2024年に開館20周年を迎えた金沢21世紀美術館。総入場者数が年間約189万7千人(2024年度)という金沢を代表する観光スポットでもある同美術館の新館長となったのが十和田市現代美術館・前館長の鷲田めるろ氏だ。地域型芸術祭にも携わってきた鷲田館長に公立美術館をとりまく環境の変化などについて寄稿していただいた。
※金沢21世紀美術館は大規模改修のため2027年5月から2028年3月頃まで長期休館の予定。
鷲田めるろ
撮影:小山田 邦哉
鷲田めるろ(金沢21世紀美術館館長、キュレーター)
●地方の公立美術館と芸術祭の四半世紀
私は、1999年から2018年まで金沢21世紀美術館でキュレーターとして、そして2020年から25年までは十和田市現代美術館の館長として仕事をしてきました。2025年4月からは館長として金沢21 世紀美術館に戻りました。ほとんどの期間を地方の公立美術館で働いてきたことになります。

金沢21世紀美術館外観
撮影:渡邉修 提供:金沢21世紀美術館

金沢21世紀美術館外観
撮影:石川幸史 提供:金沢21世紀美術館
この四半世紀、地方の公立美術館を取り巻く環境は大変厳しいものでした。まず、設置主体である地方自治体の人口減少と税収減があります。地方の中核都市である金沢市の人口は概ね45万人程度でそれほど減ってはいないのですが、十和田市は私が着任した2020年に6万人強だったのが、退任した2025年には5万7000人弱で、わずか5年の間に5パーセントも減少しています。税収だけで十全な運営を続けていくことは、今後ますます厳しくなっていくと言わざるを得ません。
そこで、この2つの美術館(金沢21世紀美術館・十和田市現代美術館)がとった対応策は、主に2つあります。一つは民営化で、もう一つは文化芸術以外の役割を担うということです。
まず、民営化に関しては、両方の美術館が指定管理者制度を採用しています。2つの美術館を比較すると、金沢よりも十和田の方が民営化の度合いが高いと言えます。金沢21世紀美術館の指定管理者となっているのは、金沢市が100パーセント出資している公益財団法人金沢芸術創造財団です。そのため、ほぼ市役所に準じた制度となっています。例えば、総務課のスタッフの多くは市役所からの出向であり、スタッフの給与体系もほぼ市役所に準じています。私が館長に着任する際も、そのオファーは市役所からありました。
一方、十和田は、株式会社であるナンジョウアンドアソシエイツグループが指定管理者となっていました。そのため、総務的な役割を担う運営スタッフも指定管理者による雇用でした。給与も市役所とは別の体系になっています。私が館長になる時のオファーも指定管理者からありました。十和田の場合は入館料収入を上げれば給与や事業費に反映できたため、それがインセンティブとして働きましたが、一方で、指定管理料の算出が、運営に必要な経費から、収入見込みを差し引くという考え方だったため、厳しい状況ではありました。
文化芸術以外の役割を担うことに関しては、まず、金沢の場合は、「まちづくり」の役割を担っています。金沢21世紀美術館のミッションは、「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」です。後者は中心市街地の人口が減少し、街が郊外化していることへの対策として設定されました。つまり、文化芸術に貢献するだけでは美術館として不十分で、まちづくりにも役立つからこそ、税金を投入するという考え方に基づいています。
一方、十和田もまちづくりとともに、観光に貢献することが求められています。もともと十和田市には、奥入瀬渓流と十和田湖という自然の美しい場所があり、多くの観光客が訪れるのですが、市街地には観光施設がありませんでした。そこで、市街地にも足を向けてもらうために美術館が設立されました。
なお、金沢も十和田も、教育委員会の管轄ではなく、金沢は文化政策課、十和田は観光課の管轄となっています。両者は、2004年と2008年の開館当時、博物館法の規定する「博物館」に該当しませんでした。それは主に教育委員会の管轄ではないという理由からでした。しかし、2022年、博物館法が改正され、教育委員会の管轄ではなくとも博物館として認められるようになりました。博物館法が美術館の実態に追いついてきたとも言えるでしょう。

浅井裕介《大地の譜面 足音の音楽/今ここで土になる》2025
撮影:池田ひらく 提供:金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館で開催された「積層する時間:この世界を描くこと」展(2025年4月29日〜9月28日)で公開された本展のコミッションワーク。約100人のボランティアとともに能登を中心に石川県の土を用いた土絵の具で制作した高さ4メートル×幅27メートルの巨大作品。

フィラデルフィア出身アーティストのスティーブン・ESPO・パワーズが発災後の珠洲市の民家に描いた壁画(2025年9月)
提供:金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館で開催中の「SIDE CORE Living road, Living space /生きている道、生きるための場所」(2025年10月18日〜2026年3月15日)では能登に行くきっかけとしてバスで現地を巡る参加型のビジティングプログラム「ROAD TO NOTO」が行われ、この壁画も目的地となった。
地方の公立美術館で働きながら、地方の芸術祭にも関わってきました。2019年のあいちトリエンナーレのキュレーターや、同年の瀬戸内国際芸術祭のアーティスト選定アドバイザリーボード委員、2025年の青森5館アートフェスの企画、そして現在は奥能登国際芸術祭の実行委員などです。これらは、経営的に厳しい時代の、美術館の代替として機能している面があります。つまり、美術館のような恒久的な施設やコレクションとは異なり、状況に応じて終了することができ、また、まちづくりなどとも関係して地域の活性化に繋がりやすい企画であるということです。
2000年頃から始まった地方芸術祭は、当初は美術館という制度に対する批判としての新鮮さもありました。しかし、その後、多くの地方芸術祭が乱立するなかで、その批評性を失ってきているようにも感じます。経済振興の側面だけが残ってしまうと、アーティストやキュレーター、観客の関心が離れてしまうという課題があります。
金沢21世紀美術館も開館して20年以上が経ちました。2000年から始めた作品の収集が充実し、街中にも美術関連施設が増えてきている一方で、同時代美術館としての難しさも感じています。例えば、「レアンドロのプール」のような常設展示は現在も人気が高いですが、開館当時は、若手の新しい作品だったものも、徐々に同時代から離れていってしまいます。そのように同時代美術館が抱えている構造的な課題に対し、企画展で意識的に同時代美術を扱うようにする必要があると考えています。
2024年に起きた能登半島地震に関しては、さまざまなかたちで支援に取り組んできました。2026年は奥能登国際芸術祭の開催が予定されていた年でしたが、開催が見送られ、これまでの芸術祭で制作された作品を修復し、公開する「奥能登国際芸術祭(being)」というかたちで行われることになりました。これに合わせ、金沢21世紀美術館でも連携する展覧会を開催したいと考えています。
鷲田めるろ(わしだ めるろ)プロフィール
1973年生まれ。東京大学大学院修士修了。準備期間から金沢21世紀美術館に関わり(2004年の開館から2018年まで同美術館キュレーター)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター(2017)、あいちトリエンナーレ2019キュレーターを経て、2020年4月から十和田市現代美術館館長、2025年4月から金沢21世紀美術館館長。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻准教授。
