一般社団法人 地域創造

地域伝統まつり報告

●地域伝統芸術等保存事業による初の全国イベントの開催

 

 地域創造では、平成11年度から地域伝統芸術等保存事業に取り組んでいます。そして今年度、初めて同事業の一環として全国イベント「地域伝統芸能まつり」を、地域伝統芸能まつり実行委員会(会長 梅原猛)との共催、総務省、文化庁、NHKの後援により開催しました。

 全国各地の祭りや神楽などの地域伝統芸能と、人間国宝の方々などによる能・狂言や文楽など当代一流の古典芸能が一堂に会する画期的な内容となりました。 このイベントを通じ、地域の伝統文化等への認識を新たにしていただくとともに、地域に生きる人々の地域活性化にかける意識を一層高め、全国的な地域おこしの機運を盛り上げていきたいと考えています。
今回の催しを邦楽ジャーナリストの奈良部和美さんに見ていただきました。

 

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オープニングの舞台風景

 

●地域伝統芸術等保存事業 地域の伝統芸術等

(祭り、伝説、神話、伝統芸能、伝統技能、習俗等)を映像により記録・保存・収蔵するとともに、地域伝統芸術等の発表の場等としてのイベントを開催することにより、地域住民の新しいふるさとづくりへの取り組みや、地方公共団体の文化環境づくりの向上に寄与することを目的とした事業。

 

●「地域伝統芸能まつり」 概要

[日程]2月24日、25日
[会場]NHKホール
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会
[出演芸能等]

24日:鬼剣舞(岩手県北上市)、高千穂の夜神楽(宮崎県高千穂町)、「ムツゴロウ」(新作狂言)、「恋重荷」(能)、「蘇莫者」(舞楽)、なまはげ(秋田県男鹿市)、新居浜太鼓祭り(愛媛県新居浜市)
25日:神田祭(東京都)、「平家物語~耳なし芳一」(琵琶)、西馬音内盆踊り(秋田県羽後町)、花祭り(愛知県東栄町)、「菅原伝授手習鑑・天拝山の段」(文楽)、「無明の井」(能)、「蛸」(狂言)、エイサー(沖縄県沖縄市)

東京・渋谷のNHKホールは3階まで、人で埋まった。周囲のおしゃべりに耳を傾けると、会場前から長時間並んだ人が多いらしい。
 1万人を超えた応募者から選ばれた人々の期待が伝わってきた。

 2月24日午後3時4分、和太鼓奏者・林英哲の大太鼓で、初めての「地域伝統芸能まつり」は開幕した。太鼓奏者の後、ライトは6人の若者に注がれる。

 津軽三味線やキーボードで構成する和洋混交のロックバンド「六三四」の演奏に乗り、左右の袖から人々が現れ、舞台に溢れた。 法被姿もいれば神宮姿もいる。鬼剣舞の装束もあれば、紋付き袴もある。この光景が、まつりの趣旨、民俗芸能と古典芸能を一堂に集めて紹介するという目的を端的に表していた。

 

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エイサー(沖縄)

 哲学者・梅原猛氏を会長とする地域伝統芸能まつり実行委員会が選んだテーマは「怨霊」である。

24、25の2日間で見せた演目は17。 地域の伝統芸能は映像で紹介した福井県の手杵祭りを含めて9演目、古典芸能は能、狂言、文楽に、接する機会の少ない舞楽と平家琵琶を加えた7演目。狂言師の茂山千作をはじめ4人の人間国宝が出演する豪勢な内容である。

 NHKの葛西聖司アナウンサーと女優の藤村志保の司会で舞台は進んだ。 祭りの雰囲気を伝える演出が随所に施されており例えば高千穂の夜神楽では、舞台に神楽宿になった農家が再現されていた。

 楽は農家の奥に設けられた神棚を前に舞われ、外では地元で行われるように男たちが輪になって神楽せり唄を歌っている。

 

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なまはげ(秋田)

