一般社団法人 地域創造

東日本大震災の被災地より 横浜市 横浜みなとみらいホール「避難訓練コンサート」

 水戸芸術館が初めて企画した「避難訓練コンサート」に多くの問い合わせが寄せられるなど、リスクマネジメントへの関心が高まっています。今回はその先行事例となった横浜みなとみらいホールの「避難訓練コンサート」について紹介します。
 

 横浜みなとみらいホールでは、2007年から年1回継続的に「避難訓練コンサート」を実施してきた。これまでの火災から今回初めて地震と津波に想定を変更。9月20日午前10時から約2時間にわたって訓練が行われた。
  参加したのは、横浜市消防音楽隊の演奏家40名、ネットやチラシで募集した市民376人(定員500名)など。観客は指定された席のとおり、1階から3階まで散らばって着席した。コンサート中に相模湾でマグニチュード7.9の地震が発生、横浜市内で震度6強を記録し、ホールも一部損壊。津波警報は結果的に発令されなかったが、大きな揺れのため津波が来るかもしれないので一時避難待機する“自主避難”を想定した。
  「ホールの照明がチカチカと点滅し、ゴーッという音がします。それが地震の起こった合図なので、身を守る姿勢を取ってください」といった司会者の説明の後、コンサートが始まった。
  地震が発生すると、照明が暗転。40秒で非常灯に切り替わる。ほの暗い中、ホールスタッフたちが「椅子の間に屈んでください」「バッグを頭の上に載せてください」と声を張り上げる。「ホールは安全です。状況を確認していますのでそのままお待ちください」というアナウンスや、「怪我をしている人はいませんか?」「気分の悪い人はいませんか?」という声、雑然とした音が入り交じり、待機時間が長く感じられる。非常用袋を背負い、首からメガホンと笛をぶら下げ、懐中電灯を手にしたレセプショニストの誘導で、津波の危険を避け、上の階のホワイエに避難した。その後、ホールに戻り、藤﨑信裕副館長と松原正之西区消防署長による解説を挟み、コンサートが再開された。

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上:レセプショニストの誘導で避難する観客
下:ステージの消防音楽隊も低い姿勢を取る

「待機時間に、裏ではホールスタッフの安全確認、施設の被災状況確認、練習室やリハーサル室などバックヤードの確認、情報収集、防災センターへの連絡、避難誘導経路の確保などスタッフは慌ただしく動いています」と藤﨑副館長。
  こうした非常時に第一線に立つのがレセプショニストだ。横浜みなとみらいホールでは指定管理者でJV(*)を組む横浜市芸術文化振興財団が約100人を直接雇用し、大ホール公演開催時には25名ほどが配置される。勤務10年を越えるベテランもいて、日頃から危機管理についての問題意識を共有している。

*公益財団法人横浜市芸術文化振興財団、株式会社東急グループ、株式会社東京舞台照明による共同事業体

 レセプショニストを統括する財団職員の林田佐和子さんは、「これは正規の防災訓練なので、事業担当ではなく管理サイドの主導で消防署とも相談しながら内容を組み立てました。毎回、レセプショニストにはその日の公演での持ち場と業務内容をまとめたシフト表を配布しますが、そこに緊急時の動きも明記されています。例えば、Aという持ち場の人は、扉を開けてパーティションを立てるとか、救護用の備品を運ぶなど。今日の訓練は、実際に演奏家とお客様にご協力いただき、それに従ってどれだけ動けるかを試す実地研修です」と言う。
  最大のポイントは、横浜市が東日本大震災を受けて8月に公表した「津波からの避難に関するガイドライン」に則って訓練が行われたこと。最大津波予測が1703年の元禄地震を踏まえて2.1メートル(満潮時3.0メートル)に修正され、建物の3階以上、つまり「より高いところ」への避難が求められたのだ。
  「実際にやってみると、非常階段は下に向かって、外に向かって誘導するようにサインが出来ているとか、防災センターが地下1階にあるとか、上階のホワイエは狭いので2,000人を大ホールエリア内だけで避難させることは難しいとか、色々な課題が見えてきました。今回も車椅子の方や目の不自由な方が客席にいらっしゃいましたが、お客様のご協力がなければケアから漏れてしまう可能性もあります。想定外のことに備えるのが訓練とはいえ、本当に何が起こるかわからない。毎回緊張します」(林田)
  演奏家も職員も観客も、非日常のホール空間だからこそ気持ちをひとつにできる─全国の公立ホールが取り組むプログラムとしてぜひ参考にしてもらえればと感じた。

(坪池栄子)

◎横浜みなとみらいホール
3層の客席をもつクラシック専用の大ホール(2,020席)、シューボックス型の小ホール(440席)、リハーサル室、練習室などを有する大規模な施設。ガラス張りのホワイエ、上層階への誘導などが課題に。
◎東日本大震災時のみなとみらいホール
3月11日、大ホールでは佐渡裕指揮によるBBCフィルハーモニックのコンサートなどが予定されており、リハーサル中だった。スタッフがすぐにバックヤードに誘導して安全を確認。交通機関が麻痺したことから事業を中止、一部の演奏家も足止めに。避難所には指定されていなかったが、市から帰宅困難者を受け入れてほしいとの連絡が入る。翌日昼のコンサート主催者が事業の実施を決定していたため、朝9時からの準備が必要だったが、10分ぐらいで総合的に判断して受け入れを決定。約200人の帰宅困難者に物資提供などの緊急対応を行った。

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