一般社団法人 地域創造

特別寄稿 ビューポイント view point No.21

 2005年の地域創造公共ホール現代ダンス活性化事業のスタート時から登録アーティストとして地域の人々とダンスを繋いできた、なにわのコリオグラファーことダンサー・振付家の北村成美さん。20年以上にわたって滋賀県湖南圏域で入所施設や作業所に通う障がい者、施設のスタッフとともに「湖南ダンスカンパニー」として活動してきたことでも知られる北村さんに足跡を振り返っていただいた。

 

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北村成美(ダンサー・振付家、湖南ダンスカンパニーディレクター

 

●地域の中で育てられた「しげやん」という仕掛け

 

 水着アイドル夏びわ子、海ぶどうナツ子、大船トリ子、「サウンド・オブ・ミュージック・イン・六甲」のシゲー・アンドリュース、「びわ湖平和音頭」のジュディ・オウミ、ハレノワダンサーズリーダー、株式会社ありがとうファームダンス部長、赤シャツダンサーズ総監督、新米ホスト喜多逢坂シゲル、別府八湯温泉祭り「にわか隊」隊長、地獄の妖精ゴールデンしげアフロ、なにわのコリオグラファーしげやん…

 

 これらはすべて私こと北村成美の別名であり、それぞれの企画や街の人々の懐に飛び込み、ともに踊りながら作り上げたキャラクターたちです。その街に住むように滞在し、歩き、挨拶を交わし、買い物し、食事して笑う。その土地のキャラクターとして生きて人々と関わる中でダンスが生まれ、作品が立ち上がります。そうした交歓の中でキャラクターは成長し、人と人、人と場を繋いでくれます。劇場はもちろん、駅前広場、商店街、公共施設、学校、電車バス、海川山、廃屋、屋上、さまざまな場所を舞台に、赤ちゃんから大先輩までのあらゆる世代、さまざまな個性を持つ人々と、ソロから1000人規模の大作まで、あらゆるかたちでダンスをつくり踊らせてもらっています。今や「しげやん」は私にとっても、ダンスを起こしてくれる仕掛けのように思えます。

 

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2013年〜2019年 北九州芸術劇場ダンスダイブウィーク

「夕暮れダンス〜ちょいとごめんよじゃまするよ」赤シャツダンサーズ

小倉の角打ち、商店街や橋の上の仮設酒場に突如現れ「コクラバーナ」を歌い踊るおもてなし集団。

コロナ禍を経て2024年復活し新生赤シャツダンサーズとして始動

 

2017年 六甲ミーツ・アート芸術散歩2017「しげやんのサウンド・オブ・ミュージック・イン・六甲」シゲー・アンドリュース.jpg

2016年〜継続中 別府八湯温泉祭り「にわか隊」
「おどり隊」隊長しげやん、「かなで隊」隊長片岡祐介氏がリーダーとなり、別府市民と共に作詞作曲振付したナンバーを歌い踊り祭りを盛り上げる

 

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2025年 「地獄の妖精しげやんの別府八湯100湯巡礼ダンス天国」

別府市民のみなさまと別府市政100周年をお祝いし、100ヶ所の温泉に入り100個のダンスを奉納する巡礼の旅

 

 

●原点〜すべては一対一の向かい合いから

 

 2005年に地域創造公共ホール現代ダンス活性化事業が始まり、初年度から今日まで、登録アーティスト、支援登録アーティストとして貴重な経験を積ませていただきました。中でも私のダンスに大きな影響を与えてくれたのが、徳之島でのアウトリーチです。

 

 いつもの「しげやん」が中学生たちの中に入って踊り始めた体育館は、さながら学級崩壊の状態。ひとりの生徒に「うっとおしい!」と弾かれ拒絶されました。ここで私は「はっ」として、自分の調子を強要していたことに気づきました。私は音楽を止めて生徒たちに謝罪し、円陣で座ってもらい、襟を正して一人ひとりに握手をさせてほしいとお願いしました。

 

