一般社団法人 地域創造

福井県金津町 金津創作の森 アートドキュメント2000

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 「蓮如上人と越前柿のふるさと」として知られる福井県金津町に、滞在・体験型の文化施設〈金津創作の森〉が開館したのが1998年の春。翌年、森全体の核となる展示や交流のための施設(アートコア)が整備され、本格オープンして、この夏で1年が経った。20ヘクタールにも及ぶ森の敷地内には、ガラス工房、陶芸や染色の講座が開催される創作工房、それから、専属の創作家(釜師や竹細工師など8名)が生活を営みながら創作活動を展開する全国でも珍しいアトリエが点在している。四季折々の自然を楽しみながら、訪れる人々が「何かをつくる」という活動を通じてさまざまな交流を育んでもらおうとする、この施設は、町から請われて館長に就任した美術評論家・針生一郎氏の“森こそ人類の神話、物語、芸術、文化創造の根源だった”という、かねてからの信念を基本理念に位置付けている。この「森」というテーマのもとに、公開制作やワークショップ、コンサートなども織り交ぜながら年に1回、立体的に企画される美術展が〈アート・ドキュメント〉である。

 

 2回目を迎えるアート・ドキュメント2000「樹霊三人展─構造・振動・記憶─」は、確かな経験と実力をもち、まさに現代彫刻を代表する作家である、戸谷成雄氏・遠藤利克氏・土屋公雄氏による競演展となった。木立の中にひとすじ、まるで地下から天への掛け橋のように立ち上る、刻まれた樹の柱(戸谷成雄『雷神』)。天井から、叩きつけられるように落下し、展示室の床面を浸していく水(遠藤利克『Trieb─振動Ⅳ』)。池の水面に、蒸気に包まれてぽっかりと浮かぶ廃材の家(土屋公雄『記憶のかたち』)。現地制作の新作9点を中心に全13点で構成されたこの展覧会は、あらためて三者三様の拮抗する力量に圧倒される内容を呈し、さらに森の風景につつまれながらの、心地よい鑑賞体験を供してくれる場ともなった。

 

ところで、こうしたいわば硬派な現代美術作品が、いかにして北陸の人口1万 8000人余りの小さな町で受け入れられていくのか、大いに気になるところである。実際、展覧会の記念シンポジウムでは、定員を超え100名近くの参加者が集ったのだが、その多くは県外の美術関係者や町外の愛好者であった。この展覧会の充実が、全国レベルで認知されていく一方で、地元金津町民の理解や関心との隔たりがあるとしたら、それらはいったい今後何で埋めることができ、あるいは相乗的な効果を発揮していくことができるのだろうか?

 

 こうした課題に対して創作の森では、作家が〈滞在〉し〈公開制作〉を行うことを、開館当初からの重要な位置付けとし、積極的な市民参加の気運を高めようと取り組んでいる。例えば今回現地制作された9点は、7月の初めから16日間をかけてボランティア約30名の参加によって、まさに汗と対話の結晶として完成されたものである。また、公開期間中は連日、地元の小学生の賑やかな見学があったという。これらの試みは、もちろん即効力のあるものではないが、作家と作品の存在性によって、確かな物語の種を蒔いていくに違いない。公開制作は今回が初めてという戸谷氏は、「制作という行為の本質は、どこか“秘密めいたもの”であり、それを公開することが作家個人にとって必ずしも良いことかどうかは分からない」としながらも、作家の役割、あるいは義務として今回の試みの意義を受け入れたと語った。

 

 「何かをつくる」ということの本質と機能を見極めながら、そのための場面をどのように用意し、市民と何をどう共有していくのかは、創作の森に限らず、今後ますます重要な課題である。

(名古屋芸術大学教員 高橋綾子)

 

●「樹霊三人展―構造・振動・記憶―」 [作家] 戸谷成雄、遠藤利克、土屋公雄
[日程]公開制作:7月1日~7月16日/展覧会:7月1日~9月24日
[会場]金津創作の森アートコアおよび野外
[関連イベント]7月30日:シンポジウム「森と彫刻」(作家3名と針生館長による公開討論会)/8月26日:土屋公雄によるワークショップ

 

●金津創作の森
[施設概要]アートコア(ミュージアム、ギャラリー、ショップ、レストラン)、ガラス工房、創作工房、アトリエゾーン(8名の専属作家たちのアトリエ)
[所在地]〒919-0806 福井県坂井郡金津町宮57-2-19
Tel. 0776-73-7800 Fax. 0776-73-7805 
E-mail:sosaku-k@mitene.or.jp

 

地域創造レター 今月のレポート
2000年9月号--No.65

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