一般社団法人 地域創造

地域創造フェスティバル2025 in 茅ヶ崎 報告

p2.jpg
写真左上:シンポジウム「みんなで考える文化芸術のアクセシビリティ」
右上:おんかつ支援プレゼンテーション
山本奈央さん(オカリナ)
左下:おんかつ支援プレゼンテーション
Dual KOTO×KOTO(箏デュオ)
右下:ダン活プレゼンテーション
Von·noズ

 多くのアーティスト・公立文化施設・地方公共団体職員の交流の場となっている地域創造フェスティバルが8月4日から6日まで茅ヶ崎市民文化会館で開催されました。おんかつ支援登録アーティスト54組によるプレゼンテーションやシンポジウム、地域創造の事業説明会に加え、公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)登録アーティスト7組による公開プレゼンテーションが行われる令和8年度ダン活全体研修会、都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議も同時開催され、活気に溢れたフェスティバルとなりました。

シンポジウムのテーマはアクセシビリティ

 今回のシンポジウムでは「みんなで考える文化芸術のアクセシビリティ」と題して、公立ホール、福祉現場、アート現場で意欲的な実践を行っているキーパーソンをパネリストに招き、事例紹介と意見交換が行われました。

 

 まず、モデレーターの吉本光宏さんが令和5年度版「障害者白書」(内閣府)から、身体障害・知的障害・精神障害の3区分をまとめると、単純な合計とは言えないものの、国民のおよそ9.2%が何らかの障がいを有しているという現状を投げかけ。パネリストの大澤寅雄さんが令和6年度「障害者文化芸術活動推進に向けた劇場・音楽堂等取組状況調査報告書」(全国公立文化施設協会)から、職員の研修状況(回答があった1,439施設中62.4%が研修を実施したことがない)、障がい者に配慮または対象とした事業の取り組みを実施したことがあると回答した443施設中82.8%が他の組織等と連携している、といった状況について情報共有が行われました(*)。


 続いて、障がいの有無にかかわらずさまざまな人と活動する地域のダンスチームと協働した事業や、聴覚・視覚障がい者への鑑賞サポートなどを実施している荘銀タクト鶴岡の伊藤玲子さん、障害者差別解消法制定をきっかけに講座を実施し、2019年からの「インクルーシブ・シアタープロジェクト」の糸口をつくった、しまね文化振興財団の福間一さん、障がいのある人の拠点として福祉とアートの領域で先駆的な取り組みをしているたんぽぽの家の佐藤拓道さん、アール・ブリュットを中心に紹介するほか、障がい者の文化芸術活動をサポートしている小さな美術館・藁工ミュージアムの松本志帆子さんがそれぞれの取り組みを紹介しました。

 

 パネルディスカッションでは、「思い込みを捨てて、まずはやってみること」「当事者との関係をつくっていくこと」「上手くいかないことがどうすればできるようになるか、私たちが見ている世界をどうすれば見てもらえるようになるのかではなく、障がいのある人が見ている世界を知ること、彼らが見ている世界を通して見ること」「地域における分野を横断したネットワークが必要」といった視点が話し合われました。

 

 「まずは出会い、繋がり、知ることが大切だと思い、ダイバーシティいわみ事業として『まちと福祉と芸術文化についてのオープンミーティング』を継続している。劇場の力と地域の力の総和で取り組むべきだと感じている」という福間さんの言葉に、参加者たちは大きくうなずいていました。

 

*地域創造による「2024年度地域の公立文化施設実態調査」では、障がい者に関わる取り組みを実施している施設は、施設利用のための環境整備を含めると3,478施設中61.7%だった。

アーティスト計61組がプレゼンテーション

 おんかつ支援の登録アーティストは、現在、計116組に上ります。今回のフェスティバルでは、その中から、今回参加可能で登録年度の若い54組が参加しました。特徴的だったのが、藤重奈那子さん(箏・地歌三味線・十七絃)、Dual KOTO×KOTO(箏デュオ)、安嶋三保子さん(箏・十七絃)、森梓紗さん(箏)、大萩康喜さん(尺八)、棚原健太さん(歌三線)という邦楽演奏家6組がプレゼンに参加したことです。地域創造では令和元年度から公共ホール邦楽活性化事業に取り組み、令和4年度からオーディションによる登録演奏家制度をスタート。今年度のフェスティバルにはその支援演奏家も参加しました。

 

 東京藝術大学大学院に所属していたときから工夫を凝らした邦楽普及事業に取り組んできた藤重さん、沖縄の人々の日常に欠かせない地域の文化として琉球音階(5音階)などの特徴をもつ琉球古典音楽を紹介した棚原さん、『鶴の巣籠』の見事な演奏で尺八の魅力を披露した大萩さん、北原白秋の詩に沢井忠夫が曲を付けた『ゆれる秋』を真っ直ぐな声で弾き歌いした安嶋さん、後世に残す価値のあるものとして楽器や奏法の特徴などを紹介するとともに現代曲を取り上げたDual KOTO×KOTO、そして笙との珍しいデュオで箏の新たな魅力を伝えた森さんと、改めて邦楽の魅力を発見したプレゼンとなりました。

 

