一般社団法人 地域創造

芸術見本市報告

「アウトリーチ」と海外もののショーケースが話題に

  「第5回芸術見本市」が8月3日、4日の2日間にわたり東京国際フォーラムで開催されました。今回の見本市では拡充されたショーケース部門に加え、関連団体が催したシンポジウムが大変好評でした。短い時間で多彩な舞台芸術が一覧でき、関係者との交流もできる立体的な研修の場としての期待が高まっているのではないでしょうか。また、今年は、吉本興業や宝塚なども出展したエンタテイメント色のあるブース部門が特徴の「パフォーミングアーツ・メッセ 2000 in 大阪」(8月1日、2日)やダンスのショーケースとワークショップを集めた「ワールドダンス2000東京」(7月31日~8月6日)が同時期に催されるなど、期せずして見本市ウィークとも呼べる状況が出現。関係者にとってはとても賑やかな1週間になりました。皆様、本当にお疲れさまでした。また、見本市にご参加・ご協力をいただきました方々、本当にどうもありがとうございました。

 

 

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見本市ブース風景

●大阪・東京連続シンポジウム「アウトリーチ」

 地域創造と全国公立文化施設協会の共催で大阪のメッセ、東京の見本市と連続開催されたのが「アウトリーチ」をテーマにしたシンポジウムです。東京では、まず、吉本光宏さん(ニッセイ基礎研究所)が「劇場よ街に出よう!~市民との新しい回路づくりを目指して」と題して基調講演を行いました。カーネギーホールやマンハッタン・シアタークラブなどアメリカにおけるアウトリーチ活動の事例報告の後、日本でも芸術創造公演活動とアウトリーチ活動がリンクをした新しい「21世紀型公共ホール」(公共ホールと芸術創造活動の企画者がタイアップして地域にきめ細やかなサービスを提供し、地域に貢献するホール)が求められる時代になったと提言。そのためには現場の担当者が芸術の力を実感として信じることができるかどうかだと、静かな中にも熱い檄を飛ばしていました。

 

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シンポジウム

 東京では話だけでなく、アウトリーチの手法のひとつとして注目されているワークショップを体験してもらおうと、体系化されたワークショップの実践者として知られている坪能克裕さん(音楽)と山元清多さん(演劇)による公開パフォーマンスが行われました。各コース、見学者も含め、約30名が参加し、2時間30分でそれぞれ打楽器と身体を使ったオリジナル表現づくりに挑戦。参加者は「初めて出会った人同士だったのに、みんなで何とかしようとやっている内に、最後は離れがたくなって…」「音符拒絶症が直りました!」とワークショップの即効性とコミュニケーション効果を堪能したようでした。

 

  また、地域創造の自主事業として今年も10月27日から開催される第2回「リージョナルシアター・シリーズ」の事前アピールとして、参加6劇団の代表による顔見せシンポジウムも行われました(コラム参照)。地域劇団の雄、弘前劇場の長谷川孝治さんの司会で地域劇団の素顔が明らかにされるのを、会場の関係者が熱心に聞いている姿が印象的でした。  

 

● ショーケースでブラボー!

 今回の見本市では、1団体20分、2日間で計28団体がショーケース(13団体)と映像プレゼンテーション(15団体)で自分たちの活動をアピールしました。今年はシルク・バロック(フランス)、スリーカラーズ(香港)、ノア・ダール・ダンスグループ(イスラエル)など、海外からもショーケースへの参加があり、彩りを添えていました。なかでもノア・ダール・ダンスグループが披露した『アキレス・テンドン(アキレス腱のこと)』は人間の肉体によるコミュニケーションを体感させてくれる、まさに血が騒ぐ舞台で、ショーケースにもかかわらず、満席の会場からは「ブラボー!」のかけ声が飛んでいました。

 

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ノア・ダール・ダンスグループによるショーケース
「アキレス・テンドン」

  今回、初めてブース出展を行い、ショーケースに参加したイスラエル大使館文化部の内田由紀さんは「イスラエルの現代芸術は日本での知名度が全くと言っていいほどありません。今、その突破口になると思っているのが、映画とコンテンポラリーダンスです。映画では、社会派のアモス・ギタイ監督(仏在住)が東京国際映画祭や山形ドキュメンタリー映画祭に招待されるなど注目を集めていますし、ダンスでは97年に日本文化財団がバットシェバ・ダンスカンパニーを招聘しました。イスラエル大使館文化部の企画としても、93年にスタートした映画祭(2年に1度)に加え、98年からはダンスシリーズを立ち上げ、コンテンポラリーダンスの紹介に力を入れています。今回のノア・ダール・ダンスグループも2001年に再来日させる予定です。ぜひ、興味のある方はご連絡ください」。

 

 民族舞踊としての伝統に加え、バットシェバ・ダンスカンパニーによってイスラエルにダンスブームが起こったこと、10年前にテルアビブ市立スザンヌ・デラール・ダンスセンターが設立され若手の育成を始めたこと、政府がダンス教育に力を入れていることなどが相まって、現在の活況があるとのこと。居ながらにして、こうした世界の最前線が垣間見られるのも、見本市の醍醐味なのではないでしょうか。

 

●リージョナルシアター・シリーズ・シンポジウム「2000地域演劇事情」より

◎ 斎藤歩(A.G.S 札幌)
 札幌には50~60のアマチュア劇団があります。僕らのグループはアマチュア劇団に所属していたメンバーが演劇による経済的な自立を目指して93年から活動を始めました。つくった作品を道内のホールに買ってもらって、巡演していますが、経済的自立と言っても、アルバイトで生活しているのが現状です。今、札幌は道立劇場の建設問題や北海道文化財団が行っている舞台塾、北海道演劇財団の設立など、演劇環境が激動していて、養成所も持っている僕らとしては、逆に競争が激しくなっているという感じです。

 

◎ 坂田裕一(劇団赤い風 盛岡)
 東京の小劇場演劇を盛岡で初めてやったのが僕らの劇団で、当時は「Uターン劇団」と呼ばれていました。構成員は公務員と団体職員がほとんどで、約20名弱。盛岡には有名な釜石ラグビー部があり、仕事を終えて5時から練習しているのに優勝できるんだから、僕らもやれるはずだと、生活の中でイメージトレーニングをする、生活の中で持っている力を演劇に取り込むというやり方で活動してきました。それと盛岡には演劇振興を目的とした盛岡劇場があり、そこで企画されている「8時の芝居小屋」でプロデュース公演を行っています。

 

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◎ 鈴江俊郎(劇団八時半 京都)
 20坪20万円の稽古場を借りていたのですが、フリーターの集まりなので経済的に厳しくて辞めました。それからは24時間使える(笑)京大の教室を使ったりしていたのですが、4年前に演劇人が集まって京都舞台芸術協会を設立し、運動して、市内の廃小学校のひとつを稽古場として開放してもらいました(現・京都芸術センター)。京都は古典芸能が盛んなので文化予算はありますが、現代演劇にはなかなか回ってこない。これをきっかけに行政との関係を強化していければと思っています。

 

●芸術見本市に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 内田・細野
Tel. 03-5573-4066 Fax. 03-5573-4060

 

●第5回「芸術見本市」概要
[会期]2000年8月3日、4日
[会場]東京国際フォーラム
[主催]第5回芸術見本市実行委員会(財団法人地域創造、国際交流基金、国際舞台芸術交流センターの3者で構成)
[出展登録団体数]77団体
[ビジター参加者数]2日間延べ1000人
[芸術見本市総参加者数]2日間延べ1400人

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