一般社団法人 地域創造

京都市 「京都芸術センター伝統芸術創造プログラム 『トラディショナル・シアター・トレーニング2002』」

  8月2日、暑い盛りの京都・中京区の大江能楽堂で、能、日本舞踊、狂言といった日本の伝統芸能の発表会が行われた。演者は、アメリカ、イギリス、韓国、インドネシア、日本などから集った24人。それぞれ短い演目ながら、実に堂々と演じ、可憐に舞った。

  彼らは、トラディショナル・シアター・トレーニング(T.T.T.)の受講生たち。T.T.T.とは、日本と西洋の演劇を研究しているアメリカ人のジョナ・サルズ氏が、狂言師の茂山あきら氏の協力を得て、1984年から始めたワークショップ。当初は、日本の伝統芸能に興味のある外国人を対象に、短期間で本格的な指導が受けられる体験講座だったが、次第に日本人も受け入れるようになり、2000年から京都芸術センターと共催事業に。今年からはセンターが主催になって、より広がりのある活動を始めている。
 海外からの受講生は、俳優やダンサー、大学などの演劇や舞踏、日本文化の研究者など。日本からは、京都芸術センターが主催する現代演劇俳優セミナーの受講生(主に関西の小劇団に所属する俳優たち)がメイン。練習場では、日本語、英語、スペイン語、韓国語などが混じり合い、さらに身振り手振りでコミュニケーションをとっていたそう。
 T.T.T.は、わずか3週間の講座だが内容は濃密だ。最初は、文楽や歌舞伎の鑑賞会、裏千家の茶会に参加。その後、喜多流能(指導=高林呻二)、西川流日本舞踊(指導=西川千麗)、大蔵流狂言(指導=茂山あきら、丸石やすし)のコースに分かれ、ほぼ毎日、3~4時間の稽古をする。稽古風景をのぞいてみたが、先生から稽古を受けている人はもちろん、待機している人たちも食い入るように稽古の様子を見ている。
 「受講生たちの集中力が非常に高い。特に海外からの方は、目的意識がはっきりしているので短い期間に多くのことを吸収していきます」と先生方は口を揃えて言う。夜遅くまで自主練習を重ねる人も多い。
 発表会が終わった受講生に話を聞いてみた。「韓国でも日本でも、思想や感情を肉体を通して表現するのは同じ。でも、韓国舞踊は外へ解放していくが、日本舞踊は踊り手の内側へ圧縮していく。よい先生に出会えた。これからも続けていきたい」(張美花/韓国)。「12年前にT.T.T.で日本舞踊を受講したが、今回はぜひ狂言を学びたくて参加した。狂言は、音楽と踊り、セリフが一体になっていて非常に興味深い。発音が難しいけどね」(ホリー・A・ブラムナー/アメリカ)。「劇団では演出家に自分なりの解釈をぶつけていくが、能ではまず先生の真似をする。ここで学んだ“舞台に立つ”という精神的な集中力を普段の活動に生かしていきたい」(花房牧子/日本)など、それぞれ大きな成果を得た自信が伝わってきた。
 さらに、T.T.T.の内部でも面白いことが行われている。京都芸術センター側からの提案で、練習の空き時間に受講生同士で専門分野の講義をする時間を設けたのだ。たとえば、M・C・フォルマッギアさんはバリ舞踊を、金孜娘さんと張美花さんは韓国舞踊を、西洋と日本の演劇を研究しているA・ブラムナーさんは、能の構造をわかりやすくレクチャーした。最も“日本的”で、ともすれば閉鎖的なイメージのある伝統芸能の世界で、グローバルな交流が生まれている。
 明治以来、日本は文化の根を見失い、西欧の文化を輸入するばかりだった。近年、ようやく伝統文化に関心が高まってきたが、実際に触れる入口がわからない場合も多い。20年近くの実績があるT.T.T.と、京都芸術センターという公共機関が協力することで、伝統と現代が結びつく“きっかけ”となり、豊かな文化を育む土壌になることを願っている。

(フリーライター・山下里加)

トラディショナル・シアター・トレーニング2002
[主催]京都芸術センター
[日程]7月11日~8月2日
[会場]京都芸術センターほか

 

京都芸術センター
[オープン日]2000年4月
[所在地]〒604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
Tel. 075-213-1000 Fax. 075-213-1004
[施設概要]昭和初期に建てられた旧明倫小学校校舎を改装した施設。制作室(12室)、ギャラリー(2室)などが設けられているほか、現在も地元のスポーツ活動に利用される旧体育館はフリースペースとしても活用されている。

 

地域創造レター 今月のレポート
      2002.9月号--No.89

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2002年度地域創造レター9月号-No.89京都市 「京都芸術センター伝統芸術創造プログラム 『トラディショナル・シアター・トレーニング2002』」