一般社団法人 地域創造

特別寄稿 ビューポイント viewpoint No.1

北川フラム(アートフロントギャラリー主宰)

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【マーリア・ヴィルッカラ 《ACT》 北アルプス国際芸術祭2017】撮影:本郷毅史 提供:北アルプス国際芸術祭実行委員会

 

 今日は8月27日、第二波とも言われる新型コロナウイルス感染者増大もピークを越したか?という報告を多く目にしました。亡くなった方に花を手向け、この稿を書きます。

 

 近親者、事務所員にはそれなりの要請(とにかくコロナを拾わないでくれ)をし、リモートワークの仕組みを動かす等があり、私はイベント制限が一部緩和された時点(7月10日)まではこの新型コロナウイルスについて真剣に学ぼうとしました。そのうえで現在の感想を述べると、地方の生活者、リモートワークに慣れた人たちの中には今でも外来者に対する拒否感が強いようです。新型コロナウイルスについて言えば、ワクチンや治療薬が一般化するには決定打がなく、インフルエンザのように落ち着いた対処をするまでには至らない、という状況を受け、少しずつ医療インフラの強化に向かわなければならないと思っています。

 

 停滞した政治状況下、オリンピック断行という命題のもとで、医療の専門家と政治の綱引き、その政治の中央と地方行政のさやあて、マスコミの見識のなさなどで、見えない恐怖感が全国化し、移動、集会、会食の制限、自粛の方針はめまぐるしく変わり、挙句の果ての犯人さがしが行われました。オリンピックの延期が決まり、灯火管制のような日常になり、経済活動が一気に低下しました。これが世界化しました。私たちは今そこにいるのです。

 

 ここからは美術に関わる話になります。ギャラリーでの個展、美術館の企画展、さいたま国際芸術祭、ひろしまトリエンナーレなどの芸術祭が中止になっていくなかで、今年3月からの「房総里山芸術祭いちはらアート×ミックス*1」(千葉県市原市)、6月からの「北アルプス国際芸術祭*2」(長野県大町市)、9月からの「奥能登国際芸術祭*3」(石川県珠洲市)は、来年、内容を変えずに実行することにしました。もともと2021年にやる予定の越後妻有の「大地の芸術祭*4」(新潟県十日町市・津南町)はオリンピックの実行・中止にかかわらず、7月末からの開催で準備を進めていました。これで来年、私がディレクターをつとめる芸術祭は4つになるわけです。

*1 房総里山芸術祭いちはらアート×ミックス
2014年にスタート。3年に1度、菜の花の咲く頃に千葉県市原市の里山や閉校した学校、小湊鉄道の駅舎などを舞台に展開する国際芸術祭。2020年春に17の国と地域から約80組が参加して開催予定だったが、2021年3月20日〜5月16日(58日間)に延期。
https://ichihara-artmix.jp/


*2 北アルプス国際芸術祭 2017年にスタート。3年に1度、立山黒部アルペンルートの玄関口である長野県大町市の豊かな自然を舞台に展開する国際芸術祭。2020年夏〜秋に14の国と地域から41組が参加して開催予定だったが、2021年8月21日〜10月10日(51日間)に延期。
https://shinano-omachi.jp/

*3 奥能登国際芸術祭
2017年にスタート。3年に1度、能登半島の先端に位置し、里山・里海の暮らしと伝統文化を伝える珠洲市で展開する国際芸術祭。2020年秋に開催予定だったが、2021年9月4日〜10月24日(51日間)に延期。
https://oku-noto.jp/index.html

*4 大地の芸術祭
2000年にスタート。約762平方キロメートルという広大な新潟県越後妻有地域(現・十日町市、津南町)で3年に1度開催される世界最大規模の国際芸術祭。アートによる地域づくりのパイオニア。現在では、廃校を活用した作品など常設設置作品約200点、ユニークな拠点施設などが通年で楽しめる
https://www.echigo-tsumari.jp/

 

 これらの芸術祭はそれぞれの土地の特色を生かした独自の運営になるのですが、共通しているのはアーティストが土地の人たちを含めて協働し、田畑、海岸、空屋、廃校などを舞台とするもので、県外、外国からの人も含めてサポーターが活動の中心を担うというものです。海外からのアーティストは来られない、旅行の予定も立たないというなかで作業を進めているのが現状です。私の現在の中心は可能な限り行政の人たちと勉強会をやり現地に行く、集落に伺うということです。もちろんオンラインの打ち合わせも多用しています。そこでは動画、模型の必要も増えています。私達の準備が、それをどれほどやっても、アーティスト自身の直感にどこまで迫れるか、心許ありません。それはこのパンデミックのなかであげられた各国、各美術館の画像のほとんどすべてに言えることでした。なにしろ美術は五感による空間体験なのですから。
 

