一般社団法人 地域創造

東日本大震災の被災地より 福島県いわき市 全館オープンしたいわき芸術文化交流館アリオス

 11月5日・6日、全館再開したばかりのいわき芸術文化交流館アリオスを訪問した。いわき市は3月11日に震度6弱、4月11日・12日にも震度6弱の余震に見舞われ、本館ロビーは5月5日まで避難所、別館は10月中旬まで余震で損壊した市役所の臨時分庁舎となっていた。

  広大な面積をもついわき市の中核施設であるアリオスは、開館当初から学校や地域へのアウトリーチ「おでかけアリオス」と、市民と共に館内や周辺を活性化する活動の種を育てる「アリオス・プランツ!」を自主事業の柱として実施してきた。震災後に事業を見直し、改めて「子どもたちの心に平穏を取り戻す」「市民を元気にする」方針を打ち出し、6月から施設の再開に先駆けて両事業を実施。取材時にもロビーでは市民が集い「アートおどろく いわき復興モヤモヤ会議」を開いていた。震災の経験をどのようにとらえているのか、おでかけアリオス担当の前田優子さんと大石時雄支配人に聞いた。
  昨年度約40カ所で実施したおでかけアリオスを今年度は60カ所に増やす計画で、派遣先を調整中に被災。前田さんたちは4月早々から分担して学校や支所など35カ所に出向き、例えば学校では、子どもたちの春休みの過ごし方、余震への怯え、屋外活動の制限、給食の状況、生徒数の増減などについて話を聞いた。しかし、仮設住宅や原発など状況が日々変化し、その情報を直接役立てることはできなかった。6月には学校へのアウトリーチを再開したが、話が止まらないほど興奮する子どもがいるなど、いつもと様子が違っていたという。
  「先生は子どもたちが感情を表に出すのは必要なステップだからと喜ばれていたが、本当に驚いた。同じ時期、パーカッショニストの渡辺亮さんの親子向けワークショップを一緒に企画してきたお母さんたちと震災後に会ったら、皆さんこのままここに住み続けていいのか悩んでいた時期で、時間をかけて話し合っていくなかで、ワークショップで繋がった仲間がいたから、一緒に子どもたちを見守っていければという気持ちの確認ができた」と前田さん。相談の結果、渡辺さんのワークショップは回数を増やして実施することを決めた。
  また、弦楽四重奏団のレジデンスをまちづくり団体と一緒に企画したことのある勿なこそ来地区は津波で被災。今は浪江町から避難してきた人たちの仮設住宅も団地内に建設されている。「震災後しばらくはイベントどころではないと言われていたが、今度、団地の人にも参加してもらって浪江の人との交流を図るお茶会付コンサートを一緒にやることになった。日々試行錯誤しながら、アリオスだからやれる事業とはどういうものなのかを考えている」(前田)
  大石支配人は、出張先の仙台で被災し、小学校で8日間の避難所生活を余儀なくされた。
  「僕は震災前から、施設はルールを守って他人に迷惑をかけなければ、どのように使ってもらっても構わないと考えてきた。今後、ますます環境が悪くなることが想定される時代に、地域社会が抱えている問題やニーズに対処できない施設が生き残ることはできない。震災後に1日も早く施設を再開すべきだという声もあったが、避難所として必要とされているのならそれに対応してこその公立施設だから、あせる必要はないとスタッフには言い続けた。今回の震災で肝に銘じたのは、スタッフがいて、役割分担があり、指揮命令系統がある前提の『危機管理マニュアル』は役に立たないということ。アリオスは市職員と地域外から採用された嘱託職員という寄せ集めの体制だったので、開館以来、風通しのいい組織づくりと職員の人間関係の構築に努力してきた。その一環ですべての課が関わって行う一種のクラブ活動として『防災プロジェクト』(年間100時間以上)や『コミュニケーション向上委員会』『ゴールデンウィーク・フェスティバル企画会議』などを行ってきた。今回はそこで育まれたチームワークが市民の方々と結びあい、震災を乗り切ろうという力になったように思う。これからも、施設すべて、事業すべてを使って、いわき市民の連帯を図るようなアリオスでありたい」と支配人。来年度スタートする2次5カ年計画では、それを踏まえた体制や事業の見直しが検討されている。

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11月6日に行われた3回目の「いわき復興モヤモヤ会議」。ナビゲーターは、現代美術家の藤浩志さんとニッセイ基礎研究所の吉本光宏さん。今回は、大阪の釜ケ崎であいりん地区の人たちと表現活動を行っているココルームの上田假奈代さんや津波に耐えて残った歴史的建造物の保存活動をしている豊田善幸さんらがゲストスピーカーとして参加。©鈴木宇宙

●いわき芸術文化交流館アリオス
2008年4月部分開館、2009年5月全館開館。老朽化した平市民会館の跡地、平中央公園隣にPFI方式により建設された複合文化施設の本館と旧音楽館を改修した別館で構成。事業は直営で市嘱託職員として技術・音楽・演劇等の専門職員を雇用。

●全館再開までの歩み
3/11 東日本大震災により貸館、主催事業、チケット販売業務、施設利用の当面中止を発表。本館ロビーの避難所運営開始
4月 「おでかけアリオス」のためのヒアリング実施
4/11・12 震度6弱の余震により市役所本庁舎損壊
4/18 本庁舎機能の一部を別館に移し、小ホールを市民課執務室に
5/5 避難所運営終了
5/11 平成23年度自主事業の見直し方針発表
5/16 払い戻し業務開始
6/4・5 おでかけアリオスをいわき総合高校でのリーディング公演『わが星』から再開
6/7 施設再オープンのスケジュール発表。6月~10月に改修工事等の安全対策を終えた施設から順次再開
6/25 震災後のモヤモヤを共に語り合う第1回「アートおどろくいわき復興モヤモヤ会議」でアリオス・プランツ!再開
7/8 「アリオスペーパー」発行再開
10/11 別館の臨時庁舎利用終了
10/13 アリオスのピアノを選定したピアニストの小山実稚恵によるピアノ再開ミニコンサート
10/15・16 再開プレ事業として「いわき街なかコンサート」を市民と協働で開催
10/19 本館大ホール、中劇場、小劇場再開
11/1 全館再開。シルヴィ・ギエム&東京バレエ団特別公演開催

(坪池栄子)

 

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