一般社団法人 地域創造

徳島県/東京都千代田区 「杜舞台」東京展

 7月6日、東京・アーツ千代田3331(以下、3331)で徳島県の農村舞台で行われているアートプロジェクト「杜舞台」を紹介する展示がオープン。人形浄瑠璃のデモンストレーションやシンポジウム「芸術と持続可能性」が開催された。このプロジェクトは、同県で開催された国民文化祭(2007年、12年)の第2回のイベントとしてスタートしたものだ。

  徳島県には南東部の那賀川、桑野川、勝浦川沿いに農村舞台が数多く残っている。そのほとんどが人形浄瑠璃の舞台で、1960年代に約200棟あったものが今では100棟にまで半減。第1回国民文化祭において「文化立県とくしま」を掲げ、阿波人形浄瑠璃を文化資源としてクローズアップした県では、以来、継続的な支援活動を行ってきた。
  杜舞台はそうした流れを受け、地元出身の現代美術アーティストで東京藝術大学先端芸術表現科教授のたほりつこさん(イスア推進会議代表)が立ち上げたものだ。年2回、春・秋に農村舞台でのインスタレーションを行うことを目指し、今年度も5月に拝宮の白人神社などで芸大の学生などによる作品が展示された。

 東京展では、宙に浮かんだ透明な風船の中で青白いLEDが静かに点滅する『Water Light』(中村浩司)の作品など、その一部が紹介された。たほさんと出会い、農村舞台との縁を取り持った佐藤憲治さん(徳島県職員でNPO法人阿波農村舞台の会)は、「坂の上でポツンと1個だけ光っている風船を目指して上っていくと、そこから下に見える農村舞台の前で無数の灯りがゆらゆらしながら点滅していた。八百万の神様が『よう来たな』と言ってくれているみたいだった。農村舞台はその神聖な空気感が一番の魅力だと思っていたが、現代アートがその魅力を見事に引き出してくれた。100棟全部使ってアートプロジェクトをやるのが僕の夢になった」と目を輝かせる。
  たほさんは、「2007年に上勝町で作品をつくった時に、限界集落に近い状態を目の当たりにして、何かやらなければと思った。東日本大震災で背中を押され、イスアを設立した。建物ではなく農村舞台があるその空間が本当に素晴らしい。集落はそれを支えてきた生活文化、自然との付き合い方があった。その精神が受け継がれるためにはどうすればいいか。アートはそういう場所の神聖さを外部に伝え、生活文化を再発見する手段になれるのではないか」と話す。
  こうした地域の情報を東京で発信することの重要性について、東京展を主催した徳島県の町田豊治とくしま文化振興課長は、「国民文化祭が終わり、今後どうやって4大モチーフの魅力を発信していくかが課題となった。県では『阿波スタイルの豊かな暮らし実現事業』という新たな枠組みを設け、初年度として農村舞台に光を当てた。東京展をやることで、地域で完結していたのでは得られないようなご意見を広くいだだけるのではないかと考えている。3331にあるフードラボで徳島の食材を提供した料理教室も行い、徳島の魅力をトータルに紹介したい」と話す。

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中村浩司『Water Light』(イスア国民文化祭2012 杜舞台 拝宮/紅葉川)(C)isadc
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6日には、那賀町青年団が旗揚げした人形浄瑠璃一座「丹生谷清流座」もパフォーマンスを披露した。県内最多45棟の農村舞台を有する同町では、那賀町農村舞台再生協議会を組織。一座の旗揚げや杜舞台への参加もその一環。平成24年度地域づくり総務大臣表彰受賞。
 

 会場となった3331は、ゼロダテ(秋田県大館市)やヒミング(富山県氷見市)などのアートプロジェクトを主導してきた中村政人さんが統括ディレクターを務め、地域文化の情報発信基地としても注目されている施設。
  「開館3周年で主催・レンタル含めて約1,000本のイベントが行われたが、地域関連のものも多い。料理を通じて地域の問題に向きあうというコンセプトのフードラボを設けるなど、アート関係者だけでなくいろいろな人が出会える場を目指してきた。3年経って、その人たちがコラボレーションするようになってきた」と中村さん。こうした蓄積による新展開として、地域食材の売店や飲食店、アーティスト・イン・レジデンス情報を発信するサイト「MAJ(Move arts Japan)」にも着手するとのこと。
  シンポジウムでは中村さんもパネラーとして地域の事例を紹介。当日はコミュニティスペースで千代田区民も展示する生け花展も行われ、ごった返していた。徳島だけでなく、地域と東京が混在し、アートと生活が混在して情報発信されることの面白さを実感した取材だった。

 

(坪池栄子)

 

●「杜舞台」東京展
[会期]2013年7月6日~21日
[主催]徳島県/文化立県とくしま推進会議
[共催]たほりつこ/イスア推進会議

 

◎アーツ千代田3331
2010年6月開館。旧練成中学校をリニューアルした民設民営のアートセンター。中村政人氏が共同代表のひとりとなっている合同会社コマンドAが施設計画と運営を担当。
http://www.3331.jp/
◎文化立県とくしま
2007年の国民文化祭に際し、「文化立県とくしま」を掲げて「阿波藍」「阿波人形浄瑠璃」「阿波おどり」「ベートーベン第九」の4大モチーフを徳島らしい文化資源としてクローズアップ。平成20年度に取り崩し型の2億円基金「文化立県とくしま推進基金」を創設し、支援を継続。2012年第2回国民文化祭でも4大モチーフを柱とし、平成25年度には基金を2億円増資。
◎イスア推進会議
イスアとはinter sustainable artsの略。持続可能な環境芸術の開発と発信を目的に、2011年設立。徳島県の農村舞台でのアートプロジェクト「杜舞台」を12年にスタート。今年度も5月、9月に実施。
http://www.isadc.com/

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