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【レオニート・チシコフ《7つの月を探す旅》房総里山芸術祭 いちはらアートxミックス2020+】提供:いちはらアートxミックス実行委員会

 

 また、昨年から2022年に開催する瀬戸内国際芸術祭を含めて5つの芸術祭それぞれの公募が始まり、今は来夏オープンの越後妻有の審査をしているところです。40カ国から400を超える応募がありましたが、総じて言えばレベルが高い、かつて作品を作ったアーティストの応募が多い、オンライン展開の作品が出てきた等の特色がありました。里山の芸術祭という性格上、自然との感応、エコロジカルなものも多く、環境的な提案が多く寄せられました。設置がリモートにならざるをえないことを考慮したものもありましたが、映像作品が予想外に少なかったのです。これは横浜美術館を主会場にした「横浜トリエンナーレ」とは異なっています。ホワイトキューブでの展示ではないということもあるでしょうが、人々は現実の里山や社会で展示したがっているように思います。

 

 これら芸術祭への動きの他に始めたことに、インスタグラムを使った“Artists’Breath”*5というプロジェクトがあります。6月15日から毎日一作家ずつの参加で始めました。これは外出制限のなかでアーティストがどう生活し、何を考えるかを知りたいと思ったからでした。アトリエで、家でどうしているのか、近所をどう歩いているかなど、日常的なものですが、これがなかなか面白い。皆さん、考える時間があるのは良いことだと思っています。ここに出てくるアーティストの少しずつの違いが美術の根拠だと思えます。

 

 このパンデミックのなかで、かなりの国で、こういう時こそ芸術・文化の役割があり、大切にしなければいけないという意見が出て来ました。アーティスト達(特に演劇やパフォーマンス系)の生活困難な状況への訴えが、この認識を深めていったのは凄いことだと思います。彼らは日常的にはアルバイトをしながら、表現の場を確保しています。そういう人たちが思っているより多く、普通の市民社会の底辺の襞になっていることは心強いことでした。

 

 芸術祭に関しても、やれる範囲で丁寧な準備に入っています。瀬戸内では香川県の高校生が学校の境界を横断し、島の勉強を始めているし、越後妻有でも地域おこし協力隊を中心に地域巡りの計画を立てている。奥能登では100年を超えた家の世代交代を意識してそれぞれの家の蔵や屋根裏を整理し、貴重な文化財を守る「大蔵ざらえ」の活動が進んでいる等々。豊岡の演劇祭が元気に始めようとしているのも嬉しいニュースです。皆やれる範囲で工夫し、苦労しています。そんなに疎にしなくても感染が広がらないのに、これは一律に大げさに動いた政府、自治体の責任が大きいと思います。もっと有効な単位での医療インフラが必要です。感染症に対する基礎的な態勢に力をいれなかったツケだと思いますが、今日、生命、健康、食、グリーンエネルギー、文化、芸術への関心が強くなってきたことを実感として感じています。

 

*5 Artists’Breath
新型コロナウイルス感染症による芸術祭の延期を受けて2020年6月にスタートしたインスタグラムプロジェクト。北川フラムが総合ディレクターを務める5つの芸術祭に関わる国内外のアーティストが参加。この期間にアーティストがどう生活し、何を考えているのかという今の息吹を映像や写真などそれぞれのスタイルで発信。
https://www.instagram.com/artistsbreathpress/

 

北川フラム (アートフロントギャラリー主宰)

1946年新潟県生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。1982年に株式会社アートフロントギャラリー設立。2008年6月から一般財団法人地域創造顧問。主なプロデュースとして、ガウディブームの下地をつくった「アントニオ・ガウディ展」(1978-79)、全国80校で開催された「子どものための版画展」(1980-82)、全国194ヶ所でアパルトヘイトに反対する動きを草の根的に展開し、38万人が訪れた「アパルトヘイト否!国際美術展」(1988-90)、米軍基地跡地を文化の街に変えた「ファーレ立川アートプロジェクト」(1994)など。また、アートによる地域づくりの実践として「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000~)、「瀬戸内国際芸術祭」(2010~)、「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」(2014、2020)、「北アルプス国際芸術祭」(2017、2020)、「奥能登国際芸術祭」(2017、2020)で総合ディレクターをつとめる。主な受賞に2003年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、ポーランド文化勲章、2012年オーストラリア名誉勲章・オフィサー、2017年度朝日賞、2018年度文化功労者。2019年イーハトーブ賞など。