 作曲家への委嘱などを通して、箏曲の新しい展開を志している森さんは、「馴染みのない人にも音の楽しさとして現代曲が届けられるのではと思っている。MCなど届け方を工夫し、心づもりをしてもらえればきちんと届くし、知らないからこそ純粋な思いで音に耳を傾けてもらえると感じている。幼児対象のアウトリーチではオノマトペを箏の音で楽しんでもらうアウトリーチも行った」と言い、箏にないものをすべてもっている笙とのコラボレーションは今後も続けていきたいと話していました。

 

 また、ダン活全体研修会において行われた2025・2026年度登録アーティストによる公開プレゼンには黒須育海さん、Von・noズ、橋本真那さん、康本雅子さん、岩渕貞太さん、浅井信好さん、井田亜彩実さんが登場し、それぞれのパフォーマンスを披露するとともに、参加者とのコミュニケーションを大切にしたワークショップを展開しました。

 

 トップバッターの黒須さんは、茅ヶ崎の海のイメージや参加者の趣味などから短い作品を創作し、最後に照明も入れて参加者と共に発表しました。大学時代の同級生2人が結成したVon・noズはコミュニケーションワークや自分たちの創作方法であるペアワークを、道具を使って参加者と体験。また、現役の大学院生である橋本さんは言葉にしづらい思いを身体で表現するワークを行い、参加者のアイディアを引き出しました。各アーティストの個性豊かなプレゼンにより、身体表現の幅広いアプローチを体験する時間となりました。



 来年度は、7月28日、29日の2日間、東京芸術劇場にて開催予定です。皆さまのご参加をお待ちしています。詳細は次年度の地域創造レターや財団ホームページにてお知らせします。

 

 

●地域創造フェスティバル

公立文化施設や地方公共団体が事業を企画・実施する上で参考となる情報を提供することを目的に、地域創造が開催。公共ホール音楽活性化支援事業の登録アーティスト、公共ホール現代ダンス活性化事業の登録アーティストによる実演(プレゼンテーション)、シンポジウム、セミナーなどを実施するとともに、財団事業の説明会を実施。多数のアーティストや全国の文化施設・地方公共団体関係者、専門家が一堂に集い、交流する貴重なプラットフォームとなっている。会期中に都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議を同時開催。

 

●地域創造フェスティバル2025 in 茅ヶ崎 プログラム概要

【1日目(8月4日)】
◎おんかつ支援プレゼンテーション
(練習室1・2 ※各日同じ会場で実施)
【ピアノ】今田篤、高橋ドレミ、田村緑 【弦楽器】神谷未穂、早稲田桜子(ヴァイオリン)/海野幹雄、奥田なな子、加藤文枝(チェロ) 【管楽器】田村真寛(サクソフォン) 【声楽】上田純子(ソプラノ)/糸賀修平(テノール)/ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン) 【打楽器】大熊理津子(マリンバ)/野尻小矢佳(パーカション&ボイス) 【邦楽】藤重奈那子(箏・地歌三味線・十七絃) 【その他】松尾俊介(クラシック・ギター) 【アンサンブル】Quintet H(木管五重奏)/BLACK BOTTOM BRASS BAND(ブラスバンド)

 

【2日目(8月5日)】
◎シンポジウム「みんなで考える文化芸術のアクセシビリティ」(小ホール)

吉本光宏・大澤寅雄(文化コモンズ研究所)、伊藤玲子(荘銀タクト鶴岡)、福間一(しまね文化振興財団)、佐藤拓道(たんぼぽの家アートセンターHANA)、松本志帆子(藁工ミュージアム/NPO蛸蔵)
◎おんかつ支援プレゼンテーション
【ピアノ】新崎誠実、岩崎洵奈 【弦楽器】北島佳奈、高橋和歌(ヴァイオリン) 【管楽器】森岡有裕子(フルート)/大石将紀、田中拓也(サクソフォン)/高見信行(トランペット)/喜名雅(テューバ) 【声楽】大森智子、乗松恵美(ソプラノ) 【邦楽】安嶋三保子(箏・十七絃) 【その他】福島青衣子(ハープ) 【アンサンブル】デュエットゥ かなえ&ゆかり(ピアノデュオ)/Dual KOTO×KOTO(箏デュオ)/アーバンサクソフォンカルテット、Quatuor B、Modétro Saxophone Ensemble(サクソフォン四重奏)
◎ダン活プレゼンテーション(大ホール)
黒須育海、Von·noズ、橋本真那、康本雅子、岩渕貞太、浅井信好、井田亜彩実

 

【3日目(8月6日)】
◎助成・事業説明会(大会議室)
◎事業個別相談会(第2会議室)
◎おんかつ支援プレゼンテーション
【ピアノ】新居由佳梨、酒井有彩、中野翔太 【弦楽器】石上真由子、瀧村依里(ヴァイオリン) 【管楽器】荒川洋、吉岡次郎(フルート)/加藤直明(トロンボーン) 【声楽】梅津碧(ソプラノ) 【打楽器】塚越慎子(マリンバ)/新野将之(パーカッション・マリンバ) 【邦楽】森梓紗(箏)/大萩康喜(尺八)/棚原健太(歌三線) 【その他】山本奈央(オカリナ) 【アンサンブル】泉真由×松田弦(フルート&クラシック・ギター)/Quartet SPIRITUS(サクソフォン四重奏)/Buzz Five(金管五重奏)

 

*都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議を同時開催(8月5日/大会議室)
*各日、来場者が交流する「情報交換会」を開催(大ホールホワイエ)

カテゴリー