一般社団法人 地域創造

東日本大震災の被災地より 茨城県水戸市 再開した水戸芸術館

 開館20周年を迎えた今年、東日本大震災当日から3日間、水戸芸術館は延べ250人が滞在する臨時避難所となった。震度6弱を記録した水戸市では、駅の南側を中心に建物の倒壊が激しく、学校などの指定避難所も被害を受けたためである。館では職員全員が交替で緊急対応に奔走。トイレ用の水を広場の池からバケツで運び、汚物を流す作業も昼夜交替で行った。

  3日後、市民は自宅や指定避難所へと移動した。一方、館は施設には大きな損傷は見られなかったものの大きく破損したパイプオルガンや外壁のヒビなど損傷を即座に把握できる状況ではなく、開催中だった「クワイエット・アテンションズ」展を中止し、当面の休館を宣言した。
  「3部門の芸術監督と主な学芸員、事務職員が集まって定期的に会議を行いました。開館以来、それぞれの事業の進捗が異なることもあり、3部門が同じテーブルに着く機会がほとんどなかったのですが、震災によって生まれた空白で話し合いの場がつくれたのです」と現代美術センター芸術監督の浅井俊裕さんは言う。
  部門ごとでも、これまでの活動を振り返る会議が重ねられた。演劇部門ACM劇場企画制作の古川真由美さんは、「これまでは専属劇団ACMを中心に良質の舞台を見せることが主軸で、ワークショップや地域との繋がりを意識した活動はほとんどなく、その反省がありました」と言う。そこで専属劇団は6~7月に地元の幼稚園での無償公演を続けた。また、震災前から古川さんが個人的に交流していた地元のアマチュア劇団にも声をかけ、「今、演劇にできること」「水戸で演劇をすること」を何度も話し合った。
  音楽部門でも「これまでは水戸室内管弦楽団の定期公演など鑑賞プログラムがメインでしたが、もっといろいろな音楽の楽しみ方を提案できるのでは」(音楽部門学芸員・高巣真樹さん)といった声が上がる。古川さんも高巣さんも20代後半。以前から美術部門の若手も交えての交流があり、震災を機にそれまでの想いが溢れ出てきた。
  そこに、美術部門が「CAFE in Mito 2011」で7月末に再開することが決まった。美術部門は以前から地域との連携企画を行っており、特にCAFE in Mitoでは町中で積極的にインスタレーションをしてきた。「でも、今回は館内での展示に集中しました。まずは市民の方々にギャラリーに来ていただいて、ゆったりとした時間を過ごしてもらいたかった。それと絵画を中心とした展示で空間をつくり、演劇や音楽などができる余地をつくりました」と浅井さん。

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「CAFE in Mito 2011」展示風景(作品は西尾美也 《家族の制服[東田/雑野]》)

 この呼びかけに対し、2部門は素早く反応した。演劇部門では、ギャラリー内でのダンス公演や朗読会だけでなく、「美術部門が町に出ないかわりに、今回は私たちが出よう」と、町中のカフェやバーで短い演劇や朗読会を行う「プレイ×プレイ プロジェクト」を企画・実施したのだ。出演者は、劇団ACMと地元の8劇団。会期中、22カ所で30作品・82ステージを上演し、ワインを飲みながら朗読を楽しむといった新しい観劇スタイルを市民に示した。

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「プレイ×プレイ プロジェクト」の模様。
劇団ACMの劇作家・演出家の長谷川裕久が市内のカフェでリーディングを披露

 音楽部門も新しい一歩を踏み出す。CAFE in Mitoでは、中川賢一さんがピアノ演奏する『春の祭典』を聴きながら小学生たちが自由に絵を描くワークショップなどを開催。また、地元の演奏家の協力により、演奏会の最中に地震が発生したという想定で本物のお客様がいる中で避難訓練を行う「避難訓練コンサート」も企画した。
  一方、中心市街地の空洞化に悩む商店主などからも「芸術館が開かないと町に活気が出ない」という声が上がる。休館中に町の有志たちによる「水戸芸術館を愛する市民の会」が結成され、商工会議所が「プレイ×プレイ プロジェクト」のパンフ制作を援助するなど、積極的に支援する動きが起こる。
  浅井さんは、「水戸芸術館が20年間かけて築いてきた地域との関係が成熟していることを実感しました。この関係を育てていくための次のアクションが必要な時期に来ていると思います」と語る。
  優れた芸術表現を鑑賞する場だけではなく、地域住民との協働へ3部門が動き始めた水戸芸術館。次代をつくってきた同館の活動に注目し続けたい。

(アートジャーナリスト・山下里加)

●水戸芸術館
1990年に開館した美術館、コンサートホール、劇場から成る複合文化施設。美術・音楽・演劇の各部門に芸術監督が置かれ、専属の劇団や楽団をもち、美術部門はコレクションをほとんど収蔵しないなど、ソフト重視の先鋭的な活動で知られる。震災の一時休館を経て、7月9日、10日の水戸室内管弦楽団第82回定期演奏会を皮切りに、7月30日に美術部門が「CAFE in Mito 2011」で再開館。演劇部門は、9月11日に女優の真野響子の公演の後、同月17日から劇団ACMによる劇場再開記念公演『新・幕末純情伝』を行う。
※「CAFE in Mito」は2002年から始まった観客参加型アートや街なか活性化を含んだシリーズ企画。2004年、2008年にも開催された。

 

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