 ひとりの生徒と握手をすると、私の握力に反応して角度を変えて握り返してきます。注意深く、その反応の通りに私が身体を動かすと、それに対してまた握力がかかり相手の腕が動きだします。掌と掌の中で起こっている状態が身体に表れるような動きで、座っていたその人はやがて立ち上がり、一対一のコンタクトが繰り広げられました。全員に総当たりする中で、私を試すように無理な姿勢や突発的な動きもありましたが、睨んだり、目を背けていた人もだんだんと、この場に集中していく感触がありました。最後のひとりを終えて私も円陣に座り、全員で手を繋いで「せーの」で立ち上がると、大音声の「ありがとうございました!」が響き渡りました。

 

 一人ひとりとのダンスは、恐ろしいほどの緊張感でしたが、それまで経験したことがないくらい猛烈に楽しい「舞台」でした。ダンスは一期一会の「本番」であること、どんなに大人数であっても一対一の深い対話であることが、深く胸に刻まれました。彼らには感謝しかありません。

 

 かつては自分のカンパニーを旗揚げして公演活動することを目標にしていた時期もありましたが、思うように活動できず苦しんだ末に、私らしく面白く踊りたいと編み出したのが自分を「作品」にするという発想でした。はじめは自分にはカンパニーを持てるほどの才能がないと絶望的な気持ちで始まった活動でしたが、不思議なことにソロダンサーとして、社会人として独り立ちし、人々と関わる経験を重ねるうちに、市民参加による大型コミュニティダンス作品や、演劇、ミュージカル、オペラの振付をさせていただけるようになりました。

 

 

●共に生きる仲間との出会い〜湖南ダンスカンパニー

 

 地域の中で、ソロダンサーとして、社会人として立つこと。それを教えてくれて、私を育ててくれているのが、20年以上一緒に踊り続けている「湖南ダンスカンパニー」です。

 

 2004年、滋賀県湖南圏域で入所施設や作業所に通う障がい者や施設のスタッフによって「湖南ダンスワークショップ」が創設されました(2017年カンパニー化)。ダンスを指導するのではなく、対等に踊りあえる仲間を求めていた私にとって、彼らとの初対面は衝撃的でした。彼らはすでに踊っていたからです。一人ひとりが自分の意思で存在して調和する彼らこそ、私が一緒に踊りたいと待望してきたダンサーたちだったのです。練習の先に本番があるのではなく、今ここが「本番」で踊る彼らを、見守り、エスコートする職員さんたちもまた素晴らしいパフォーマーです。

 

 その最初の日から私の役割は「しげやん」です。先生でも支援者でもなく、一緒に踊る人(訳:ダンサー)、彼らが存分に踊れるようどんな場所も舞台に作り変える人(訳:ディレクター)です。ダンスによって動きを「矯正」「強制」するのではなく、その人の振る舞いをすべてダンスとして肯定し、共鳴し、「共生」する、ダイナミックな舞台づくりを信条としています。


 2017年、「ジャパン×ナントプロジェクト」に招聘され、初の海外公演を実施しました。足掛け2年がかりで準備を進める中、そこで初めてダンサーたちが重い障害を抱えていることを知りました。1人のダンサーのお母さんからいただいた「一生の思い出になるだろうけど一生の後悔になるかもしれないのでうちは断念します」との重い言葉が出発点となり、渡航までの日々と現地滞在の8日間を映画のように長いダンス作品として「振付」する、ダンサーたちを芸能人のようにスターとして送り出す、一大プロジェクトを発想しました。

 

 全員にフランス公演の実施を発表。渡航するメンバーもしないメンバーも一人ひとりインタビューし、渡航まで毎日朝の日課を実行してもらうことで、カンパニー全体で渡航する機運を高めました。ほとんどのダンサーが朝の日課を「ラジオ体操」にしたことから、口三味線で好きな動きで参加できる「湖南レディオ体操」が生まれました。これにより時差ボケもなく、集団行動がスムーズになりました。出発直前には、稽古場にテーブルとゲートを仮設し、必需品を詰め込んだ機内持込荷物を各自持参してもらって「搭乗手続き」と「出入国手続き」を振付けました!!出発から帰宅までの「本番」スケジュールを「演出」し、同行する介助スタッフには「どんな不具合があっても映画の中のストーリーだと思って笑って乗り越えてほしい」とお願いしました。

 

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2017ジャパン×ナントプロジェクト ナント・シテ・デ・コングレス公演「うみのトリックスター」舞台写真

 

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2017ジャパン×ナントプロジェクト ナント・シテ・デ・コングレス公演「うみのトリックスター」舞台写真

