
ラストを締め括ったのが藤原歌劇団団員の小野寺光さん(バスバリトン)です。重厚な体格から繰り出される豊かな声量でデンツァ『フニクリ・フニクラ』を熱唱し、「世界最古のCMソングで、日本では童謡『鬼のパンツ』で知られている」と替え歌も披露しました。「声楽専攻の大学生でもオペラを観たことがなかったりする。アウトリーチではオペラは楽しい、オペラは身近だと感じてもらえるよう心がけている」と言い、教科書に掲載されている馴染みの曲でプレゼンテーションしました。
*ニコロ・アマティが製作したストラディバリウスに並ぶヴァイオリンの銘器。
令和7年度公共ホール音楽活性化事業全体研修会スケジュール
2025・2026年度公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト
- 三原未紗子(ピアノ)
- 鈴木舞(ヴァイオリン)
- 北垣彩(チェロ)
- 山崎由貴(ユーフォニアム)
- 小野寺光(バスバリトン)
令和7年度公共ホール音楽活性化事業参加団体一覧(全10団体)
- 宮城県登米市
- 山形県大石田町
- 福井県おおい町
- 岐阜県高山市
- 静岡県藤枝市
- 愛知県阿久比町
- 三重県鈴鹿市
- 佐賀県嬉野市
- 鹿児島県知名町
- 沖縄県宮古島市
公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)に関する問い合わせ
芸術環境部 金山・北川
Tel. 03-5573-4168