一般社団法人 地域創造

平成12年度 「地域文化施設における芸術普及活動に関する調査研究」中間報告

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研究会の様子
 

財団法人地域創造では、全国の公立文化施設の活動状況を把握するとともに、今後の運営の指針となるような調査研究事業を実施しています。本年度は地域に貢献する公立文化施設のあり方を探る一環として、学校との連携を含めた芸術普及活動「アウトリーチ」をテーマに取り上げ、6月から専門家研究会での検討をスタート。8月には芸術普及活動に熱心な劇場・ホール118館、美術館74館の計192館(有効回答劇場・ホール67館、美術館40館の計107館)に対してアンケート調査を実施しました。ご協力をいただきました館の皆さま、本当にありがとうございました。今号ではアンケート結果 の一部と専門委員の方のコメントをご紹介したいと思います。

 

●主なアンケート結果

 今回の調査の特徴は、「日頃交流のない美術館と劇場・ホールが相互に運営のノウハウを学び合う場にしたい」との趣旨で、美術館と劇場・ホールの両方を調査対象にしている点です。 芸術普及活動(図1)は劇場・ホールより美術館の方が実施している割合が高く、内容にも差が見られました(劇場・ホールのトップが「子ども、青少年、親子向け鑑賞事業」であるのに対し、美術館では「体験・創作型ワークショップ事業」「教養型セミナー・講座事業」「解説付き鑑賞事業」が80%台で並んでいる)。 芸術普及活動を行う上での課題(図2)では、全体的に人材やノウハウの不足が指摘されているのに加え、美術館では場所の確保が課題となっているのが特徴的でした。また、心配されていたアーティストや芸術団体との関係については、劇場・ホール、美術館ともに課題として上げているところはほとんどなく、こうした事業に対するアーティスト側の理解が進んでいることをうかがわせました。 芸術普及活動の成果(図3)としては、全体で約6割の館が芸術に対する市民の理解を得るのに役立っていると答えています。また、地域、市民、アーティストとの繋がりが生まれたことにも高い評価が与えられていました。 現在、アンケート結果の集計が終わり、分析作業に取り掛かっているところです。来年3月末には、ヒアリング調査や研究会での検討結果 と併せて、「地域文化施設における芸術普及活動に関する調査研究」報告書としてまとめる予定です。最終報告書にご期待ください。

 

図1 実施している芸術普及活動のタイプ

 

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図2 芸術普及活動を実施するうえで直面している問題点や課題

 

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図3 芸術普及活動によって得られた成果

 

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●研究会委員コメント

 今回の研究会では、専門家として劇場・ホール運営と美術館運営のエキスパートが顔を揃え、美術、音楽、演劇などジャンルの違いや状況の違いを超えて、白熱した議論を展開しています。10月3日、アンケート結果 の研究会に集合された委員の方に「アウトリーチ」についてのコメントをいただきました。

 

◎熊倉純子
 公立文化施設の取り組みの歴史的な経緯や全体状況について、美術館と劇場・ホールの違いを含めてかなり実体的に勉強させていただきました。企業の文化施設と公立の文化施設を比べると、地域との関係では、潜在顧客の開拓や地域へのサービスという点で後者のほうがかなり意識が先行しているなというのが実感です。今、企業の文化施設は閉鎖が相次ぎ、苦しい状況ですが、これから開場する新しい施設には地域開発には文化的な要素が不可欠であるという問題意識でつくられるところもでてきました。これまでの公立文化施設の試行錯誤がこうした施設に生かされる時代がきているのではないでしょうか。

 

◎坪能克裕
 公立文化施設は優れた鑑賞のスペースであるとともに、アウトリーチのような活動を通 じて市民の創造活動の場としてみんなが参加できる場でもあるべきだと思います。これは車の両輪であり、どちらかが欠けても文化施設の運営はできません。しかし、これまでは後者の取り組みが大変遅れていたように思います。この両輪がしっかりしていくためにこの研究会が役立つことを心から願っています。

 

◎中山三善
 高橋尚子さんを見ていて、アウトリーチはオリンピックみたいだなと思いました。浜田市世界こども美術館にも高橋さんのような学芸員がいて、辺鄙な浜田に世界5カ国から子どもたちを集めて、何カ国語も飛び交う大合宿ワークショップをやりました。できないかもしれないと思うようなことが担当者の熱意で実現して、終わったら「まあこんなもんかな」って。そうしてまた、エネルギーを補給して、新しいことを始める・・・。アウトリーチは制度的・組織的なものというより、こういう個人的なものではないかというのが僕の実感です。こうした取り組みが徐々に広がるにはどうするか、それが課題だと思います。

 

◎山本育夫
 僕は美術館の独立法人化問題に関心があり、今回の研究会に参加しました。アンケート調査によって、こうした問題に対する各館の意識や、総合的学習の時間が設けられたことに伴う学校と美術館との連携などがどうなっているのかを知りたかった。実際、アンケートの結果 を見ると、これまで美術館の教育担当者の教育理念が美術館の理念とされ、スター的教育担当者がこの領域を引っ張ってきたことに対し、これからは美術館として対処していかなければならない、といった旨の回答があり、アウトリーチがリアルになってきているのがわかり、とても面 白かったです。

 

◎松井憲太郎
世田谷パブリックシアターをオープンした当初は、劇場の中での取り組みを第一目標にしてきましたが、実際に動き始めるとそこにとどまってばかりはいられない、というのが自分の問題としてありました。劇場は社会の仕組みと不可分であり、いろいろな仕組みの中でいろいろな人と出会う必要があります。アウトリーチもそのひとつではないでしょうか。アンケート結果 では、アーティストと劇場の関係についての質問項目で、双方が繋がりをもつ必要を感じているのがわかり、とても勇気づけられました。

 

●調査研究に関する問い合わせ
   地域創造芸術環境部 内田・細野
    Tel. 03-5573-4066
    Fax. 03-5573-4060

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