 

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2017ジャパン×ナントプロジェクト ツアー中の朝の日課「湖南レディオ体操」

 

 現地では、彼らをスターにするために、早朝から深夜までLINE(ライン)を駆使してスタッフ同士で健康をチェックし、写真や動画を活用して滋賀から遠隔で見守る保護者とも連携しました。まるで大人の学園祭のように、全員がこのドラマの登場人物となって嬉々として高揚しながら取り組んだのでした。まさに総合芸術です。その結果、一切の事故も粗相もなく、彼らは文字通りスターとして迎えられ、舞台は大成功を納めることができました。観客総立ちのスタンディングオーべションを、私は生まれて初めて経験しました。

 

 長年、福祉施設と保護者と舞台の専門家の三者は拮抗関係にあり、時には衝突することもありました。しかし、このときに培った壮大なコラボレーションは、私たちの真骨頂となり、そのおかげで、コロナ渦中もすべてをダンスとして笑って乗り越えることができました。


 私が自宅から発信するオンラインワークショップや「湖南レディオ体操」に感化されて、カメラ(正面性)を意識したソロダンスに目覚めるダンサーが続出し、踊る前に椅子に座るとスタッフが跪いて手足をアルコール消毒する「お清めの儀式」が習慣化されました。外出が叶わない入所施設メンバーに出演してもらった映像を上映する映画祭を開催し、緊急事態宣言の狭間には、滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホールで湖南ダンスカンパニーのレパートリー3部作を一挙に上演する初の単独公演が実現しました。

 

 さらに県から受託した「滋賀で人と社会と文化芸術をつなぐプロジェクト“SANPOh“(さんぽう)」では守山市民ホールとの共催により「くらすダンス展」「くらすダンスホール」を開催しました。これまでの活動と衣装美術を展示するとともに、市民参加のワークショップでは全長18メートルのカーペットをライブペイントしたり、うみのはた(湖の旗)を染めて一緒に「湖南ダンス」を踊っていただきました。こうした活動が認められ、「湖南ダンスワークショップ実行委員会」は令和3年度滋賀県文化奨励賞を受賞しました。彼らのおかげで、私自身も湖南ダンスカンパニーのディレクターとして地元の人々に認めてもらえるようになりました。

 

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湖南ダンスカンパニー「うみのはた」2018年初演

 

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湖南ダンスカンパニー「うみのはもん」2019年初演

 

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2020年 音楽と身体で綴る叙情詩「湖」 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

 

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2021年〜2022年 「滋賀で人と社会と文化芸術をつなぐプロジェクト“SANPOh“(さんぽう)」

守山市民ホール×湖南ダンスカンパニー

 

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2021年〜2022年 「滋賀で人と社会と文化芸術をつなぐプロジェクト“SANPOh“(さんぽう)」

守山市民ホール×湖南ダンスカンパニー

 

 

●人生のお祭りがやってくる! 国スポ・障スポの大舞台へ

 

 そしていよいよ今年、「わたSHIGA輝く国スポ・障スポ2025」開会式式典のおもてなし演技の振付担当に指名していただき、湖南ダンスカンパニーも出演させていただくことになりました。

 

 振付師に選ばれたのは私「しげやん」と、滋賀県で長年キッズダンススタジオを主宰する若き指導者である二井谷由花さんの2人体制です。初対面で世代も違い、異なるフィールドで活動してきた私たちですが、根底にあるダンス観と熱量が一致し意気投合。最強のバディとなり、さまざまなジャンルのダンサー、パフォーマー、カウント通りにアカデミックに踊る人たちも自由に踊る人たちも、子どもも大人も障がいのある人もない人も、すべてを受け入れるマザーレイクのような集団演技を、協働して作っています。これまで日本各地で数々のキャラクターを創り踊ってきた経験と、「どんなに大人数でも一対一」の信念を授けていただいたことが、すべて結実するかのようです。

 

 湖南ダンスカンパニーにとっては、初めてのスタジアムでの大舞台。秒単位で展開する中、それでも彼ら一人ひとりを強制、矯正せずに共生できるのか!?不測の事態が起こった時に100メートル先のゲートまで安全に退場できるのか!?そこで今回はダンサーに保護者およびヘルパーが伴走してペアで出演してもらうことにしました。

