都市の路上や被災地で活動を続けてきたアートチーム・SIDE COREの公立美術館で初となる個展「Living road, Living space/生きている道、生きるための場所」が、金沢21世紀美術館で開催された。ストリートカルチャーの態度と視線を展示空間に持ち込んだ本展では、館内に新たな動線を開拓し、街の多様なプレイヤーを招き入れるなど、美術館のあり方を拡張。チームが交流を続ける能登半島の被災地に、観客と共に訪れるプログラムの実施など、美術館と外部をつなぎ、両者の違いを改めて問う内容となった。3月初旬に本展と能登訪問を取材し、メンバーの高須咲恵、松下徹、西広太志、担当学芸員の髙木遊に話を聞いた。

薄暗い部屋に並ぶ車のヘッドライトと、その光を鈍く反射する工事看板群。石巻の路上で地元のスケーターと制作した映像作品の脇を抜けると、工事用照明器具を使った巨大作品が見えてくる─。そんな導入で始まる会場には、まるで、路地を行くような感覚がある。
象徴的なのが、館内中央にある通常有料の区域を無料開放し、円型の建物を串刺すように通した新たな「道」だ。街と接続された中心の展示室には、プロスケーターの森田貴宏が全面スケボーパークを展開。白い床や壁には会期中さまざまな人たちがグラフィティを描き、毎日閉館前1時間は滑走可能。取材時にも、2人のスケーターが楽しんでいた。
他にも、美術館の慣習を揺らす仕掛けが多い。例えば、中庭に足場を組み屋上の映像を見せる動線や、外来魚の生体展示、能登の粘土等による生きた建築模型、観客がくつろげる居間的な空間など。ゲスト作家のスティーブン・ESPO・パワーズは巨大壁画で街と館内を貫き、細野晃太朗は展示室に独自のギャラリーを挿入した。いずれも美術館空間の特殊さを意識させ、その枠組みの拡張を迫るものだ。
本展の起点には2024年元日の能登半島地震がある。この出来事に問題意識をもった髙木は、その後の休館中に金沢の複数のスペース等で美術館の存在を問う自主企画「Everythingis a Museum」を実施。SIDE COREも参加した。両者は共に被災地を繰り返し訪れ、地域と交流。展覧会はその延長で企画された。
屋上の映像作品《new land》も、この経緯の中で自然に生まれた。地震による海岸隆起がつくった大地の上で高須が鳥に食べ物を差し出す光景は、破壊を超える生を感じさせる。地震後に珠洲に移住した俳優・坂口彩夏が出演したロードムービー《living road》も、途上の人を肯定的に描く。3月7日・8日に参加した能登へのビジティングプログラムでは、映像の撮影場所や坂口ら地域で活躍する人々の元を訪問。半島を旅しながら、チームや髙木は、この地にある逞しさを美術館につなげようとしたのだと感じた。
本展の多数の仕掛けについてメンバーは、「災害時のようにあらゆることが起こりうる場として美術館を見せたかった。美術館のポテンシャルは関係者も試し切れていない。館内でもスケボーができるなど、肯定的な前例を多くつくりたかった」(松下)、「新陳代謝は自然なこと。変化を受け入れることについて改めて考える場にしたかった」(高須)、「開かれた美術館と呼ばれた21美だが、開館後20年以上が経ち、凝り固まっている部分もある。その公共性を現代的に更新したかった」(西広)とそれぞれ話す。
実は今回「道」となった中央のエリアは、2005年の「妹島和世+西沢立衛/SANAA」展の際にも無料開放されたことがある。しかしその後、手続きや動線の複雑化等を理由に有料が「慣習」化。彼らはそこに、新鮮な人と風の通り道をつくった。今回が初の特別展担当となる髙木は言う。「行政はプロセスさえ踏めばさまざまに実験的なこともできる。美術館は抽象的な概念ではなく、各館とも個別具体的な場所。コミュニケーションの仕方を開発し、『足場』を見つければ、新しい道を開くことはできる」。
平時におけるポテンシャルの拡張は、有事の際の可能性にもつながる。路上の身体性を大切にするチームと、インディペンデントな精神を持つ学芸員。本展は、制度を内面化し切らない両者の出会いから生まれた、ワイルドな展覧会だった。
●SIDE CORE Living road, Living space/生きている道、生きるための場所
2012年結成のアートチーム「SIDE CORE」(高須咲恵、松下徹、西広太志。映像ディレクター・播本和宜)の公立美術館での初個展。ゲストアーティストに森田貴宏、スティーブン・ESPO・パワーズ、細野晃太朗を迎え、本文でふれた以外にも、多様な表現者が美術館を「何かが生まれる場所」としてとらえ直す「PRESEN TATION」(計5回)、アウトドアブランド「Goldwin」と協働し有事のスキルを学ぶ子ども向けWS(計8回)、ESPOによるポップアップ&WS等、美術館を路上とつなぎ有機的な場とする企画を多数展開。
[会期]2025年10月18日~26年3月15日
[会場]金沢21世紀美術館
●ROAD TO NOTO
能登半島と美術館をつなぐビジティングプログラムSIDE COREと共に珠洲市を中心とした能登半島各地を巡ることで、参加者が被災後の現地を訪れ、現状を知るきっかけをつくる地域連携プログラム。展覧会会期中、日帰りと1泊2日の2通りで計4回実施。3月7日・8日の回には各地から多様な24人が参加。朝にバスで美術館を発ち、富山湾側から半島先端の珠洲へ。細野が北陸の若者らと催すパーティ会場や、ESPOの壁画、地元のコレクティブ「仮( )-karikakko-」が運営する銭湯「あみだ湯」などを巡り1泊。翌日は地震による海岸隆起が続く日本海側を下り、作品の制作現場や、25年7月号の本欄でふれたスズ・シアター・ミュージアム、移住者の俳優・坂口彩夏のもとなどを訪ねた。2013年に金沢で展覧会「能登」を開催したアーティスト・島袋道浩も同行した。
