一般社団法人 地域創造

東日本大震災の被災地より 東京都千代田区 わわプロジェクト「つくることが生きること」 東日本大震災復興支援プロジェクト展

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上:被災各地の状況やボランティア参加数を記した写真展示
下:被災地の復興リーダーが語る映像展示 ©IFA

 

 東日本大震災からちょうど1年後の3月11日午後2時46分。東京都千代田区にある旧錬成中学校を改修して誕生した「アーツ千代田3331」では、時報と共に100人を越える来場者たちの黙祷が捧げられた。

 この日から3331では、「つくることが生きること」と題された東日本復興支援プロジェクト展が開催されていた。この1年間、被災地や被災者を支援してきた美術系アーティストや建築家、企業、NPOなど79組の支援プログラムをパネルや復興リーダーの等身大インタビュー映像、インスタレーションなどで紹介したものだ。

 展示室入口には震災の被害状況が具体的な数字で示され、正面にはMMIX Lab「3.11メモリアルプロジェクト」[*1]で後世に伝えるべく残されたぐにゃりと曲がった表示板や速度制限標識が置かれている。アーティストの遠藤一郎が各地を巡った、車体全体にメッセージが書かれた黄色いワゴン車も展示されていた。

 主催したのは、3331の統括ディレクターであり、東京芸大准教授の中村政人率いる「わわプロジェクト」。プログラム・ディレクターの新堀学(建築家)が、企画の経緯をこう語る。

 「去年の3・11以降、自分たちには何ができるんだろう、何かしなくちゃと走りながら考えてきました。中村が美術系、私が建築系のネットワークをもっていたので、人と人の繋がりのなかで被災地のニーズと支援者の活動を繋ぐプラットフォームができないかと考え、わわプロジェクトを立ち上げました」

 まず、3331の一画を関係者が自由に使える場所として開放。被災3県にプロジェクトリーダーを据え、各地で活躍する復興リーダーを発掘し、彼らの紹介や被災地の生の情報を発信するウェブから始めた。また、現地を訪ね、仮設住宅で離ればなれになった人たちを繋ぐ媒体が必要だと感じ、昨年9月からは『わわ新聞』[*2]の発行も始めた。

 今回の展覧会は、こうした取り組みを通じて知り合った人やプロジェクトを東京でももっと理解してもらいたいと企画したものだ。

 例えば、富士フイルムが行っている「写真救済プロジェクト」。ボランティアとして活動してきた同社の吉村英紀は、「去年の3月下旬ごろから、被災した写真がなんとか綺麗になりませんか?という問い合わせが寄せられ始めました。それでホームページで洗浄の仕方を紹介し、その後の現地調査を踏まえ、4月から6月にかけて毎週末、岩手から茨城まで延べ80カ所の被災地で洗浄指導活動を行いました。被災地から持ち帰った17万枚もの写真を、社員やOBたち延べ1,500人で洗浄したこともあります。社としては写真のアフターサービスだと思っていますが、『一枚の写真が生きていく支えになる』という被災者の言葉に、写真というものの存在を改めて考えさせられました」と言う。

 アーティストの椿昇が主宰する「VITALFOOT PROJECT」は、原子力発電に頼ってしまった現代文明への反省から、自転車を支援のシンボルに据えたものだ。かつて競輪の中野浩一の自転車をつくった名工に依頼し、非常時にも使えるように100kgの重さに耐える荷台を付けた自転車を新たに設計。被災地のリーダーに寄付する活動を展開している。

 また、わわプロジェクトを通じて被災地と支援者が結ばれた宮城県石巻市の「ユイノハマプロジェクト」も紹介されていた。牡蠣の養殖で世界的に知られた桃もものうら浦は津波によって壊滅状態となり、21人いた荻浜小学校の子どもたちも仮設住宅などに転居。浜の復興を願い、子どもたちと地区の人を長期にわたって支援しようとアーティストの岩間賢と狩猟家の大島公司がプロジェクトを立ち上げ、みんなが集える浜の集会場が必要だと中村に相談。住宅ユニット4基の支援が実現し、拠点が完成した。

 このほか、ソーシャルメディアを通じて知り合った首都圏在住の広告プランナーらが立ち上げた「アート・フォー・ジャパン」[*3]や石巻商店街の再生を目指して地元有志とまちに関わる専門家が集まって立ち上げた「ISHINOMAKI2.0」など、会場はプロジェクトに携わる人々の熱い思いで溢れていた。

(ノンフィクション作家・神山典士)

 

●「つくることが生きること」東日本大震災復興支援プロジェクト展
[日程]3月11日~25日(トークやイベントなど多くの関連事業あり)
[会場]3331アーツ千代田
http://2012.wawa.or.jp/
なお、この展覧会は2月17日からソウルで、3月1日からは台北でも開催され、今後アジア、ヨーロッパでの巡回展も予定されている。

 

*1 MMIX Lab「3.11メモリアルプロジェクト」現代美術のアーティストである村上タカシを中心とした取り組み。打ち上げられた漁船などの非現実的な世界をあえて残すことで、震災の記憶を後世に伝えていくプロジェクト

*2 わわ新聞年5号。発行部数5万部。各地のNPOやNGOを通じて3万8,000部余りを手渡しで被災地の仮設住宅を中心に配布。「仮設発のコミュニティづくり、仮設暮らしのこころの健康等など、2年とも3年ともいわれる仮設での生活を充実させる具体的なノウハウを特集しています」(新堀)

*3 アート・フォー・ジャパン「未来オークション」を開催し、アーティストや漫画家がこれから生み出す作品の権利を売却して、義援金にするプロジェクト

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