一般社団法人 地域創造

滋賀県東近江市 東近江創作ミュージカル 2025 『木地師のふるさと東近江〜惟喬親王伝説〜』

 小学4年生から78歳まで38人の市民が出演した東近江創作ミュージカル『木地師のふるさと東近江~惟喬親王伝説~』が1月31日、2月1日に東近江市立八日市文化芸術会館で上演された。脚本・演出、作曲、振付はプロだが、美術・衣裳の製作をはじめ裏方の多くを市民スタッフが担い、チケット完売の大盛況だった。

 

 題材は、平安時代、東近江で隠遁生活を送った惟喬親王。都を追われた経緯と、惟喬がろくろを使用する木工技術を考案し、職人(木地師)たちが宮廷の保護により木の伐採権を得るまでを描く。都を牛耳っていた藤原良房、彼に恋人との仲を裂かれた惟喬の友・業平、良房に帝として担がれた惟喬の弟・惟仁が登場し、キャラクターのテーマ曲にのせてアクション満載の平安ドラマが展開した。

 

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写真提供:東近江市地域振興事業団

 

 私が東近江創作ミュージカルを初めて取材したのは1998年3月(*1)。東近江市は合併前の八日市市、八日市文化芸術会館は市に移管される前の滋賀県の施設、運営は指定管理者制度が導入される前の滋賀県文化振興事業団(以下、事業団。現在は公益財団法人びわ湖芸術文化財団に統合)だった。これを説明するだけで、この間にどれほど環境が変わったかがわかる。にもかかわらず、なぜ東近江創作ミュージカルは継続できたのか? その疑問をもって現地に向かった。

 

 開場前から観客が大行列をつくり、衣裳を着けた子どもたちが行列前でウェルカムソングを披露。パンフレットには地元企業37社の広告、ミュージカルナンバーの全歌詞、用語説明、人物相関図などを掲載。語り手が木地師について説明するオープニングに始まり、ミュージカルを見慣れない人にもわかるような場面転換の
ナレーションなど、みんなでつくるだけでなく、みんなで楽しむところまで意識する制作姿勢は変わっていなかった。

 

 98年以来、1作を除いてすべての脚本・演出を担当してきた宝塚歌劇団演出家の中村暁さんは、地元に馴染みのある話題を元にしているところがここの強みだと言う。「土日しか稽古できないし、全員揃わないし、代役もその日できる人が入る。それでもやるという情熱があるから続いている。知らない人同士が稽古しなが
ら繋がりを深めているのがよくわかる」。

 

 この事業を立ち上げたのは、事業団の職員で当時は技術スタッフだった端洋一さんだ(*2)。 「チケットを売るだけが文化振興ではない。市民と一緒に何かやれないだろうか」と手づくりの創作ミュージカルを企画し、96年に初挑戦。98年3月に東近江創作ミュージカルとして『Legend─湖の伝説』を発表した。しかし、合併市への施設移管で端さんが異動し、04年3月に上演した『給食物語』を最後に中断。副館長として会館に戻ったのは19年で、貸館のみになっていたのを立て直し、22年9月の新作『日出ずる国 厩戸皇子』で再出発した。

 

 端さんは、「当初から市民スタッフを育成するのが目的だった。このチームがあるから実現できている。そこに行けば自分の居場所がある、そういう環境を具体化する場が私にとっては市民ミュージカルだ。公立ホールは市民と一緒に創造する文化芸術の拠点であるべきで、24年には合併で活動休止した市民吹奏楽団も復活
した」と揺るぎない。


 市民スタッフの村川幸美さん(1959年生まれ)は、「娘が96年の舞台に出演したのがきっかけで『Legend』から裏方をやっている。みんなが輝いていくのを見るのがすごく楽しい。普通の生活をしていたら絶対に味わえない、非日常の世界、ワクワク感がたまらない」と言う。今回、振付を担当したのはプロの振付家になった娘の知佐さんだ。もともと県立施設だったため、市民スタッフたちは県域から参加していて、この距離感も心地いいと言う。


 インタビューしていると、「この人も親子で頑張ってる。娘さんは『Legend』の主役」「この人は良房を演じた隣町の副町長」と次々に古参メンバーが集まってきた。「一人の人間として見てもらえて、活性化する」「こうやれとは言われなくて、衣裳も道具も自分たちのアイデアを聞いてもらえる」「昔の部活みたい」など、仲間たちの熱い思いが溢れていた。

(坪池栄子)

 

*1 1998年4月号「今月のレポート」参照


*2 1957年生まれ。滋賀県文化振興事業団の職員として八日市文化芸術会館、しが県立芸術創造館、滋賀県立文化産業交流会館を担当。2015年に草津クレアホール(旧しが県民芸術創造館)のプロデューサーに就任し、草津歌劇団を立ち上げ。19年に八日市文化芸術会館副館長に就任。館長を経て、舞台芸術専門職員。

 

東近江創作ミュージカル2025『惟喬親王伝説~木地師のふるさと東近江~』

[主催]滋賀県、(公財)びわ湖芸術文化財団、(公財)東近江市地域振興事業団
[会期]2026年1月31日、2月1日
[会場]八日市文化芸術会館
[演出・脚本]中村暁(宝塚歌劇団演出家)
[振付]村川知佐
[音楽]大町達人
※鑑賞サポートとして台本貸出、字幕タブレット、ヒアリングループ席などを準備。
※当財団助成事業

東近江市立八日市文化芸術会館

2005年2月に1市4町が合併して誕生した東近江市が06年4月に滋賀県から移管された旧滋賀県立八日市文化芸術会館(1981年開館)。804席のホールと展示室、練習室等を有す。指定管理者は財団法人東近江市地域振興事業団(12年に公益財団法人化)。びわ湖のある滋賀県では地理的に移動が難しいことから、湖を囲む5地区に同会館を含む県立の芸術会館5施設を整備し、滋賀県文化振興事業団が運営。県の公の施設の見直しにより06年度から立地市に順次移管(草津文化芸術会館のみしが県民芸術創造館として継続したが、15年度に草津市に移管)。なお17年には公益財団法人滋賀県文化振興事業団と公益財団法人びわ湖ホールの再編により、公益財団法人びわ湖芸術文化財団設立。

 

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