一般社団法人 地域創造

第37号 文化の広場になる(2014年度3月発行)

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特集 文化の広場になる

人口減少、少子化、高齢化、基幹産業の衰退などさまざまな課題を抱えた地域で、文化を核に人と人とを結び、ともに生きるための方法を探る取り組みが始まっている。

空間のエスプリ

体験レッスン

座談会

イラストSCOPE

SCOPE

特 集 文化の広場になる

1 兵庫県神戸市│NPO法人DANCE BOX
「みんなのフェスティバル」く

文:乗越たかお

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© 雨田芳明

ダンスボックスの企画では、おやじが酒を酌み交わし、女性が美しくなり、子どもがはしゃぎ、若者が語らう。在日の外国人も他所から来た人も関係ない。競争ではなく共存する社会のあり方として、アートがひとりひとりを繋いでいく。見知らぬ人同士が出会い、よく知る者同士はさらに意外な面を発見する……そうやってアートが人を繋ぐ場所であればこそ、人々は集うのである。

2 岩手県西和賀町│銀河ホール

文:田中健夫

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© 雨田芳明

「演劇を通して、何かしらまちづくりに貢献したいという思いで町民劇場を始めました。もちろん、町長部局などのリアルなまちづくりではありません。でも、町民劇場には裏方を含めれば100人近い人が関わり、それを600人を超える人が見てくれる。まちづくり懇談会やまちづくりをテーマにした講演会などにも、これほど多くの人は集まりません。それだけ多くの人が観劇を通して町のことを考え、観劇後も舞台で語られた内容を思い出してくれます。その結果、まちづくりへの意識も変わっていくのではないでしょうか。それを期待しています」

3 東京都立川市│立川市子ども未来センター

文:田中健夫

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© 雨田芳明

今の時代、漠然と地域と関わりたいという人は多い。ことに地縁、血縁が薄い首都圏では、地域活動を通して人と繋がりたいという人が増えている。センターは、そんな思いを受け止め、自発的な活動を引き出す仕組みをつくり、縁を繋いでいる。立川市子ども未来センターは、まさにそうした"広場"なのだろう。

4 兵庫県西宮市│西宮船坂ビエンナーレ

文:山下里加

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© 雨田芳明

兵庫県内でも最も早く1873年に開校した船坂小学校がある。少子化のため隣町の山口小学校に統合され、2010年3月に閉校してしまったが、今も町の人たちを繋ぐ"結の場所"として賑わっている。旧講堂を改装したランチルームでは、地域の女性たちによるひとり暮らしの老人向けの昼食会が毎日曜日に開かれ、木造校舎の一画は地元の画家のアトリエとして活用されているほか、ワークショップや子どもたちの農業体験も行われている。閉校した小学校がこうした地区の人たちの結の場所となる後押しをしているのが、10年から始まった「西宮船坂ビエンナーレ」だ。

空間のエスプリ

マレーシア「クアラルンプール・パフォーミングアーツセンター」

文:浜口健

マレーシアでは1970年代から導入されているマレー系住民優遇政策によって、国立劇場をはじめとする公立劇場がマレー語演劇の上演を最優先している状況が続く。その中でマレー系、中華系、インド系をはじめとするさまざまな民族・言語による作品の上演を続けてきたこの劇場は、真の意味でマレーシア現代演劇の中心であったと言っても過言ではない。近年は郊外の商業施設や教育関連機関などが劇場をもつケースも増えてきており、スペースの多様化・分散化が進んでいるが、klpacは首都圏で唯一の民間大型総合舞台芸術センターとして大きな存在感を示し続けている。

体験レッスン

「音楽の力による復興センター・東北」にコーディネート力を学ぶ

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© 雨田芳明

東日本大震災から4年。仙台では震災直後から芸術文化による支援活動が行われてきました。そのひとつ、「音楽の力による復興センター・東北」は、仙台フィルハーモニー管弦楽団の事務局が母体となり、市民有志と共に3月26日には第1回の復興コンサートを行うなど、いち早く体制を整えたことで知られています。2014年4月には公益財団法人化され、14年12月末までに実施したコンサートは440回。コンサートを希望する人と音楽を繋ぐ継続的な体制づくりを実現した復興センターに、その仕組みとコーディネート力について学びます。

座談会

生活者のためのアートプロジェクトを考える

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© 大河内禎

アートプロジェクトは社会に何をもたらすことができるのか。一過性の"賑わいづくり"という役割を超えて、地域で生きる人たちが一層生き生きと暮らすためのアートの役立て方について、各地でその実践に取り組んでいる方々に話し合っていただきました。

イラストSCOPE

「福島県域の無形民俗文化財被災調査」を復活継承に向けての第一歩に

文:奈良部和美

「文化財が再生・復活するとは、文化財で地域が再生・復活することだ。祭りや芸能をすることで、地域社会、新しい生活の基礎ができ、再生に繋がる」(中略)「共に祭りをすることは切れかかった地域の人を繋ぎ、祭りを通して自分を取り巻いていた過去を意識する。地域の横のつながりと、歴史という縦の繋がりの再生に無形民俗文化財は力を発揮する」

SCOPE

奈良県奈良市
「なら100年会館「万葉オペラ・ラボ」

文:田中健夫

「万葉オペラは、たとえれば"芸術文化の地産地消"。歴史や文化、名所など奈良の魅力を取り込みつつ、さまざまな専門性をもつ地域人材が集まって、この地ならではのオペラをつくり上げ、地域の人にも来街者にも楽しんでいただく。そんな創造発信型の事業を目指しています」

福岡県筑後市
九州芸文館

文:山下里加

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© 大河内禎

「芸文館には、一流の芸術にふれ、地域にゆかりの作家を紹介する、または、地域住民が多様なものづくりを学び、地域の歴史や文化を再認識するなど、芸術文化に関するさまざまな機会が混じり合う場となることが期待されています。指定管理者と連携し、県としての主催事業も組み込んで、こうした役割を果たしていきたいと考えています。正直なところ課題は山積ですが、事業を通じて、アートだけでなく、食や農業など意欲のある方々の顔が見えてきました。今後は、どんどんそういう面白い人たちにさまざまに活用していただき、存在感を高めていければと思っています」

岩手県紫波町
「オガールプロジェクト」

文:神山典士

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© 大河内禎

実はこの敷地は、バブル期に町が28億円をかけて購入し、その後財政状況が悪化して開発計画が頓挫。10年以上も塩漬けになっていた土地だった。町民たちは"日本一高い雪捨て場"と揶揄していたという。そこを再生するために、紫波町は、条件や規制が厳しい県や国からの補助金は一切使わず、民間の資金やノウハウを活用して公共サービスを行うPPPによってプロジェクトを立ち上げたのだ。いったい何故、どんな経緯でこのプロジェクトが誕生してきたのか。そこには"パブリック・マインド"をもった民間人の、大きな危機感があった。

第37号 文化の広場になる(2014年度3月発行)