 

 「私たちは湖南ダンスの応援団で、絶対に踊らない!!」と言ってこられた人たちに、恐る恐る、説明会を開いたところ…、何と全員大喜びで、中には家族みんなで出演してくれる人たちもあり、活動をはじめて20周年を祝う大盛り上がりに。これまで国内外のツアーで積み重ねてきた知恵と工夫で、毎月大型バスでスタジアムへ移動して行う練習会を「晴れ舞台」として踊ってくれています。その姿は湖面のようにきらきらと輝いて涙が出るほど美しいのです。

 

 

●未来へ

 

 黎明期は、自分を認めてもらいたいという範囲でしか物事を考えられなかった自分が、さまざまな人々と出会い、地域の中で鍛えていただいたおかげで、作品の中身もその規模も大きく変化し成長させていただきました。それこそダンスと人の力によって「しげやん」は立たせてもらっているのです。近年は、ダンサー・振付家だけでなく、滋賀県文化審議員、びわ湖芸術文化財団評議員としてお役目をいただくようになりました。私がいつも目指している作品の登場人物になったかのような体験を、1人でも多くの人たちに開くこと、誰もがその人らしく参加できることを、より大きな視点で、次の世代のために考えていきたいと思います。それはやらなくてはならないことだから、ではなく、その方がわくわくするからです。幕が上がるあの瞬間と同じです。

 

 すべてはダンス、おもしろい方向へ。

 

2023年 株式会社ありがとうファーム主催「HAB LAb. AIR」アーティスト・イン・レジデンス 期間社員ダンス部長しげやん ソロダンス公演@UNO HOTEL(岡山県玉野市宇野港).jpg

2023年 株式会社ありがとうファーム主催「HAB LAb. AIR」アーティスト・イン・レジデンス

期間社員ダンス部長しげやん ソロダンス公演@UNO HOTEL(岡山県玉野市宇野港)

北村成美(きたむら しげみ)プロフィール

通称しげやん。6歳よりバレエを始め、1992年、英国ラバンセンターにて振付を学ぶ。「生きる喜びと痛みを謳歌するたくましいダンス」をモットーに国内外でソロダンス作品を上演するほか、日本各地で市民参加による大型コミュニティダンス作品を発表。小・中・高校・特別支援学校・福祉施設はもちろん、ショッピングモール、ご家庭の居間、廃屋、電車、温泉、いつでもどこでもどなたとでも踊ることをライフワークとしている。劇団やダンスカンパニーへの振付、音楽家や美術家との共同製作、CM振付や映像作品など数多く取り組む。2004年より「湖南ダンスワークショップ」ナビゲーター、2017年より「湖南ダンスカンパニー」ディレクターを歴任。平成15年度大阪舞台芸術新人賞、平成22年度滋賀県文化奨励賞を受賞。一般財団法人地域創造公共ホール現代ダンス活性化支援事業登録アーティスト。

 

湖南ダンスカンパニー(湖南ダンスワークショップ実行委員会)

湖南ダンスワークショップとして2004年に創設。滋賀県湖南圏域に在住する障がいのある人とプロのアーティスト、福祉施設のスタッフ等で構成されたパフォーマー集団。にっこり作業所(通所)蛍の里(入所)と、近隣の作業所に通所している総勢35名(障がいのあるダンサーは25名)が在籍。その人の個性や習慣、ついはみ出してしまう行動を、全てダンスとして肯定し演出する。毎月2回のワークショップを「湖南音楽祭」と称して「本番」を積み重ね、小室等氏、坂田明氏、谷川賢作氏など日本を代表する音楽家と協働し、毎年の「糸賀一雄記念賞音楽祭」にて新作を発表。「障害者の文化芸術国際交流事業2017ジャパン×ナントプロジェクト」に招聘され初の海外公演を成功させた。これを機に、総合的な舞台芸術集団を目指して「湖南ダンスカンパニー」の活動を開始。「障害者の文化芸術国際交流事業2018ジャポン×フランスプロジェクト」「岩見沢アール・ブリュット芸術祭2019」などに出演。2020年、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールにて「湖」の3部作を一挙に上演。令和3年度滋賀県文化奨励賞を受賞。一人一人のダンスの可能性と活動の場を広げている。