 見にくいという批判を覚悟の上で、可能な限り現場を再現しようとする努力の跡が見て取れる。演目ごとに芸能を生んだ地域を映像で見せたり、継承者が解説を加えたり、芸能の背景を知らせる工夫もあった。
 終演後のアンケートに寄せられた声は概ね好意的だった。数々の地方の芸能を居ながらに見られた感激を綴った文章が多い。見たくても、情報も機会もうまく得られなかった人々には、古典芸能との出合いは新鮮な感激を残したようだ。 殊に、諫早湾干拓事業を題材にした新作狂言『ムツゴロウ』の評価は年齢を超えて高い。

 国立能楽堂の委託で、梅原猛の脚本、茂山千之丞の演出で昨年上演された新作の再演だが、古典が現代に生きるものであると認識した客は多かったようだ。演奏者上原まりが手を加えた平家琵琶『耳なし芳一』、新作能『無名の井』と、両日とも新作を盛り込み、古典芸能の可能性を見せたことは成果だろう。 むろん手厳しい意見もある。
 「夜神楽のセット内に数カ所キラキラ光る物があり、よくよく見たら照明用と音響用のコネクター。あれはどうにかならないでしょうか」「クレーンカメラが邪魔でよく見えなかった」などなど。放送が前提だったために観客にとって不都合なところが目立ったようだ。 3677人収容の大ホールで、古典芸能を見せるのは至難の業だろう。
 3階からでは文楽人形や能の面の表情を捕えるのは難しい。入門編としてはいいが、この祭りを芸の奥行きを見せる別の場にどう繋げていくかが課題だろう。24日は3時間余り休憩がなく、番組の組み方にも工夫が欲しかった。 苦言が多いのは、期待の表れでもある。熱心に書き込まれたアンケートには、山形、宮城、静岡、京都など関東圏外からの観客も見られ、「毎年開催を」「他の都市でも」「地方でも」という要望が多かった。
 梅原氏は舞台で、「来年のテーマは“愛と性”です」と語っていたが、第1回の経験と観客の注文が、来年はどう生かされるか、期待は大きい。

 

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『ムツゴロウ』

●平成13年度地域伝統芸術等保存事業 助成内定事業一覧

 

【映像記録保存事業】市(区)町村が実施する、各地域の失われつつあり、かつ、記録の少ない伝統芸術等を映像に記録・保存する事業。

◎青森県浪岡町「吉田獅子踊」、福島県長沼町「八雲神社神輿渡御ほか」、福島県檜枝岐村「檜枝岐歌舞伎」、茨城県玉造町「西蓮寺 常行三昧会」、栃木県鹿沼市「栃窪の天然仏」、埼玉県羽生市「羽生市の獅子舞」、埼玉県鳩山町「毛呂神社屋台囃子」、埼玉県小鹿野町「伊豆沢の天気占い」、東京都杉並区「杉並の郷土芸能」、東京都新島村「若郷の大踊」、新潟県青海町「田海大神楽」、福井県小浜市「放生祭」、山梨県中富町「西嶋神楽」、長野県高遠町「高遠囃子」、長野県戸隠村「宣澄踊り」、京都府福知山市「御勝八幡宮大祭」、岡山県備中町「渡り拍子」、岡山県川上村「がま細工」、岡山県東粟倉村「後山獅子舞」、愛媛県別子山村「別子山村民謡踊り」、高知県高知市「朝倉神社秋季祭礼」、福岡県糸田町「田植祭・早乙女踊り」、佐賀県武雄市「大日の皮浮立ほか」、佐賀県上峰町「米多浮立」、熊本県宮原町「早尾のスッキョン」、熊本県水上村「川内太鼓踊りほか」、宮崎県山田町「山内一バラ踊ほか」、宮崎県西郷村「西郷村の神楽」、宮崎県北郷村「小原ねり踊ほか」

【都道府県イベント事業】住民の地域伝統芸術等に対する意識啓発のため、地域の伝統芸術等の紹介・発表、関連シンポジウムなどを都道府県レベルで開催する事業。

◎北海道、山形県、埼玉県、神奈川県、愛知県、滋賀県、奈良県、徳島県

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